#6「秘密」

「何言ってんだお前?」

 ヴァルハットから帰ってきたのは素っ気ない言葉であった。

「十三にもなってまだそんなこと言ってんのか・・・」

 息子の成長を嘆き、落ち込むヴァルハット。その左肩を横で見ていたギルベットがポンと軽く叩く。

「まあまあ、ヒュー坊はそういう年頃なんだろ。分かってやれよ」

「そういうって・・・。そうなのか?」

 ヴァルハットは訝し気にヒューロの方を見る。そんなヒューロは真面目な顔で答えた。

「本当だよ!じゃあ今から見せるね」

 そう言うとヒューロは水の入った桶に近付く。そしてその上に手をかざすと、念を込め始めた。

「何やってんだ?」

 ヒューロの不可解な行動を見ていたギルベットが尋ねる。それにさあ?と両手を広げて首を傾げるヴァルハット。まあ、様子を見てやろうかと二人は腕を組みながら見守り始めた。

 しばらく経っても何の気配もない。二人がしびれを切らしヒューロに話しかけようとしたその時、桶の水が球体を模して宙に浮き始めた。そしてそれを二人の前に移動させる。

「な、なんだこれ・・・」

「すごいのお・・・」

 ヴァルハットとギルベットは目の前で起こっている光景が信じられずにいた。今まで何十年も生きてきてこんなことは初めてだったからである。

 二人が呆然とその様子を眺めていると、宙に浮いた水の球が移動し、突然桶に落ちた。それと同時にヒューロの意識が飛び、膝から崩れ落ちた。

「おい、大丈夫か?」

 ヴァルハットが急いで抱きかかえる。そしてヒューロの体をゆさゆさと揺らし起こそうと試みる。数秒の後、ヒューロは意識を取り戻した。

「う、う~ん。気持ち悪い・・・」

「まったく無茶しやがって。人に迷惑をかける天才かっての!」

「ごめんごめん」

 ヒューロはバツが悪そうに頭を掻いた。

「まったく、分かった信じよう。お前に凄い力が身に付いたって話。ただしこれは絶対に人前で使うなよ!」

「え?なんで?」

「また倒れられても困るからだ!それにみんなも困惑するだろ!」

 至極当然である多くの人の目に晒すにはメリットもデメリットも多いこの力は人前で安易に使うべきではないであろうことは明白であった。ヒューロもその考えに至り、「うん!分かった!」と返す。

(それに奴らにバレれば何をしでかすか分からん。)

 ヴァルハットは思案する。そしてもう一人の目撃者に釘を刺した。

「ギルベットさん、このことはどうか秘密に・・・」

「なあに、心配せんでもわしの口は石のように固いぞ!」

「いつもあなたから噂話が広まっている気がするんですが・・・。まあ、信じましょう」

 ヴァルハットは訝し気な目を横に向けるが、長年の関係性もあってか、一応信頼をしてみるようだ。

 こうしてヒューロの力は少しずつ、しかし着実に目覚めていったのである。

 

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