善を振るう商人
善を振るう商人1
翌日、ベッケンハイム城下町の下流街市場は不穏な空気にざわついていた。
「きょーうはてーんきっだ、いっちにーいっちにー♪」
調子っぱずれな歌のような、女の掛け声と共に歩いてくるのは六人組。狂犬一家と“まつろわぬ民”の子どもたちだ。
一列に並んだ彼らは先頭から魔術士然とした隻腕の男
下流街は治安も悪くスラムの一歩手前、実際にこういった胡乱な
問題は三人の少年少女だ。彼らは首と胴で数珠つなぎに縄を打たれ、その先端を女が握って引いているのだ。
この六人が何者なのか? 子どもたちはなぜ罪人が如くに縄を打たれているのか? 市場に並ぶ露店の商人たちもその客たちも興味津々ではあった。とはいえ狂犬一家の顔など知らぬ一般人から見ても、この一行は明らかに常軌を逸した連中だ。
しかし子どもたちの沈んだ表情に良心が痛んだのか正義感でも疼いたのか、体格のいい露店商人の男が一行の前に立ちはだかった。
「ちょいと待ちな兄ちゃんたち。ガキ共が迷子になるのがそんなに心配かい? それにしたって犬っころじゃねえんだ、縄で繋ぐのはやり過ぎだろうがよ」
その身体は中年ながら長身で筋骨隆々、修羅場を潜った経験も幾度となくあるのだろう。今すぐ商人を辞めて傭兵になったとしても名をあげられそうな風体だ。
目の前に立たれた
「お気遣いありがとうございます。しかしご心配なく、これらは商品ですからこの扱いで差支えありませんので」
にこやかに返す
「商品だあ!? テメエ人身売買は大陸どこでもご法度だろうが! それもこんなガキを……よくもぬけぬけと抜かしやがったな!!」
「はあ、そうは言われましてもねえ?」
「この子らは“まつろわぬ民”です。人身売買と言うのであれば、彼らを“ひと”と定め庇護する法がベッケンハイムにはありますので?」
商人は言葉に詰まった。
もちろん“まつろわぬ民”も“ひと”には違いない。いくら平民としての登録がないといっても、実際に“まつろわぬ民”なら売買してもかまわないなどという理屈はどこの町でも通用しない。
が、そこに根拠がないのも、また確かだ。
うしろでは
「た、確かにそんなものはないが……テメエにだって人情くらいあんだろ?」
「いえ、そういう商品は扱ったことありませんけど」
商人が苦し紛れに放った言葉を無下に返してから、
「けれどもあなたはずいぶんと人情に恵まれたかたのようだ。どうです? 彼ら三人をあなたが買いませんか?」
「お、俺が?」
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