問われし敗北者2
「お前たちが狂犬一家の
イーヴァンとは決してよい関係ではなかったが、お互い職業騎士としてその力量に疑うようなことはなかった。このふたりがなにか卑怯な手を使ったとしても、この短時間でそうおいそれと命を落とすような男ではなかったはずだ。
つまり、ふたり掛かりとはいえ職業騎士を悠々殺害しうるほどの、尋常ならざる強敵。
「なぜだ」
だからこそ、タルカスは問わずにはいられなかった。ふたりはそれぞれ思う様に嘲りの笑みを浮かべて肩を竦める。
「はてさて。なぜ、とは?」
「なにが聞きてえんだ? 言ってみろよ」
「お前たちなら傭兵や冒険者として生きても食い扶持に困ることはないだろう。それだけの
「立身出世だそうですよ
含み笑いを漏らしながら
「あほらしくてあくびが出ちまうな
あくびを嚙み殺す仕草をしながら
「お、お前たちにはひとを脅かしひとから奪う生き方などしなくてもいいほどの
説得が目的というわけではなかった。
ここにあるのは圧倒的な戦力差。もはやこの先、己の命はないものとタルカスは考えている。
しかし、だからこそだ。
主を失ったタルカスは無様に敵の軍門へと下ったが、それは残される領民たちを思っての苦渋の決断だった。己にもっと
そして目の前にいる彼らはその
「お前たちは人情や正義のようなひとらしい感情を、欠片も持ち合わせていないのか?」
タルカスの問いをもって沈黙した室内。
「く、くくっ」
まずその静寂を破ったのは
「人情、それに正義ときましたか!」
つられるように
「はっ! こいつは
「なん、だと……?」
その言葉はつまり、彼らがタルカスの経歴を知っているということだ。予想外の反応に狼狽するタルカスを見下すようにふたりは続ける。
「人情? 正義? ははは、そんなものあるわけがないでしょう」
「ああ、ねえともさ! 俺様たちにはそれ以上に優先すべきものがあるからなあ!」
ふたりは身体の影に隠すように抜いたままだった小振りな長剣をタルカスへと向けた。
それは賊の持ち物にしてはずいぶんとよく手入れされており、刃や鍔の作りからは市場や商店で容易に買える程度の物ではないこともわかる。
なにより、その剣をタルカスはよく知っていた。紋章の部分が乱暴に削り取られているが間違いない。
「それは、かつて我が騎士団の見習いに支給されていた……お前たち……ま、まさか……」
その言葉の先を、
「おっとそこまでにして頂きましょうか、タルカス・フォン・ディルボルト“元”中隊長殿?」
「俺様たちは狂犬一家の
タルカスは混乱した心を押さえつけて沈黙し、生唾を飲み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます