誇りに驕る騎士
誇りに驕る騎士1
「よかったのか? 殺しちまって。無益な殺生はしないんじゃなかったか?」
下流街で暴動を起こした同日の夜、上流街にある豪邸の二階にある一室で
死体の名はザルバ。
バロキエと長年懇意にしていた豪商であり、使用人として雇っていたラティアをバロキエに売り渡した男でもある。
「いいんですよ、これは有益な殺生ですから。この男、今更ラティアの素性を調べていたらしいですからね。もしかすると確信を持てなくてもバロキエに余計な進言をするかもしれません」
「それなら仕方ねえか、これだけの商人に貸しを作れなかったのは惜しい気もするが」
「そこは先ほど見逃してあげた息子夫婦に期待しましょう」
「っと、噂をすれば逃げたやつらに通報されたか? なんかきたな。ちょっと待て」
視覚を失った彼だからこそ成しえる高度な索敵能力。
「七人。六人が俺の壊した正面玄関、裏の勝手口にもひとりいるな。動きに恐れが少ない。練度が高い……。正面玄関側の指揮官は職業騎士だ。裏口は……この足取り、呼気、覚えがあるぞ」
「おい、窓から裏口見てみな」
「なんですか、煩わしい」
不満を漏らしつつも二階にある部屋の窓から外を伺うと、そこには周囲を警戒しつつ裏の勝手口から屋敷に侵入しようとしている姿があった。
その警戒、足取りは金属鎧に盾と長剣を携えてなお一端の盗人にも見劣りしない。
そしてそれ以上に、
「ほう、これはこれは……」
「知ったツラだったか?」
「ええ、ええ。それはもう」
「そうか。じゃあまずは表の阿呆共を皆殺しにしようぜ」
「そのあとゆっくりということですね。いいでしょう」
ふたりはザルバの死体を転がしたまま音もなく部屋を抜け、屋敷の一階と二階を繋ぐ広間の大階段へと移動した。
蹴られた衛兵は即死、しかし雪崩を打って階段を落ちた残り四人の衛兵は即座に立ち上がって臨戦態勢を取り、下で警戒していた職業騎士は巻き込まれすらせず傲慢な笑みでふたりを見上げた。
「出たな、貴様らが噂の狂犬一家か。それにしてはひとり足りんようだが。我が名はイーヴァン・フォン・ベッケングリーク。大人しくお縄につくならこの場で命は取るまいぞ」
そう言うあいだに衛兵たちは体勢を整えて段上のふたりへ得物を向ける。
「まあ、どのみち貴様らに死罪以外の沙汰はないだろうがな」
職業騎士の男、イーヴァンは嘲るように続け。
「いやはやなんとも、それは大変ありがたいお話ですね」
「その頃にはお前は八つ裂きになっているだろうけど、な!」
その言葉と同時に
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