#23「それからのこと」
事件が終わった次の日、ヒューロとモーリスはミナタにある、ロークバルト王国騎士団南方支部に運び込まれていた。
ベッドで横になっているヒューロ。そこにドーガーが差し入れを持って現れた。
「傷口は大丈夫かな?」
「うん!大丈夫だよ!」
ドーガーはベッドの横に置いてある椅子に腰かけ、見舞いの品をテーブルに置く。
「それは良かった。そうだ、入院中に君の身の回りの世話をしてくれる者達を紹介するである。入って来るである!」
ドアに向かってそう話すドーガー。すると、ドアがガチャと開き、三人の少年少女が現れた。
「失礼します!本日より身の回りの世話を担当させていただく、騎士見習いのコンラント・ブラッシュです!」
黄金色の髪をした少年は敬礼しながらそう自己紹介をする。
「同じくレルナ・ブラッシュです!」
「同じくオリビア・スミスです!」
続いて同じく黄金色の長髪の少女、そして短めの茶髪の少女も自己紹介を行った。そんな三人を、きょとんとした顔で見つめるヒューロ。
「あれ?コンちゃん、レルナにオリビアじゃん!久しぶり!」
「え?」
コンラントは素っ頓狂な声を出す。改めてヒューロの顔を見ると、驚きの声を上げた。
「ひゅ、ヒューロ!?何でここに!」
「何だ、三人とも。知り合いであるか?」
まさかの再会を見守っていたドーガーはそう尋ねる。それにレルナが「はい」と答えた。すると、オリビアがワナワナと震え始める。
「あれ?オリビアどうした?」
コンラントがそう話しかけた瞬間だった。オリビアはまるで糸が切れたかのように、ヒューロに抱き着くのだった。
「ヒューロお兄ちゃん!」
「わわ、痛いよ!オリビア」
「何をするであるか!彼は怪我人であるぞ!」
思わぬ行動を取ったオリビアをドーガーが摘まみ剥がす。
「わーん!だって久しぶりのお兄ちゃんだもん!」
オリビアは摘まみ上げられ、泣きながらそう話す。
「そうだね!皆何年ぶりになるかな?九歳の時に騎士見習いになったから、コンちゃんとレルナは四年ぶりで、オリビアは三年ぶりか。みんなたくましくなったね!元気でやってた?」
「おう!俺たちは元気でやってたぜ?お前は・・・・・・って相変わらず無茶してるようだな」
「ま、まあね」
ヒューロは傷口を抑えながら笑い、そう答える。
「あ、そうだ。実は、モーリスも来てるんだ!でもあれ?そう言えばどこにいるんだろう」
「彼は特に傷が酷いから別室で処置を行っているである。何とか一命はとりとめているであるが・・・・・・」
「え!?モーリスお兄ちゃんも来てるの!?」
「あいつは傷酷いらしいから飛びつきに行くなよ」
目をキラキラと輝かせ今にも走り出しそうなオリビアを、コンラントが肩を掴み抑える。
「でもまさかあなたが誘拐犯を倒したなんてね。この辺りじゃずっと噂になってたのよ。私達騎士団も手を焼いていたし」
レルナはヒューロに向かってそう言う。すると、ドーガーが何かを思い出したようで、ポンと手を叩きながらヒューロに話しかける。
「そうである、その時の様子を聞きたくてな。まあ事情聴取というやつである。聞かせてくれないかな?」
ドーガーは真剣な様子でヒューロを見つめた。三人の騎士見習い達も同じくそうする。
それに対しヒューロは何か考え事を始める。少しして、何かを決心したのか、「よし」と意気込むとようやく口を開いた。
「実は・・・・・・」
こうしてヒューロは「黒獅子」と戦った経緯、そして自身が魔法使いであることを明かすのであった。
「魔法使い?何を言っているである?」
「お前頭でも打ったか?」
彼らの心配は当然である。魔法などありえない。そう思っているからこそ出た言葉である。
「やっぱりそうなるよね。でも本当なんだ。実際に見てもらった方が早いよね」
そんな彼らをよそに、ヒューロは服をたくし上げる。
「きゃあ!」
「そんな!ヒューロお兄ちゃん!いきなり!」
レルナは悲鳴を上げ、手で目を覆う。逆にオリビアは興奮した様子で目を見開いてヒューロの裸体を覗き込む。
「わりいな。こいつらそういう年頃だからよ・・・・・・」
「そういう年頃?」
そう言うコンラントにヒューロはきょとんとした様子で小首をかしげる。
「ゴホン、ま、まあいずれ分かるさ。で、何を見してくれんだ?」
コンラントは相変わらず目を覆っているレルナに「いいから見るぞ」と言い聞かす。するとゆっくりと覆っていた手を放し始める。
「ごめんね。あんまり傷口見たくないよね。待ってて、今治すから」
ヒューロはそう言うと、右わき腹の生々しい傷口に手をかざす。そして一言「治れ!」と言うと、彼の手のひらから微かな光が漏れ始め、傷口が徐々に治っていく。
ドーガー達はその様子を息を吞んで見守っていた。
