#22「救援」
ヒューロ達が戦っている頃、もう一人の男も静かなる戦いをしていた。
広間を脱出したヤンは、一人建物の周辺であるものを探す。しかし、辺りが真っ暗でほとんど何も見えない。
(どこだ?オラの馬はどこに行ったんだべ?)
館の正面を探してみるが見つからなかった。何も手掛かりがないままでは一歩も前に進めない。そう感じたヤンは、より集中して辺りをくまなく調べることにした。
しばらくしてヤンの注目は地面に留まる。そこには馬の足跡と車輪の跡が残っていた。
「これだべ!これを辿って行けば・・・・・・」
ヤンは跡の続く方向へと向かう。足跡は建物を時計回りに迂回して続いていた。その跡を追うと、館の入り口から丁度反対側の所に馬複数頭繋いであった。
ヤンはその内の一頭に駆け寄る。その黒い馬もヤンに気が付いたようで、嬉しそうな仕草を見せた。
「ああ!ジャック!おーよしよし、元気にしてたか?じゃなかった。えっと鞍は、付いてるな。よし!」
勢いよく馬の背に跳び乗るヤン。目印は先程見つけた地面に続いている足跡だ。その跡を追うように進めばきっと知っている道に出るはず。ヤンはそう信じ手綱を握り、馬を走らせた。
足跡を辿ると開けた道に出る。そこには看板があり、そこから先はミナタへと続いていることが分かった。
「ここは昼隠しの森だたったか。この道なら何度も通ってるべ。さあ、いくぞ!ジャック!」
ヤンは意気揚々と馬を嘶かせ、走らせる。
こうしてヤンはミナタへの道を行くのであった。
しばらく馬を走らせると、ミナタの入り口が見えてきた。外はどうやら夜のようで、大きく構える門のいたるところに松明が灯されており、その薄明り越しに番兵たちが見える。
検問所が近くなると、ヤンは馬の速度を徐々に落としていった。すると、番兵の内の一人がヤンに気が付いたようで、鎧をガシャガシャと鳴らしながら近付いてくる。
「こんな時間にどうした?」
番兵が無骨に尋ねてくる。
「あの、森で・・・・・・。いや、ドーガーさんはどちらに入らっしゃいますか?」
ヤンは何か言いかけたが、すぐに口をつぐみドーガーの所在を尋ねる。もしここで敵のスパイにでもばれたら一大事である。ここは信頼の置ける人物に尋ねるのが先決であろう。
「何か用か?用なら我々が聞くが?」
「いえ、その・・・・・・」
ヤンはまさかの展開に思わずどもってしまった。疑うのが仕事である番兵たちには、それがより一層怪しく見えたであろう。番兵は「怪しいな」と呟くと、顎に手をやりヤンをジロジロと眺め始めた。
「そ、そうだ!ドーガーさんに頼み事をされたんだべ!」
ヤンは頭に手をやり、うっかりしていたかのように話す。しかし、番兵はそれに納得してくれたようで、「そうか、だったら案内してやる」と言いヤンを案内しようとする。
(神様ごめんなさい。嘘吐いちゃったべ・・・)
心の中で謝るヤンであった。
番兵に連れられ門を潜り抜けるヤン。ホッとしたのも束の間、いきなり隣で番兵が敬礼をした。
「失礼します!ドーガー隊長!」
「ウム。どうした?」
なんと、街を巡回していたドーガーが目の前に現れたのである。
「はっ。この者が隊長に頼みごとをされたとのことで、案内しておりました!」
「ま、マズイ・・・・・・」
急な出来事に、ヤンは思わず口から零してしまった。それでもなんとか誤魔化そうと足掻き、目線で合図を送ってみる。すると、「おお、そうであった。そうであった」とドーガーは何かを察してくれたようであった。
「ささ、積もる話もあります故、ワガハイと一緒に行きましょう」
「ドーガーさん・・・・・・!」
こうしてヤンは何とかドーガーと接触することに成功したのであった。
その後ドーガーが番兵に席を外させ、ヤンと二人きりの機会を設けてくれた。
「で、どうしたであるか?」
ドーガーは自慢のカイゼル髭をちょんちょんと弄りながらヤンに問いかける。ヤンは「じ、実は・・・・・・」と続け、ヒューロ達の応援に来て欲しいことを告げる。
「なんですと!人攫いが?それに子供たちが戦っているであるか!?それはイカン!兵たちをまとめ、早く行かねば」
「そ、それが、騎士団の格好をした内通者がいるみたいなんだべ!オラ達もそいつに騙されて・・・・・・」
「組織に内通者がいるであるか・・・・・・。分かったである。では、ワガハイが最も信頼を置く部下だけを連れていくである」
「助かります!」
