第5話 家政婦の購入

 老人はいつも通りの慣れない手つきで、マウスカーソルを動かした。背景は真っ黒で、何のサイトなのか全く分からない。一列に「リンク」と書かれたボタンが並んでいるが、何のリンクなのか分からない。そもそも、むやみに押すのは少し怖い。

「説明ページはあるだろうか・・・・・」

 取り合えず、フッターにリンクがあるサイトは多いから、一番下まで画面をスクロールすると、狙いは当たって、サイト説明のリンクが貼ってあった。

 サイト説明にはこう書いてあった。


『みなさんに説明します。魂コレクターズとは、ショッピングサイトです。何が売ってあるかは、見ると分かると思います。このサイトは速達便で送ります。長くても2日です。そして、魂コレクターズで購入すると、ある特典が付いています。それは、メールでお伝えいたします。あなたも魂コレクターズで人生を変える素敵なショッピングをお楽しみください』


 ――こんなけしからん説明、どこの若造がやったのだ。

 色々、説明されていないところが多すぎる。何が売ってあるかも書いてない、特典も書いていない・・・・・これではダメではないか。

 もう一度、元に戻ろうと思って左矢印を押すが、やはりだめだ。アプリを落とそうかと思ったが、それもダメだった。


「どうする」

 悩みという点で回路ができたのはその時だった。

 ――ショッピングサイトなら。

 老人はサイトの検索ボックスに【お手伝い】と売って、検索した。

 ヒットしたにはしたが、どれも【リンク】と書かれたボタンばかり。肝心の商品名は表示されていない。

(試しに一度くらいなら・・・・・)

 そう思って、一つのリンクを押すと商品ページがやっと出てきた。

「家政婦の須磨加奈子の魂」

 と書かれたそのページは実に奇妙なものだった。タイトルと写真、購入ボタン、関連商品のリンクと書かれたボタン・・・・・以上。

 だが、老人は写真に興味をそそられた。なぜって、ビンの写真ともう一つ、かわいい家政婦の女の子の写真があったからだ。

「この子なら、しっかり我が家の家事をやってくれるんじゃないか?」

 これは、購入するべきだ。

 何にも考えずに購入ボタンをクリックし、名前、住所、メールアドレス、電話番号などを入力した。


 そういえば、商品購入についての説明を読んでなかったと思いだした。老人は購入確定ボタンを押す前に、ページ下にある説明を読んだ。


『このサイトの購入では、名前、住所、メールアドレス、電話番号、カード番号を入力してもらい、それから数量やカードのポイントなどを入力してもらいます。商品の購入が済んだら、メールが送られます。そのメールからこれからのショッピングに使えるポイントをゲットすることができます。ぜひ、ご利用くださいませ。それでは、快適なショッピングをお楽しみください』


 ここは、あまり変なところは感じられなかった。なら、大丈夫なのだろう。老人は心の過半を安堵で埋めると、購入確定ボタンをワンクリックした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る