#16「暗闇」
ヒューロが目を覚ますと、そこは辺りを見渡しても灯り一つない真っ暗な空間であった。
ヒューロは体を動かしてみようとするも、手足が自由に動かない。そのため拘束されていることが分かる。口に感じる違和感から布を巻き付けられていることも分かった。
(どこだここ?誰かに捕まったのは確かだけど・・・。とりあえず灯りと拘束を解かなきゃ)
上手く発声できないため、ヒューロは強く念じる。すると彼の目の前にフォンと音を立てて小さな光の球体が浮き上がった。それと同時に彼を縛っていた縄も緩む。生み出された光の球は視界を照らすのには十分な明るさであった。
光の球体で薄く照らされた部屋を見てみると、そこにはヒューロの他に二人横たわっていた。何とか目を凝らして顔を見てみると、横たわっていた者の正体が明らかになる。ヒューロの足元にいるのはモーリスであった。そしてヒューロと向かい合うようにヤンが倒れていた。
ヒューロは拘束が解かれ、ようやく自由になった手足を動かす。そして光を頼りにまずはヤンに近付いた。
ヤンの顔に耳を近づける。すると呼吸は行われており、まだ生きていることを証明するには十分であった。
それが分かったヒューロはヤンの手足に固く結ばれた縄を何とか解きにかかる。暗がりということもあり、結び目を理解するのに少々時間を要した。だが一度緩めば造作もない。ヒューロはスルスルと紐を解いていき、口にあてられた布を解くと、ヤンはようやく自由になった。
「ヤンさん起きてください!」
ヒューロは小声で、しかし力強くヤンの名を呼んだ。それと同時に体も揺さぶる。
少しすると意識が戻ったようで、ヤンは体をビクッと震わせ目を開いた。
「ヒューロく・・・」
「シー・・・!バレちゃう」
状況が読み込めず、大声を上げかけたヤンに静かにするように制すヒューロ。それを受けたヤンは周りをぐるっと見渡し、おおよその様子を理解する。
「ここはどこだべ?」
ヒューロを真似て小声で問いかけるヤン。それにヒューロは首を横に振って、「分かんない」と同じく小声で返す。
「そうか・・・。よし、まずはモーリス君を自由にしよう」
そう言うと二人はモーリスの元へ近寄る。そして縄を解こうとすると、突如モーリスは目を見開き、力むと、手足を結んでいた縄を引きちぎった。そして口にあてがわれた布を取る。あまりの光景に二人は唖然とする。
「噓でしょ?」
「なんてことだべ・・・」
思わず漏れ出た言葉の声量に驚き、二人はそれぞれ慌てて口を塞ぐ。
「どこだここ?」
何事もなかったように辺りをきょろきょろしながら、モーリスは二人に問いかける。その問いに二人は首を横に振る。
「分かんない。でも、自由を奪われてたから誰かに捕らわれてるのは確かだと思う」
「あの騎士達か・・・」
モーリスは心当たりがあるようで、直ぐに容疑者を挙げる。
「とりあえず、ここから出てみよう」
ヒューロは部屋からの脱出を提案する。それに二人は頷き、三人は立ち上がった。
部屋はそれほど広くなく、数歩進めばすぐに部屋の端に辿りつける程であった。辺りには使われなくなったであろう家具が散乱しており、それらは埃を被っていた。
降り積もった埃も舞わぬように、静かに音を立てずに動く三人。ドアに近付くと、ヒューロは耳をそばだてた。
「足音は聞こえない。今ならいけると思う」
そう言うヒューロに二人は頷きを返す。そしてヒューロを先頭に三人はドアをゆっくりと開けた。
ドアの向こうは長い廊下であった。左右に伸びる廊下にはほんのりと灯りをともす蠟燭が数本立っており、足元の絨毯を何とか可視化させていた。
「結構でかい建物だな」
「そうだね。あ、あっちに階段がある。慎重に行こう」
目を凝らして見ると、ドアを出て左手側の通路の突き当りに階段が見える。下り方向しかないところから察するに、今いるフロアより下があるということが伺える。
念のため右手側も確認してみるが、そこは突き当りが壁であったため進むのは諦める。
三人は忍び足で廊下を進む。しかし、建物の老朽化が進んでいるらしい。床が軋む音はどうしても消せなかった。
それでも何とか気配を消し歩く三人は。かなりの時間をかけて階段に辿り着いた。
「よし、何とかここまで来れた。下は・・・」
そう言って階下を覗き込む三人。すると、踊り場に何者かが立っていた。
「おい!何をして・・・」
「“気絶しろ”!」
何者かが叫ぼうとした瞬間、ヒューロは咄嗟に叫んだ。するとその人物は突然白目を剥きそのまま気絶した。ドサッと音を立て、その人物―――男は倒れこむ。
「マズイ、声聞かれたか!?」
三人がそう焦った時、下の階でガチャリとドアの開く音が聞こえてきた。
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