#4「初めての魔法」
昼隠しの森でヒューロと爆発音の発生源を発見した村人たちは、村に帰るため森を引き返していた。森はとても暗いため、松明をに火を灯しながら列を成して進んで行く。ヒューロとモーリスはその真ん中辺りを歩いていた。
帰路が終盤に差し掛かった頃、前方で鈴が激しく鳴らされ、大きな声で誰かが叫んだ。
「クマだ!」
その警告を受けた瞬間、列全体に緊張が走る。
「火だ!火を集めろ」
その呼びかけに答え、村人たちは前方に集まり、集団で松明を掲げる。それはまるで大きな一つの火の玉のように見えた。ヒューロも手伝おうと前に出る。すると、松明の灯り越しに真っ暗闇から大きな影がぼうっと現れた。
「で、でかい・・・」
村人たちの前に姿を現したクマはとても巨大で、目をらんらんと輝かせていた。今にも襲い出しそうな剣幕で村人たちを睨みつける。一歩、一歩と足を踏みしめる度にその巨躯がゆさゆさと揺れる。その様子を見た村人たちはじりじりと身を寄せ合う。
「来るぞ・・・!」
誰かが言ったその時、クマが人の頭ほどある巨大な前足で村人たちに攻撃を仕掛けてきた。振り回されたその右前足は村人たちの松明を何本も払い落とした。
「「うわあ!」」
村人たちは思わず声を上げる。何人かの村人は尻もちを着いてしまった。そのうちの一人にクマが襲い掛かろうと両前足を振り上げる。
「ヒィ!」
その様子を見ていたヒューロは落ちた松明に右手を伸ばす。
(危ない!助けなきゃ!松明の火を!だけど足りない。もっと、もっと火力を!大きな火を!)
そう願ったその瞬間、松明の火が集まり巨大な炎の塊となり、まるで意志を持ったかのようにクマに襲い掛かった。
「グオオ!」
クマの全身を炎が走る。焼け付く痛みがクマを襲い、堪らず苦痛の声を上げる。そしてクマはそのまま森の奥へと走って逃げていった。
「何だったんだ今の。まるで魔法のような・・・」
誰かがそう呟いたとき、ヒューロの記憶の蓋が開いた。
「私は観測者。奇跡の種。世界を変える大きな力を持ったものさ。君は君の世界の特異点となった訳だ。そして特異点には特別な力が与えられる・・・」
観測者の声がヒューロの脳内で再生される。そしてそれを思い出したヒューロはある答えに辿り着いた。
(もしかして今の、俺がやったのか・・・?)
ヒューロはその可能性に辿り着き、己の右手を見つめる。しかし、次の瞬間ヒューロの視界がぐにゃりと揺らぎ、そのままヒューロは気を失ってしまった。
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