命を懸ける少年

命を懸ける少年1

 少年は朦朧とした意識を取り戻し現状を自覚する。

 薄暗い森に囲まれた山中の小屋のなかで呼吸音はみっつ。ひとつは自分のもの。もうふたつは年端もいかぬ弟と妹。

 自分の小さな手に狩りは荷が重い。かといって食べられる植物がわかるほどの知識もなかった。最初から諦めて町へ降りるべきだった。

 生半可な知識で取ってきた植物やきのこを煮て口にしたのがよくなかったのだろう。三人揃って嘔吐と高熱で倒れてしまい数日、小屋のなかで身動きできないまま死を待つばかりだった。


「こーんにっちわー!」


 女の声と同時に扉が開かれる。薄汚れた派手な赤いドレスの女、傷物きずものが微塵も臆する様子なしに入ってきて室内を見回した。


「お邪魔しますねーっとクッさ! これは臭いわーどこのスラムでももう少しマシよこれ、宿六やどろくちょっときてごらんなさいよー」


 室内は満足に立ちあがることもできないまま転がっていた三人の吐瀉物と排泄物の臭いが充満している。


「いや冗談だろここからでも臭ってくんぞ、絶対近よらねえからな!」


「あんたって割とそういうとこ繊細よね。じゃあ薄鈍うすのろでいいわ、ちょっと子ども引きずり出してちょうだい!」


「僕も臭いのは遠慮したいんですけれどね」


 外から男たちの声が聞こえ、薄鈍うすのろだけが小屋に入ってくる。


「これは酷い……」


 彼は呆れたように呟くとひとりずつ左腕で抱えて小屋の外へと運び出す。外で待っていた傷物きずものがひとりずつ治癒魔術で病を癒し小川で身なりを整えてくるよう言い含めて送り出した。

 少年たちがわけもわからないまま流されて全てが終わる頃には、大人たちは小屋から勝手に持ち出した薪や調理器具で鍋を作っていた。子どもたちの世話に一切関わらなかった宿六やどろくの背後には雑に捌かれた狼だったものが転がっている。

 つまり鍋の具は言うまでもない。

 最年長と思われる少年の表情が硬くなり、後ろに隠れるように立っていた幼い弟妹も不安そうに覗き込む。


「ん? どしたの、狼嫌いだった? 好き嫌いすると大きくなれないわよ?」


「俺様、狼食うのが好きってヤツ今まで会ったことねえな」


「奇遇ですね僕もです」


 傷物きずものの言葉に宿六やどろく薄鈍うすのろが茶々を入れるなか、少年が呻くように言った。


「父さんと母さんはこの前、狼に襲われて死んだんだ」


 その言葉に薄鈍うすのろ傷物きずものは顔を見合わせ、宿六やどろくは淀みない手付きで皿に肉とスープを盛って子どもたちに差し出した。


「ほー、それじゃこいつらで腹を満たすのは仇討ちだなあ! いいぞ食え食え!」


 彼らは暫し迷っていたが病を癒され食欲も戻った今、これを食べないという選択肢はないに等しい。

 奇妙な食事が始まった。

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