#12「ロークバルト王国」
ヤンと合流したヒューロとモーリスは、馬車に乗ってミナタまでの旅路を急いでいた。
ミナタはここ「ロークバルト王国」の南部に位置しており、隣国「シューリック王国」との国交の場にもなっている。また比較的平地が多く麦畑などが多く広がっていた。
そんな景色を眺めながら三人は和気あいあいと馬車に揺られていた。
昼隠しの森を抜け、しばらく道なりに進むと石造りの塔が二つ並んだ門が見えてきた。その下には門番らしき兵士たちが立っていた。
「そこの者止まれい!」
番兵の一人が三人を呼び止める。それに合わせて槍を持っていた二人の番兵が、槍をバツ印に重ね合わせ、行く先を塞いだ。
指示に従い馬車を停めるヤン。するとガシャガシャと鎧を鳴らしながら二人の番兵が近寄って来た。
「ここから先はロークバルト王国南部商業地区ミナタである。不審な物を持ち込んでいないか調べさせて貰うぞ!」
番兵の一人がそう言うと、もう一人の番兵が馬車の客車部分を開け放ち、調べ始めた。その番兵と目が合うヒューロとモーリスの二人。一瞬時が止まる。モーリスは耐えきれずに「ウス」と口から零した。
そんな二人を見て、番兵は慌てた様子で御者台に座るヤンの元に回り込む。
「き、貴様!まさかこの二人を攫ってきたのか!?」
「さ、攫う!?そんなことするわけないべ~」
「で、では何故あんな子供二人が馬車なんかに乗っている!」
「そ、それは・・・」
あれこれと事情を説明するヤン。しかしそれに次から次へと反論を返す番兵。二人の会話はヒートアップしてしまっていた。
そんな二人を見てなにやらただ事ではないと察したのか、もう一人の兵士が近付いてくる。その兵士は他の兵士と違い、鎧に豪華な装飾が施されていた。
「どうかしたのであるか?」
その男は鼻の下に伸ばしたカイゼル髭の先をちょんちょんと弄り、ヤンと番兵の間に割って入った。
「ドーガーさん、この男、例の人攫いかもしれません。客車に子供が二人乗っています」
「ほう。どれどれ」
ドーガーと呼ばれた男は馬車の客車部分に回り込んだ。そして扉を開けると中を覗き込む。すると、ヒューロとモーリスと目が合った。
「おお!ヒューロ君じゃないか!」
「ドーガーさん!こんにちは!」
二人は面識があったようで、声音が明るくなる。
「どうしてここにいるであるか?」
「えっとね、お遣いを頼まれたの。それでヤンおじさんに乗せてもらってるんだ」
ヒューロの受け答えにドーガーは「なるほど」と頷いた。そしてカイゼル髭を弄りながら番兵たちに向き直る。
「この方はワタクシの知り合いである。通してもよいである」
ドーガーの指示に、番兵たちは揃って「ハッ!」と声を上げる。そして通せんぼをしていた番兵たちにも指示を出し、槍を上げさせた。
「そうである」
ヤンが馬車を走らせようとしたその時、ドーガーが呼び止めた。
「最近、ここミナタに人攫いが現れたである。狙われているのは決まって子供たち。であるからして、二人が狙われるかもしれませぬ。よろしくお願するである」
「分かりました」
訛った口調でそう返すヤン。それの返事を聞いたドーガーはまるで「頼んだぞ」と言う様に笑みを湛えた。
こうして三人はようやくミナタへと入ることができたのである。
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