出会いは唐突に。
また同じ夢を見ていた。
一面タンポポの花が鮮やかに彩るその丘に横たわる、白いワンピースがよく似合う、まるで白百合のような少女と、これ以上ないほどに笑顔が良く似合う少年。幼い二人は、まるでその一瞬一瞬を嚙み締めるかのように楽し気に笑っている。
「夢か」
夏本番を前にして、既に真夏日の気温を観測した7月20日日曜日の昼下がり、時折心地よい風が肌をなでる夢見ヶ丘の頂上で、翔太朗は目を覚ました。
夢見ヶ丘は、翔太郎の住む町の南側に位置し、その頂上からは町全体を一望することができる。
「1時間も寝てたのか」
スマホをポケットから取り出し時間を確認すると、時計は3時を示していた。
翔太朗は寝起きの体に鞭を打ち、上体を起こしてそのままなんとなく町を眺めていた。
丘の上から見下ろす街並みは綺麗だった
きっとそれは他の誰が見てもそう思うのであろう。だがそんな景色でさえも翔太郎の濁りきった心を晴らすことは出来ない。
最後に笑ったのはいつだっただろうか、もう笑い方さえ翔太郎は忘れかけていた。
「帰るか」
そうつぶやき翔太郎は立ち上がろうとしたその時、突如として前方から風が吹いた、ほのかに懐かしい香りを感じる乾いた風だった。
その風が吹き抜ける方向に顔ごと視線をやる。
そこには、薄い生地のロングスカートにレース生地の白いブラウスを身に纏う1人の少女が立っていた。
まさしく美少女と言うに相応しいその少女は、どこか人形のような雰囲気さえ感じさせるほどだ。
「景色きれいだね、ここにはよく来るの?」
唐突の質問に翔太郎は答えることが出来なかった。
「ごめん、驚かせちゃったね」
彼女は笑っていた。翔太郎はまたもや懐かしさを感じた。
「いや、いきなりで、返答に困っただけ」
「それを驚いたって言うんだよ」
彼女は、楽しそうに微笑んでいる。
「君面白いね、名前は?」
「葉月翔太郎」
翔太郎は簡潔に答える
「翔太郎って言うんだ、私は皐月、雨宮皐月、よろしくね」
聞き馴染みはないはずのその名前は妙にすっと翔太郎の頭の中に入ってきた。
「ところで、翔太郎はなんでそんなうかない顔をしてるの?」
「別に、普通だよ」
「ほら、いまだって全然楽しそうじゃない」
「逆になんで君はそんなに楽しそうなんだよ」
翔太郎は尋ねた
「だって、人生笑ってないと損だよ」
皐月は、1番の笑顔を浮かべながら迷いなくそう答えた。
確かに聞き覚えのある言葉だった。翔太郎自身が言ったのか、他の誰かに聞いたのか、確かではないが、そう感じた。
「私、時間無いからもう行かなきゃ、またね」
「またね?」
翔太郎の問いには答えず、皐月は丘を降りていく。
「一体なんだったんだ」
翔太郎は1人呟いた
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