#30「ランキング」
ヒューロが騎士団に入団してから数週間。月の終わり頃になると、何やら騎士見習い達はそわそわとしていた。
昼下がり、段々と外の温度も上がってきた時、宿舎の廊下も熱気に包まれていた。
「おい、俺の今月の順位は?」
「私は?うわ~微妙・・・・・・」
「今回もヴィリアンが一位か」
通りすがりのヒューロは、そんな人だかりを遠目に見ていた。人の頭ばかりでよく見えないが、黒板に何やら表のようなものが書かれている。
そんな烏合の衆の中から、何やら見慣れた顔が数人出て来た。コンラント、レルナ、オリビアである。しかしそんな三人の中で、唯一コンラントだけが肩を落とし青ざめた表情をしていた。そんなコンラントを両隣の二人は慰めていた。
「あ、コンちゃん!どうしたの?」
「また・・・・・・」
「また?」
「また、ランキング最下位だった・・・・・・!」
コンラントの身体に電撃が走る。その結果に思わずコンラントは膝を着いてしまった。
「ええ~~~~!?・・・・・・で、ランキングって何?」
最下位というコンラントの結果に驚きつつも、ランキングという聞きなれない言葉に疑問を覚える。ヒューロは約一か月近く騎士見習いとして生活してきたが、そんなシステムがあるとは知らなかった。
「あら、知らなかったの?ここではポイント制のランキングが存在するわ」
レルナは腕を組みながら説明をする。
「ポイント?」
ヒューロが聞き返すと、オリビアが手を挙げ説明を続けた。
「はい!騎士見習いは様々な任務や決闘を通してポイントを獲得できます!まず任務についてですが、先輩たちの歳から、上級生の騎士見習いの任務に同行することになります。そこで活躍すると、その貢献度・任務の難易度に応じてポイントが与えられるんです。次に決闘ですが、騎士団が開催する公式の大会などに出ると、順位に応じてポイントがもらえます」
「ほうほう」
「それと、最後に・・・・・・」
「おいコンラント!てめえまた練習台になれや!」
がなりの混じった声が響き渡る。声のする方を見やると、ヴィリアンが廊下の奥から歩いてくる。まるで帝王といった様子の彼が歩く先は、人が避け自然とコンラントへの道が出来上がっていた。
「げっ、ヴィリーだ。やだよ!誰が戦うか!」
「ほー、逃げんのか、ザコンラント」
「誰が雑魚ンラントだ!いいぜ!今すぐ受けてやる!てめえは教官呼んで来い」
挑発されたコンラントはヴィリアンの口車に上手く乗せられてしまう。そして二人は広場の方へ向かって行った。
「今のは?」
「はい、今のは模擬戦の申し込みです。教官立ち合いの元模擬戦を行って、勝った方が負けた方のポイントを奪えるという仕組みになっています。奪えるポイントは審判である教官が試合前に両者の実力を加味して決定します」
「なるほどね」
「“なるほどね”じゃないわ。私達もコンラントを追わないと。彼ボッコボコにされるから手当の準備をしないと」
こうして三人もコンラントの後を追って広場に向かうのだった。
三人が広場に着くと、そこには既にちらほらと人だかりができていた。先月一位だったヴィリアンの戦闘を観るためであろう。全員が険しい目つきをしながら、相対する二人を見守っていた。
数歩分の間隔を空けて睨み合う両者。その間に審判である教官が割って入ってきた。
「それでは、ヴィリアン・アンテリージョン対コンラント・ブラッシュの模擬戦を始める!ヴィリアンが勝った場合十ポイント、コンラントが勝った場合二十ポイントの譲渡とする!時間・武器無制限、では開始!」
審判が開戦の合図を取った。それを聞いたヴィリアンはすぐさまコンラントの懐に飛び込む。
「速い!」
見守っていたヒューロは思わず口からそう零してしまう。それほどまでにヴィリアンの動きは素早く無駄のない動きであった。
懐に飛び込んだヴィリアンは木刀をコンラントの腹部目掛けて水平に走らせる。それをコンラントはすんでのところで木刀をぶつけ防御した。木と木のぶつかる軽い音が鳴り響く。しかしコンラントは威力を殺しきれず後方に少し突き飛ばされた。ヴィリアンも同様で、反動を受け流し後方に軽くステップする。
「おいてめえ・・・・・・。なんで受け止めやがった」
尻もちを着いたコンラントはズボンの土を払いながら立ち上がる。
「危ねえからに決まってんだろ!」
「んなこと言ってんじゃねえ!なんで反応できた?」
「へ、俺も成長してるってことさ。今度はこっちから行くぜ!」
体勢を立て直し、今度はコンラントがヴィリアンに突撃していく。
その様子を見たヴィリアンは「はあ」とため息を吐くと、コンラントに向かって剣を投げつけた。それを剣で弾くコンラント。
「馬鹿が!武器を捨てたな・・・・・・ッ!」
その瞬間である。コンラントの腹部に強烈な衝撃が走った。見やると、剣を囮にヴィリアンが再び懐に潜り込み強烈な拳を叩きこんでいた。
「雑魚は雑魚らしく黙ってやられてやがれよ」
コンラントの耳元でそう囁くヴィリアン。それを聞いたコンラントは横目にヴィリアンを睨み付ける。
「き、きたねえ・・・・・・ぞ」
「おいおい、まさか、嘘だろ?お前はこの数年間何を学んできたんだ?いいか?闘いってのはな、どんな手を使おうが、最後に生き残ってたやつの勝ちなんだよ。お前は俺に負けた。それだけだ」
それを聞き終えたコンラントは地面に倒れこむ。
「勝者ヴィリアン・アンテリージョン!」
「十ポイントか。まあいいかしっかり貰って行くぜ、ザコンラント」
ケケケと笑いながらヴィリアンはその場を去って行った。
「はあ、まあ結果は見えてたわ。さあコンラントの手当てに向かいましょう」
レルナとオリビアは地面でうずくまっているコンラントの元へ向かう。ヒューロもそれに続くのだった。その眼差しにヴィリアンの後姿を焼きつけながら。
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