誇りに驕る騎士3
イーヴァンは並び立つふたりの向かって右手側、
崩すべきは端から、個人も集団も戦闘とは突き詰めれば同じこと。自分が剣を握っている側から片付けるべきだと彼は判断した。
剣で盾を排除しながら
問題ない。賊如き相手にその程度は職業騎士なら誰でもやれる。
盾を
刃を当てるつもりはない。まずは盾の
しかしその目論見は脆くも崩れ去った。
剣の鍔は上手く盾に掛かったが、そこからぴくりとも動かないのだ。
「僕はね、普段左腕一本で日常生活を送っているんですよ? 両腕を自由に使えるあなたたちとは当然、腕力も握力も重心使いもなにもかもが違いますとも」
そのあいだにも盾に阻まれた
瞬時に
至近距離での混戦に特化した戦闘技術。この距離は拙い。
一旦距離を置こうとしたイーヴァンだが、そこに
剣は勢いよく部屋の隅へ転がっていき、それでもイーヴァンは姿勢を立て直しながら予備の小剣を抜いて追撃に身構える。
しかしふたりは敢えて追撃せず、その
「くっ……」
イーヴァンが苦々しく呻く。
こんなはずではなかった。職業騎士や高名な冒険者から逃げ回っているばかりの野良犬風情が、まさか自分と渡り合えるほどの腕前を持ち合わせているなど。
相手の力量を見抜けず万全に奥の手を整えさせたうえで正面から二対一を受けてしまったのは己の未熟以外のなにものでもない。
だが野盗風情にそれを認めるなど、由緒ある騎士家の跡継ぎとして生きてきたイーヴァンには到底できなかった。
「き、貴様ら……」
その怒りと恥辱は目の前のふたりに対するものか、それとも己の愚かさに対するものなのか。どちらともしれぬ震えた声が漏れた。
「ええ、ええ。心中お察し致しますとも」
そんなイーヴァンに向けて
「我ら狂犬一家、卑怯卑劣の誹りは誉れでございます。どうぞ存分に吠えてくださいませ」
その言葉に追い打つように
「おら、犬っころみてえにキャンキャン吠えてみろよ! なあ!」
安い挑発だ。しかしイーヴァンの自尊心はそれに耐えられるだけの強度を残していなかった。
「きっさまらあああっ!!」
小剣を大きく振りかぶり、
しかしその右脇に差し込まれた
そして
末期の呼吸すらもままならず目を剥いて崩れ落ちるイーヴァン。
「吠えろと言っておきながら首を刺すんですか? 酷い男ですねあなたは」
呆れたように言う
「ああは言ったが考えてみっと俺様吠える犬っころ嫌いなんだよな。耳にキンキンくっからよお」
「あなた割と勢いだけで喋ってますよね」
「まあな。いいだろ別に? 口でなんと言おうが行動が全てさ」
「いやはや酷い話もあったものです。ともあれ」
「ああ、ともあれだ」
ふたりは軋ませるように口角をあげて攻撃的な笑みを作った。
「「お楽しみはこれからだ」」
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