#5「魔法使いになっちゃった」

 ヒューロが目を覚ますと、そこはベッドの上であった。気を失った際に誰かが運んでくれたのであろう。とりあえず体を起こそうと試みる。上体を起こしてみると、頭がズキズキと痛み、軽い吐き気がヒューロを襲った。しかしすぐに治まったので、ベッドから抜け、立ち上がる。かなり時間が経ったのか、窓の外を見ると明るくなっていた。

 誰かいないかと寝室を出るヒューロ。隣の部屋は居間になっており、テーブルにはヒューロの父が座っていた。

「おう、起きたか」

「父さん、おはよう」

「もう体調は大丈夫なのか?」

 ヒューロの父は心配そうに問いかける。それに対しヒューロは「うん、大丈夫」と答える。その時である、ヒューロの腹の虫が鳴った。その様子を見てヒューロの父がテーブルを指差す。

「お前の飯、ここにあるぞ」

「うん、ありがとう」

 ヒューロはテーブルに着き、用意された食事に手を付ける。

(俺、どのぐらい気を失ってたんだろう。)

 そう思い、ヒューロは父親に聞いてみることにした。

「俺どのぐらい気を失ってたの?」

「まあ、半日ってとこかな」

 意外と時間は経ってないんだなとヒューロは思う。

「たかだかクマを見ただけで気絶しちゃって」

 ヒューロの父はからかうように言った。それを聞いたヒューロはかあと顔が熱くなる。

「違うんだよ、あれは。あれは・・・」

 なんとか言い訳を絞り出してみるが中々出てこない。ヒューロ自身なぜ意識を失ったのか分からなかったからである。

「ヴァルハット~」

 ヒューロが返す言葉に困っていると、隣の部屋から誰かが呼ぶ声がした。ヴァルハットとはヒューロの父の名である。呼ばれたヴァルハットは一言大きく「はーい」と返事をし、席を立って部屋を出ていった。ヒューロも暇なので食事の中にあったパンを咥え表へ行ってみることにした。

 ドアを開けるとそこは店兼工房になっており、様々な道具や器具が置かれている。ヴァルハットは修理屋をやっており、様々な物の修理をすることを生業としていた。

 ヒューロが工房へと顔を出すと、ヴァルハットはねじり鉢巻きをした初老の男性と会話していた。

「あ、ギルベットおじさん」

「ようヒュー坊!元気になったか?」

 ギルベットと呼ばれた大男はガハハと笑いながら挨拶をした。それにヒューロも「うん!」と返し元気になったことを伝える。

「ところでギルベットさん何の用で?」

「そうそう、昨日の事なんだけどよ・・・」

 その一言を皮切りに二人の会話は昨日の森でのことに切り替わる。それを聞いていたヒューロはぼうっとしていた頭が冴え始め、昨日の出来事が頭を駆け巡る。

(そうだ、あの時、俺は不思議な力を・・・!?)

 そう思っていた時にはヒューロの体は走り出していた。ドアを開け、居間に戻る。そして台所にある釜戸の前に躍り出る。そしてゆらゆらと揺れている炎に向かって、大きくなれと念を送ってみるヒューロ。しばらくすると、炎が天井まで届く程に大きく燃え盛った。

「わわ!消えて消えて!」

 すると今度は一瞬でしゅんと炎が消えた。

 燃え上った炎の音を聞いてヴァルハットとギルベットがドアを勢いよく開けて入ってきた。

「どうした!?」

 ヒューロはあんぐりと口を間抜けの如く開け、ヴァルハットに答える。

「父さん、俺、魔法使いになっちゃった・・・」

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