街道荒らしの賊3
その言葉に商人は戦慄した。
現実的に考えて彼らの顔を見てしまった自分たちを生かしておく理由などないからだ。
いっそ御者を置いて逃げてしまおうかとも考えたが、あの盲目の男からも十字傷の女からも逃れられるとは思えない。
そうだ、命乞いをしてみたらどうだろう。
冷静に考えてみればすでに冒険者に逃げられている彼らは今更自分たちの口を封じる理由もないはずだ。
そこまで打算するのにほぼ一瞬。
「ど、どうか……命ばかりは……」
商人の縋るように振り絞った言葉を聞いて三人が顔を見合わせる。
「だってよ。つっても生かしとく理由、別になくねえか?」
「まあ、そう言われたらないけどさあ。わざわざ殺す理由もなくない?」
ふたりの言葉を聞いた
「そうですね……生かしておいてあげましょうか。無益な殺生をすることもないでしょう」
「無益ねえ。俺様が殺した三人は無益じゃなかったってのか?」
「ええ、ええ、もちろん彼らの死は有益でしたとも。おかげで残り四人が逃げてくれたのでずいぶん手間が省けたでしょう?」
「そりゃまあそうだが」
「それにこの商人からは既に多くをいただきました。少々お釣りを返したところでバチは当たりませんよ」
彼は
「施せる程度の善行を怠ってはいけませんとも。
「それってまた私にタダ働きしろってことでしょ」
「殺すまでもないと言ったのは
「そーだけどぉー」
これには彼女だけでなく
「すげえよな、どのツラ下げたらそんな偽善丸出しの台詞言えんだ?」
「ははは、お見せできなくて残念ですね」
「お? ヤんのかコラ」
「もー! はいはいそこまでにしてちょうだい」
「あんたたち運がいいわ。仕事がいいのかな。お肉が不味かったら死んでたかも」
そう言いながら御者の傷へ手をかざすと、出血は止まりじんわりと傷が塞がっていく。
治癒魔術は擦り傷を治す程度の簡単なものなら一般人でも扱えるが、骨が砕け多量の出血をしているような傷は治癒魔術士でもなければ手に負えない。その意味で彼女は十分本職として通用する力量を供えていた。
「あ、ありがとうございます」
まさか命どころか治療まで施されると思っていなかった商人はあっけにとられたまま礼を言う。
「馬も一頭あげるから、その御者乗せてさっさとおうちへ帰んなさい」
「無事に辿り着けたら衛兵にでも相談なさい。力になってくれるかは知りませんけど」
「逃げた冒険者には気をつけな。仕事の失敗を隠すためならお前らを殺してもなんともねえ連中さ」
商人はそれ以上なにも言わず、意識のない御者を馬に乗せると一目散にその場を離れていった。
次の機会? 冗談じゃない。商人は二度と彼らに逢わないよう女神に祈りを捧げ続けた。
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