ヤンは訛った口調で感謝を告げる。
早速兵を集め始めたドーガー。その場にいる信用の置ける部下に次々と声を掛け、あっという間に十人程度の小隊を作ってみせた。
各自馬に乗り、装備も整え、準備は万端である。
「では行くである!ヤンさん、道案内は頼みましたぞ!」
「任せてけろ!」
こうしてヤンはドーガー達小隊を引き連れ、館へと向かうのであった。
十数分後。ヤンたちは無事館に辿り着いた。
「ここが誘拐犯共の館であるか・・・・・・」
館を見つめ、ドーガーが言う。
「では入るであるぞ!」
馬を降りた小隊はドーガーを先頭に館へと足を踏み入れる。
大きな扉を開ける。まずそこに現れたのは一人の男の死体であった。
「ム、死人が出ているであるか」
ドーガーはそう口にすると、今度は目の前に広がる、真っ暗な空間に目線を向ける。しかし、あまりの暗さで何も見えない。
「明かりを灯すである」
ドーガーは部下にそう指示をした。それを聞いた部下の一人が、「はっ」と言い松明を持ってくる。
薄明りに照らされ現れたのは、広間とそこに倒れこんでいる少年二人と女性の姿であった。
「ヒューロ君!モーリス君!」
倒れこんでいる少年たちに気付き、駆け寄るドーガー達小隊。すると、すぐにヒューロも気が付き、「来てくれたんだね」と力なく言った。
「何をしているであるか!危ないところだったであるぞ!・・・・・・ん?この女性は?」
ドーガーは声を荒げヒューロに叫んだものの、足元に倒れている存在に気が付き、注意をそちらに向ける。
「ああ、その人、誘拐犯の一人だよ。あと、あっちの外にももう一人と、上の階にもごろごろ転がってるよ」
ヒューロはそういうと、「いてて」と脇腹を抑えながら何とか立ち上がった。
「『転がってる』って、まさか、倒したであるか!?この者共を」
ドーガーはあまりの事実に驚きを隠せないでいた。それに対し、ヒューロは「うん。俺とモーリスでね」といとも簡単に告げる。
「ば、馬鹿な・・・・・・。しかし、事実は事実だ。受け止めねば。それよりも、傷の手当である。救護班!この少年とあちらに倒れている少年の傷の手当てを!」
ドーガーは戸惑ってはいたものの、すぐさま状況を判断し部下に指示を出す。それを聞いた部下はせっせと行動を始めるのであった。
「おい、この子とんでもない傷を負ってるぞ!早く運べ!」
特に傷が酷かったのはモーリスであった。鎖骨から脇腹に掛けて、大きく斜めに袈裟斬りを決められた跡が残っている。傷口からは、今もじんわりと血が出続けていた。
簡易的な担架に乗せられるモーリス。既に意識はなく、安らかな顔をして運ばれていくのであった。
「さ、ヒューロ君も・・・・・・」
「俺は何とか歩けるよ。ただ、モーリスは、あいつだけは救ってやって下さい!」
「分かった。ワガハイの集めた精鋭たちである。頼ってくれたまえ。あとは、奴らか・・・・・・。手の空いている者は、その他の倒れている奴に手錠をかけて馬車に乗せておけ!」
そう指示を受け、騎士たちは次々と誘拐犯達を連行していく。残るはジョナサンだけであった。
館から壁を突き破り、数メートル離れた巨木にジョナサンはもたれ掛かっていた。
「この男もだいぶ傷を負っているな。おい!起きろ!・・・・・・ダメだ起きやしねえ。おい!誰か手伝ってくれ!」
小隊の一人がジョナサンに手錠をかけ、もう一人と協力して連行しようと試みる。すると、ジョナサンはゆっくりと目を開けるのだった。
「グフッ、そうか・・・・・・。俺は、負けたのか」
「なんだ起きたのか。さっさと立って歩け!ってお前、同期の・・・・・・」
「フン。国家の腐れ犬どもが・・・俺に来やすく触るんじゃねえ!」
「支えになってやらないと歩けないくせによく言うぜ。ほら、行くぞ!」
二人がかりでようやく起こし、連行を試みる。すると、ヒューロが「待って!」とおぼつかない足取りで近付いてきた。
「今日誘拐した女の子はどこにやったの?」
「フン。教えるかよ。ただ一つ言えることは、もうここにはいねえってことだな。ハハハハハ!」
ジョナサンは高らかに笑いながらそう吐き捨て、騎士団に連れていかれたのであった。
こうしてロークバルトを脅かしていた事件の一つが幕を閉じた。後味は決して良いものではなかったが・・・・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます