#26「騎士見習い」
騎士見習いの朝は早い。
早朝、日が昇る前に起床しそのままランニング。それが終わると急いで朝食を摂り、そのまま午後まで鍛錬といった具合である。
体力、忍耐力を育てることに重きを置いた生活。最初こそ寝坊や遅刻の多かったヒューロだが、徐々に慣れていき、今では当たり前のように日々をこなすことができるようになった。
そんな月日が流れたある日のことである。昼休み、いつものように昼食を終え、休憩を取るヒューロ。陽光に照らされ、綺麗な緑色をした木の葉が風に揺らされているのを眺めていると、そこにコンラントとレルナ、オリビアが駆け寄って来る。
「おつかれ~」
「あ、コンちゃん。お疲れ様」
「お疲れ様」
「レルナもお疲れ!」
「お兄ちゃーーーーーーん!」
「おわ!」
駆けつけた勢いのままオリビアが抱き着いてくる。ヒューロはあまりの勢いに後ろの木にもたれ掛かった。
「相変わらずだな・・・・・・」
コンラントはやれやれといった様子で頭を抱えた。
「だってこうするとみんなの心臓の音が伝わってきて、『生きてる~!』って感じがするんだもん!」
「でも、ヒューロは困ってるみたいだぞ?そろそろ放してやれ」
「うん分かった」
コンラントがそう注意すると、オリビアはあっさりと快諾しヒューロから離れる。
「どう?ここの生活には慣れた?」
一方でコンラントの後方からレルナが話しかける。それにヒューロは「うん。だいぶね」と答えると、ズボンの汚れを払い立ち上がった。
「ところで、魔法の調子はどうだ?」
コンラントは周囲に警戒しながらヒューロに問いかける。
「うーん、ここに来てからは使ってないな~」
「そうなんだ」
「今度コンラントの成績が良くなる魔法でも掛けてあげて」
「え?コンちゃん成績悪いの?」
「え、いや、ソンナコトハナイヨ」
唐突にレルナがそんなことを言うので、コンラントは片言になってしまった。これ以上成績のことについて聞くのは止めておこうと思い、ヒューロは「考えとくね!」と言う。そんな優しさにコンラントは「トホホ」と肩を落とすのだった。
「おい!ザコンラント!練習台になれや!」
遠くでヴィリアンの荒々しい叫び声が響き渡る。木刀を握っているあたり、どうやら模擬戦の相手を探しているようであった。
「ほら、お呼びよ」
「むむ、またヴィリアン先輩ですか!コン兄、あんなの相手にしちゃ――」
「おい!誰がザコンラントじゃ!いいぜ相手になってやらあ!」
激しい怒りを剝き出しにしてコンラントは運動場の方へ走って行った。
「まったく、いつもこうなんだから・・・・・・」
レルナは「はあ」とため息を吐き、首を振る。オリビアも「もう!敵わないのに!」とプリプリ怒っていた。
「じゃあ、コンラントの手当の準備してくるわ」
「私も~」
「うん、いってらっしゃい!」
こうして三人は運動場の方へ行ってしまった。
「さてと」
そう言うとヒューロはとある場所へと足を向けるのであった。
先程のやり取りから数分後、ヒューロは王立図書館に足を運んでいた。魔法についての知見を深めるためである。
しかし、探せど、探せど、魔法に関する本は中々見つからない。あきらめて帰ろうとしたその時であった。ドンッという鈍い音を出し、ヒューロは何者かにぶつかった。
「イテテ、すみません。よそ見してて・・・・・・」
「・・・・・・りたいか?」
見上げると、仮面を被った人物がそこには立っていた。声が籠っているものの、声音から男性と伺える。
何と言ったのか分からずに、ヒューロは「え?」と聞き返してしまう。
「魔法について知りたいか?」
男がボソボソとそう呟いた。
「え?魔法分かるんですか?」
「・・・・・・」
男は何も返してこない。しかし、ただならぬ雰囲気が男の周囲から漏れ出ていた。その気に当てられたヒューロは思わず口から零す。
「知りたいです、魔法について」
「であれば着いてこい」
男は踵を返す。それにヒューロは付いて行くのであった。
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