命を懸ける少年2


「あなたたちは昔からここに住んでいたのですか?」


 同じように食事をとりながら薄鈍うすのろが少年たちに声をかける。


「はい……あの……」


 言い辛そうにしているところで傷物きずものが「死んだ両親が“まつろわぬ民”なんじゃないの」と口を挟んだ。

 少年たちが明らかに怯えを含んだ警戒の目で三人を見る。おそらくは露骨な差別なり迫害を受けた経験があるのだろう。誰も彼らを助けてくれないし、助けを求めたところでむしろ迫害する側が増えるだけだ。

 そんな少年たちの反応に、傷物きずものの予想が正しいのだと察した男たちが同情の言葉を口にする。


「親はそれで良かったんだろうが、死んじまったら放り出されたガキどもはたまんねえな」


「こんな山のなかでは死を待つばかりでしょうしね。せめて町のなかであれば盗みでもなんでも生きようはあったのでしょうけど」


 このひとたちなら助けてくれるかもしれない。

 頼ってもいいんじゃないだろうか。

 人知れず死を待つばかりだった彼らにとっては光明そのものだったろう。


「まーでもこれでお小遣いには困らなそうね!」


 硬い狼肉を熱心に咀嚼しながら傷物きずものが言い放った。

 子どもたちは言葉の意味がわからず目を瞬かせている。


んのか?」


 宿六やどろくの不思議そうな言葉に傷物きずものが得意げに頷いた。


「そうよー、だってこれから城下町に入るんでしょ? 串焼き一本食べたくらいで盗っただなんだっていちいち揉めるのダルいじゃない」


「ガタガタ抜かしたら殴ればいいんじゃねえか?」


「他の町でそれやってめちゃくちゃになったじゃん」


「まあそうだがよ……お前最初からそのつもりだったのか?」


「そうよー」


 傷物きずものはにこにこ笑顔で子どもたちを見て言った。


「むしろじゃあ宿六やどろくはどういうつもりだったの? あんた子ども好きなの?」


「いや別に。んなこたあねえがなんか雰囲気で」


「あんたって割りと雰囲気に流されるわよね」


 その見た目だけは他愛ないやりとりを聞きながら少年は食器を握る手にびっしょりと汗をかいていた。

 自分たちをどこかに売り飛ばして金に換えるつもりなのだ。

 彼らは救いの手を差し伸べてくれたわけじゃなかった。たまたま見つけた手頃な売り物が今にも死にそうだったから治して餌を与えただけなのだ。


「つってもよ、いくら“まつろわぬ民”だからって人身売買なんぞそこらの市場じゃやってねえだろ。なんかツテでもあんのか」


「ないけどなんとかなるんじゃないの。ねえ薄鈍うすのろ?」


「ここで僕に振りますか。ふむ……」


 この世界にも人身売買がない、とまでは言わないが、公然と行われているわけではないし発覚すれば重罪だ。仮に窓口を見つけられたとしてもなんの信用もない者が簡単に売買に参入できるとはとても考えられない。

 それに自慢ではないが縄張り意識もなくところかまわず荒らしまわっている狂犬一家自分たちは裏社会でもかなり嫌われている。

 話を振られた薄鈍うすのろは子どもたちを一瞥した。少年たちもさすがに自分たちの置かれた状況を理解したのだろう。明らかに警戒している様子だ。

 幼い弟妹は少し年上の少年の影に隠れ、少年はフォークを強く握って上目遣いに様子を伺っている。

 薄鈍うすのろは薄く笑みを浮かべて宿六やどろく傷物きずものへ視線を向けた。


「まあどこかで売れるんじゃないですか? 知りませんけど」


 その言葉に弾かれたように、少年は宿六やどろくへと飛びかかった。

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