#17「敵襲」
ガチャリというドアノブを回す音が聞こえ、ヒューロ、モーリス、ヤンの三人は戦慄した。このままでは気絶させた男がバレてしまう。
「俺が何とかする」
「ダメ!」
モーリスが先手を打とうと踊り場まで降りていこうとするが、ヒューロはそれを小声で止めた。足音は階段のもうすぐ傍まで迫ってきている。
足音はゆっくり、しかし一歩一歩階段を上がって来る。
(マズイ!バレる!)
そう三人が思った時であった。
「誰かいるのかにゃ?」
女性らしき声が尋ねる。しかし、その声音はまるで酔っぱらっているかのようにだれたものであった。
「おいおい~、こんなとこで寝てたらヒック、かずぇ引くぞ~」
酔っぱらいは倒れた男の前に屈みこむと、頬っぺたをツンツンとつついた。
(気絶してることに気付いていない?なら・・・!)
そう思ったヒューロは指先を酔っぱらいに向け唱えた。
「“気絶しろ”!」
すると酔っぱらいは、男同様白目を剥いてその場に倒れこんだ。
「よし、何とかなっ・・・」
言いかけた途端、ヒューロは魔法の反動でその場に膝を着いてしまう。視界が眩み、強烈な吐き気と頭痛を覚えるヒューロ。
(やっぱり命令形の魔法は反動が強いや・・・。一回目はなんとか耐えられたけど、連続だと厳しいな・・・)
倒れこんだヒューロを見て、モーリスは「お前はここで少し休んでろ」というと、踊り場へ降りて行った。それにヒューロは頷く。
耳を澄ますモーリス。近くに人の気配は感じられない。それを確認すると、モーリスは手早く二人の腰に添えられてある剣を鞘ごと引き抜いた。そしてそれを上で待っている二人の元へ持ってくる。
「あいつら剣なんか持ってやがった。ヒューロ、お前使えるか?」
「うん。ドーガーさんに教えてもらってたから」
「そうか。じゃあ、ヤンさん・・・」
そう言ってモーリスがヤンの方を見る。その時、モーリスは重大なことに気が付く。ヤンもそれに気が付いていたようで、今にも何か言いたげな表情をしている。
(やべ!ヒューロが魔法使うところおっさんに見られた!)
モーリスがそれに気付いた瞬間、ヤンも口を開いた。
「さっきの、なんだべ?」
「いや、あれは、その・・・」
モーリスは何とか言い逃れようと頭の中で様々な言い訳を考える。しかし、出て来るのはどれも陳腐なアイデアばかり。何か喋ろうにも単語と単語が上手く繋がらない。このままでは更なる憶測を生んでしまう。
(どうしよう・・・)
モーリスが頭をフル回転させていたその時、隣で休んでいヒューロがモーリスの肩を掴む。そして小声で「大丈夫だよ」と伝えると、ヤンの方へ向き直った。
「実は俺、魔法が使えるようになったんだ」
ヒューロの口からあっさりと答えが飛び出す。
「「え~~~!」」
二人は意味こそ違うが、口を揃えて驚きの声を上げた。
「おいバカ!お前このことは誰にも言うなって・・・」
「だって仕方ないじゃん。見られちゃったんだもん!」
二人はつかみ合い言い争いを始める。先程まで忍び、大きな音を立てずにいたのを忘れたかのように大声で。
そんな二人を止めたのは誰でもない、ヤンであった。
「静かにしなさい!」
―――それは今日鳴ったどの音よりも大きい声であった。
「ヤンおじさんの声が一番でかいよ・・・」
ヒューロがボソッと言うのに合わせて、モーリスもうんうんと頷く。
「ヒューロ君が魔法を使えることは分かった。モーリス君の脚が治ったのも魔法なんだろう?最初は驚いたけんど、今は飲み込むしかねえべ。とりあえず、この状況をなんとかしなきゃいけないべ・・・」
ヤンの言葉に二人は頷く。そしてモーリスは自らの頬をピシャンと叩くと、目をキリッとさせ気を引き締めた。
「ごめん。そうだよな。今はこの状況をなんとかしないと・・・」
そう言うとモーリスはしゃがみ込んで埃の溜まった床に図を描き始めた。
「まずは状況を整理しよう。さっき踊り場に行ったとき確認したが、階段はここのワンフロア下で終わってた。それにでかい扉が見えたから、下が一階ですぐに玄関だと思う。問題は、だ。下にまだ奴らの仲間がいるかもしれないってこと・・・。いや、いるな。話し声が聞こえる。それにさっきのやり取りで確実に様子を伺いに来る」
そうモーリスが言うと、確かに下から声とともに足音が聞こえて来る。それも足音から察するに複数人だ。
「ヒューロ・・・、はさっき確認したか。ヤンさん、剣は使える?」
「ああ、なんとか」
モーリスは返事を聞くと、ヤンに剣を渡す。ヤンはおぼつかないながらも剣を握りしめる。
近付いてくる足音。
「なら、剣は二人に任せた」
「モーリス君は?」
「俺か?俺は・・・」
モーリスがそう言うと、踊り場から声が聞こえて来る。
「おい、誰か倒れてるぞ!」
「来やがったな・・・」
「お、おい!人質が逃げ出してるぞ!」
敵の内一人が三人に気付いた。すると、仲間が全員ヒューロ達の方を向く。
「一、二、三・・・。五人か」
モーリスは指をポキポキと鳴らし、身構える。それに男達も反応し、一斉に剣を抜き構えた。
両者の睨み合いが始まる。
数秒経った頃だろうか。まるで数時間にも感じるその間は、敵の男たちが一斉に斬りかかったことで終わりを告げた。
「今度は逃げられないように手足を切り落としてやる!」
先陣を切った男がモーリスに斬りかかったその時、モーリスはひらりと剣を躱し逆に男の顎に強烈な一撃を入れた。男は白目を剥き吹き飛んでいく。
「たかだかお前等相手なら素手で十分だ。さあ、かかってこいよ!クズ野郎共!」
モーリスは声高々にそう宣言する。
「「え~・・・」」
モーリスはの圧倒的な強さを前に、ヒューロとヤンは驚きを隠せないのであった。
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