第28話

「ほら、僕の勝ちだ」

「むう」


 暗闇の中、俺たちの目の前に卵男とヘンリーがいた。


 ショッピングモールは影も形もない。

 ただ、暗闇の中に俺たちが立っているだけだった


「ヘンリー、どういう」

「賭けをしたのさ。僕は君たちが無事にショッピングモールを出る方に。こちらの神の息子は、君たちがたどり着けない方に」

 ヘンリーは、にこやかにそう言った。

「僕が負けたら、そのまま終わり。もし勝ったら、僕はすべての財産を持って彼らとともに生きることにした」

「え、それってずいぶんと分が悪くないか」

「何を言うんだ。この人は神の息子だ。すなわち神なんだぞ。こんな機会あるはずがない」

 いや、何かおかしいぞ。本当に。

 まあ、本人がいいならいいんだが。

「まあ、父も非常にお喜びでしたのでいいでしょう。さて、あなた方には報奨が必要かと思います。何が欲しいですか?」


「元の姿に戻せ」

「元の姿に戻ったとたんに死にますが、よろしいですか?」

「ちょっ……」

 どういうことだよ、それは。

「二度の変化に耐えられるほど、人間は強くありません。せっかく若返ったのだから、受け入れるのをおススメしますよ」

「じゃ……、じゃあ」


「私とこの人が生きられる場所が欲しい。いきなり若返ったからって、受け入れられる世界じゃないの。その手当はまず欲しいわね」

「それは受け入れよう。生きるために必要なものの手配だな」

「それと秋葉原でメイド喫茶をやりたいの」

 エマがきっぱりと言った。

「は?」

 思わず声に出した。

「私とユーリで。だからお店と運営資金かしらね」


「ぶはははははははは。エマ・グレイソン。この世界でもっとも優れた研究者の一人がメイド喫茶? 僕は客で行くぞ。はははは」


「一時的にお金もらっても、面白くも何もないわよ。私と一緒じゃ、嫌?」

「いや、その……」


 俺は言葉に詰まった。

 ふむ。

 元の姿に戻れない、とは言え、命が助かり、またエマと一緒にいられるのなら、そう悪くはない結末なのだろう。


「わかった。それに乗るよ」

「よかろう」

 そう返事をした瞬間、俺の意識が遠のいていった。

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