第三章

#25「新天地」

「これより、子供誘拐事件、通称『黒獅子』事件の関与者の処刑を始める!」


 断頭台に乗った男が、ミナタの中央広場に集まった群衆に大声で叫ぶ。


 処刑人の一人が、捕らえられた囚人達の内先頭にいる男を力尽くで押さえつける。


「俺は何もしてない。俺は何もしてないんだ!死にたくない!死にたくない!」


 男は寸前のところで命を乞い暴れ出す。しかし、処刑人は己の鍛え上げられた肉体を持ってその男を制した。すると、群衆の中からまだ十にも満たないであろう女の子が飛び出してくる。


「パパ!パパ!」


「アリア!」


 女の子は断頭台の近くまで小走りで近付いてきた。傍にいた騎士がそれに気付き、女の子を抱き上げる。


「こら、お嬢ちゃん危ないよ」


「放して!パパ!」


 それを見ていた執行人の一人が男の頭を押さえつけた。


「俺は何もしていな――」


 男が叫ぶと、間もなくして刃は振り下ろされる。


 女の子の顔に飛び散った血が張り付いた。


「ほら、血が付いちゃったじゃないか」


 騎士はそう言いながら女の子の顔を拭うのだった。




 王都「ルークト」、その玉座の間にその男、セプティマイオスは難しい顔をして座っていた。そんな彼に大臣である男が近付く。


「王。今日で黒獅子に関する者の処刑は終わりです。これで国家にあだなす者は減るでしょう」


「そうだな。しかし、こういう形でしか決着を付けられないと思うと、とても残念だよ」


「お言葉ですが、王。優しさは時に身を滅ぼしますぞ」


「そうだな・・・・・・」


 セプティマイオスは俯き、地面を見つめる。レッドカーペットを目線で辿りながら顔を上げると、思い出したかのように話題を切り出す。


「そうだ、ヒューロ君はどうなっているかな?」


「ハッ、先日騎士団に合流いたしました」


「そうか、楽しくやってくれてるといいな」


 セプティマイオスはニッコリと微笑む。そして玉座から立ち上がると、窓越しに空を見つめた。


「それと、先日より国内で発生している謎の病ですが。皆が皆共通して高熱を出しているとのことで・・・・・・」


「医師たちはなんと?」


「それが、従来の風邪とも異なるようで・・・・・・」


「そうか・・・・・・」


 再び窓の外に目を向けるセプティマイオス。ロークバルトの空には、どんよりとした雲が広がっていた。




 前日、ミナタにて――


「今日から諸君たち騎士見習いの仲間になったヒューロ・ヘッツェファー君である」


 教官であるドーガーは、騎士見習い達を集めヒューロを紹介する。


「ヒューロ・ヘッツェファーです!よろしくお願いします!」


 ヒューロは元気よく自己紹介をした。周りからは拍手が巻き起こる。一人を除いて。


「聞こえねえなあ!新人君よお!」


 赤毛にサイドを剃った何とも奇抜な髪形をした少年が、頭に手を回し、何かが気に入らなさそうに声を上げる。


「ヴィリアン無駄口は――」


 ドーガーがそう言おうとした瞬間、ヒューロが大きく息を吸い込む。


「ヒューロ・ヘッツェファー!好きな食べ物は肉!よろしく!」


 突然の大声に、その場に居合わせた者はもれなく耳を塞ぐ。それはヴィリアンも例外ではなかった。


「どう?これで聞こえた?」


 ヒューロはケロッとした表情で問いかける。それに対しヴィリアンは、「チッ」と舌打ちをしてつまらなそうな顔をするのであった。

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