第27話

 俺は階段を駆け降りた。

 すると、下の階からドーナツ頭のマネキンたちが、わさわさと上がってくるのが見えた。


 無視して眼前を通り抜ける。

 弾切れと思しきM4カービンが転がっている。


 ヤバい。下手すりゃ丸腰だ。

 見ると、家具売り場のカウンターらしきところに、マネキンたちが集まっている。


「エマ―ーーーっ!」


 叫びながらマネキンたちを背後から撃つ。

 ミニ14ではなくグロックで。

 貫通してエマに当たったんじゃ、寝覚めが悪すぎる。


「ユーリっ!」


 カウンターの中から声。

 よし!

 顔はくしゃくしゃ。

 今にも泣き出しそうな顔で。


 俺は、肩から提げていたミニ14を差し出した。


「ラスボスは倒した。あとはここから脱出するだけだ」

「ヘンリーは?」

「神と交渉するとさ。走れるか」

「そうね、あなたが一緒なら」


 もう笑っている。

 いいな。

 ああ、いい。

 惜しむらくは、俺の姿がこんな姿だという事実だ。


 とは言え、今は。


「行くぞ」

「はい」


 マネキン達の攻撃方法は抱きつきだ。

 距離を置きたいが、何しろ数が多い。


 まあ、ゾンビ映画もラストはだいたいこんな感じだ。


 とは言え。


「負けてやるつもりはないな」


 マネキンの首をはね、腕を飛ばす。

 エマは定期的に足を止めて、マネキンを撃ちぬく。


 走り続けてショッピングモールの端。

 さんさんと太陽の輝く、オープンテラスまでやってきた。

 ガラスを撃ちぬいて、出入口じゃないところから外に出る。


 柵の向こうを見る。

 階段状に、一つひとつの階が出っ張っている。

 左右眺めると、階下に降りる階段。


 階段に向かって走る。

 幸い、下の階のマネキンたちはオープンテラスには出てきていない。

 売り路から来るやつらに気をつけていればいい。


 途中休憩用に置いてあるテーブルを蹴とばして、やつらの歩みを妨害しつつ走る。


 そして、一階。

 ショッピングモール入り口を示す大きな門のモニュメントを越え、道路に足を踏み出した。



 刹那。



 世界が暗転していた。

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