街道荒らしの賊2
「にーくにっくーおっにっくぅー♪ はーい
肉感的な肢体を持つ女は、目鼻立ちも美しく整っていながらしかし眉間を中心に顔面いっぱいの大きな十字傷。剃っているのか眉はない。
彼女が馬車の荷台から鶏もも肉を投げると、
「肉は干してあっても肉だよなあ。これって鶏肉かあ? なあ!」
見えているのかいないのか、彼の両眼を完全に覆っている包帯のような布にはなんらかの魔術文様が縫い込まれている。
「まあなにかの鳥でしょうね。知りませんけど」
隣に座っていた緑掛かった黒髪に眼鏡の優男が投げられた二本目の鶏もも肉を左手で受け取って口にした。
ゆるりと纏った長衣は魔術士のようであり、両腕を隠すように羽織られた外套の右側は存在しないのか不自然に垂れ下がっている。
「もう!
少女のような癇癪をおこす彼女の視線の先、商隊の主である商人は傷付いた哀れな御者を抱えて今にも泣きそうな顔で三人を見ていた。
彼女の第一射を受けて右目と右手に深手を受けた御者は、馬車から転がり落ちながらも一命を取り留めていた。
今は荷台に乗っていた商人の男が看病している。といっても治療も手当もできない現状では意識のない御者に寄り添っているくらいしかないのだが。
「よう、こいつは旨い肉だが鶏肉なのか? 悪いが俺様ちょいと教養がなくってなあ! つーかそもそも見えねえんだけどよお!」
筋骨隆々の目隠し男、
「というか味が鶏肉でしょうに」
細身の男、
「知らねえっつってんだろしつけえぞ」
雑に切られた短髪赤毛が
「目玉もないクセにメンチを切るとは。食事中に笑わせないで貰えますか」
「やめてちょうだいって言ったでしょうがこぉの
「
「まあ肉がなんだろうと美味けりゃ俺様はかまわねえさ」
「今さら? もとはと言えばあんたが気にしたんじゃん」
彼女は
「それでご主人様ぁ? どうなの実際のとこ」
十字傷を持つ女は自分たちが襲撃者であるなど微塵も気にせぬ風情でぐいぐいと笑顔を寄せる。
商人は震えを押し殺した声で「鶏肉の燻製、です」と答えた。
「そうなんだ? いい商品ね」
彼女は他人事のようにそれだけ言って他のふたりと輪になるように腰を下ろした。
「でもちょっと固いわね。そこの野蛮人どもにはちょうどいいのかもしれないけど」
「文句があるなら草でも食ってろ。それよりそいつらどうすんだ。とりあえず殺しとくか?」
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