完全に傷口が塞がると、ヒューロはひょいとベッドから飛び出す。
「ね?治ったでしょ?」
「な、なんてことであるか・・・・・・」
「嘘だろ?おい、見たかよ今の!」
「え、ええ」
「すごーい!何今の!」
四人は口々に驚嘆の言葉を漏らす。
「これが魔法だよ。これでモーリスの脚も治したし、敵をやっつけたんだ!」
ヒューロは鼻高々にそう告げる。
その時、部屋のドアが乱暴に開けられる。
「おい!ヒューロ大丈夫か!」
「あ、父さん!」
現れたのは血相を変えたヴァルハットであった。恐らく走ってきたのであろう。ヴァルハットは息を切らしながら額の汗を拭う。その後ろに同じく慌てた様子の騎士がいた。
「ドーガー隊長!すみません。コイツ、騎士団関係者だって言って無理矢理入ってきて・・・・・・」
「ヴァルハット先輩!あ・・・・・・」
「せ、先輩!?」
騎士は驚きながらそう言った。それを聞いたヒューロも驚きの表情を見せる。
「父さん、騎士だったの!?」
「あ、あー。うん。そうだ」
歯切れの悪い言葉でそう口にするヴァルハットはドーガーを睨み付ける。
「お前、馬鹿!人前で先輩は止めろって言っただろ!バレちまったじゃねえか!」
「申し訳ないです・・・・・・」
珍しくドーガーが委縮している。その様子を見た周りの騎士たちは「おい、あのドーガー隊長が」などと口々に話していた。
「まあ、いい。とにかく、ヒューロ!お前傷はどうした。結構なものだって聞いたが・・・・・・」
「さっき魔法で治しちゃった」
ヒューロはテヘッとでも言う様に頭を掻いた。
「そうか・・・・・・。ってお前!人前で魔法を使ったのか!」
「だってしょうがないじゃん!そういう状況だったし!」
言い訳をするヒューロに、ヴァルハットは「はあ」と深い溜息を吐き、手で顔を覆う。
「まあ、いい。傷が治ったなら帰るぞ!」
そういうと、ヴァルハットは乱暴にヒューロの腕を掴み、出口の方へ向かった。
「あ、父さん!待って」
「ヴァルハット先輩!待ってくださいなのである!」
そんなヴァルハットをドーガーは前に出て引き留める。ヴァルハットは「ああ?」と少々怒り気味に睨み付ける。
「どけ、ドーガー」
「彼は重要参考人であります!どうか、話を聞かせて欲しいのであります!」
「重要参考人の前に、俺の息子だ。どけ。俺が切れる前に・・・・・・」
ヴァルハットは物凄い剣幕でドーガーを睨み付ける。ドーガーは少し困った様子で目線を逸らす。そして「分かりました」と小声で言うと、ヴァルハットのために道を開けた。
「それでいい。ドーガー。お前も物分かりがよくなったじゃないか。じゃあ、皆の衆ごきげんよう」
先程とは打って変わってにこやかな笑みを浮かべたヴァルハットは、意気揚々とドアを潜っていく。
「父さん!どうして!?」
「うるせえ!お前は黙ってろ!」
ヒューロの問いかけにも応じず、ヴァルハットはズンズンと元来た道を進んで行く。
(クソッ。よりによって奴らに見られたか・・・・・・)
そう思いながら、廊下に飾られてあるロークバルト王国の国旗を睨み付けるのであった。
所は変わってロークバルト王都「ルークト」宮殿内玉座の間。その玉座に彼、ロークバルト王国国王「セプティマイオス十世」は佇んでいた。まだ若い顔だが、眉間に皺を刻んでいる。
「――以上が先の宗教裁判の議事録です」
騎士の一人がセプティマイオスにそう告げる。
「そうか、分かった。下がってよい」
セプティマイオスがそう告げると、騎士は「ハッ」と短く了解の意を表し、豪華な装飾の施された扉へと向かって行った。そこでもう一人に騎士とすれ違う。
もう一人の騎士が兜を取り、王の前に跪いた。
「王、『黒獅子事件』に関する報告書です」
そう言うと、淡々と報告書の内容を読み上げる騎士。それを受けて王は「分かった」と一言だけ言った。
立ち上がり、出口へ向かおうと踵を返す騎士。その背中に王は呼びかける。
「待て」
あまりにも冷たい声に騎士は思わず振り返る。
「いかがいたしましたか?」
「貴様、出身はどこだ?」
「ミナタであります」
「そうか・・・・・・」
セプティマイオスはそう呟くと、小声で「田舎者め」と零した。
「それが、何か?」
「いや、細かいかもしれないが、私の前では兜を脱がなくてもよい。それだけだ」
「ハッ、かしこまりました!」
「では、下がってよろしい」
そう指示するセプティマイオス。騎士は敬礼をし再び踵を返した。
先の報告を受けて、セプティマイオスは玉座に深く座り込んだ。
「魔法使いか・・・・・・」
不気味な笑顔を浮かべて・・・・・・。
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