#27「謎の男」
図書館から出て、仮面の男に付いて行くヒューロ。謎多きその男について様々な質問をする。
「あの、名前はなんていうの?」
「・・・・・・」
「どうして僕が魔法使いだって分かったの?」
「・・・・・・」
「なんであなたは魔法について知ってるの?」
「・・・・・・」
しかし、返ってくるのは無言と言う返答だけであった。ますます謎が深まるばかりである。ヒューロは得体のしれない相手に付いて行くのに少しだけ恐怖を覚えたが、それよりも魔法について知れるかもしれないという好奇心が勝り、とりあえずこのまま付いて行くことにした。
しばらく歩くと、ミナタの中心街から少し離れた林に辿り着いた。すると男は立ち止まる。どうやらここが目的地らしい。
「ここなら誰にも見られないだろう・・・・・・」
マスク越しの籠った声を聞いた瞬間、ヒューロは背筋がゾッと冷たくなるのを感じた。何かをされる、そう思ったからである。しかし、男はなんの素振りも見せない。身構えていたヒューロだったが、少しづつ警戒を解いていく。それを知ってか知らずか、男はその間も林の中を突き進んで行く。
少しすると、開けた場所に出た。
「ここだ」
男はそうとだけ言うと近くにあった切り株に腰を落とす。そして、隣にある切り株を親指で指し示すと、まるで座れとでもいう様に合図を出した。その指示に従うヒューロ。硬くごつごつとした感触が臀部に伝わる。まるでぎこちないこの場の雰囲気のようだなとヒューロは感じた。
「あ、あの、魔法について教えてくれるんですよね?」
ヒューロは堪らず問いかける。それに男は辺りを軽く見渡すと、「ああ、だが少し待て」と呟いた。
それから数分後、近くの茂みから何者かが出て来た。
「あれ?ヒューロじゃん」
「え?モーリス!?」
巨大な丸太を担ぎ上げたモーリスがその場に現れたのである。突然の再会にヒューロは思わず駆け出した。
「え?なんでここにいるの?」
「ユファさんに修行付けてもらってんだ!」
そう言ってモーリスは男の方を見やる。どうやら男の名前は「ユファと言うらしい」
「修行?なんの?」
ヒューロはモーリスに問いかける。モーリスはその場に丸太を置いて口を開いた。
「実は、俺も騎士になろうと思って!」
「ええ!」
まさかの答えにヒューロは驚きの声を上げる。
「俺もそれが良いって思ってたんだ!」
ヒューロは以前からそう思っていた。突如開花した謎の身体能力、それを活かす機会はないかと。それに一緒に騎士を目指せるそのことに何よりも喜びを感じていた。
「でもどうやって・・・・・・?」
「一ヵ月後に、騎士見習いの編入試験があるみたいなんだ。それに参加しようと思って」
「へえ、そんなのがあるんだ」
「なんだ?知らなかったのか?まあ、かく言う俺もユファさんに教えてもらって知ったけど。だから今それに向けて鍛えてんの!」
そう言うと、モーリスは剣をぶんぶん振る仕草を見せる。
「どうして騎士になろうと思ったの?」
「それは・・・・・・。なんかかっこいいじゃん!」
一瞬、一瞬だが、モーリスは何かを言い淀んだ。それに何やら悩む表情も見せる。ヒューロはそれに違和感を覚えるものの、その後の屈託のない笑顔を見せられ、これ以上は詮索するまいとした。
「そっか。それもいいと思うよ!」
「おう!」
「話は終わったか?」
ユファが二人の会話を切り上げる。
「は、はい」
「おう」
「じゃあ、モーリスは前に行った修行の続きをしろ」
「うす」
「お前はこっちだ」
そう言うと、ユファはモーリスを一人残して少し離れたところへ向かう。モーリスはと言うと、その場に立ち尽くし、目を閉じていた。
「あの、モーリスの修業って・・・・・・」
「来るべき時が来たら説明する」
ユファはそれだけ言うと再び切り株に腰を落とした。
「さてと、魔法についてだが、今俺が分かっていることを教えよう」
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