第25話

「さて、蛮族の戦いといこうか」

 一歩踏み出すと同時に、刀を振りぬく。

 ラスボスは、ハルバードの柄で刀を受けた。


 そのまま、低い薙ぎ払い。

 ステップして躱しつつ、後ろへ下がる。


 着地と同時に突進してきた。

 かろうじて躱す俺の脇を通り過ぎていく。

 刹那、後方からもう一度襲い掛かってきた。


 大きく距離を取る。


 そのタイミングでヘンリーの援護。

 銃弾は跳ね返されるも、一瞬の怯み。


 それに合わせて突き。

 腹部の関節部分に日本刀を突き入れる。

 同時にラスボスは後方へと逃げる。


 かろうじて届いた刃は、腹部を切り裂くも、致命傷という雰囲気はない。


 とは言え、関節部なら刃が通ることはわかった。


 再び、ラスボスが突進してきた。

 突進は今のところ二パターン。

 振りかぶって、そのまま床を破壊する勢いで突っ込んでくるか、ハルバードを槍として扱い、穂先を突き込んでくるのか。

 そして、突きは、そのまま反転してくる。


 初動で見分け、避けていく。


 そして薙ぎ払い。

 これもハルバードの構えで予測できる。


 予測できれば、後はチャンスが来るまで粘る。

 問題は今の俺の体力だが、そんなことは言ってられない。


 ヘンリーの援護は距離を取らないと当てにならない。

 まあ、そうでないと本人も撃てないのもわかるし、その方が安心だ。


 二、三合撃ち合うと、ラスボスは不思議な行動を取った。


 いきなり、ハルバードの穂先を床に突き立てたのだ。

 すると、ラスボスが増えた。


「分身?」


 三体同時突進。真ん中は突き。

 左右はそれぞれ振りかぶりと薙ぎ払い。


 何かの回路が接続した。

 急激に世界の速度が落ちる。

 前転してすべてのハルバードを避ける。

 向きを変え、背後から再び突き入れるラスボスに正対する。


 ハルバードの軌跡が見える。

 それに足をかけ、スピードを上げたまま刃を腹部に突き入れる。


 あまりのスピードに互いに衝突して、当然ながら俺の方がはじかれた。


 そのまま床にたたきつけられた俺にヘンリーが駆け寄ってくる。


 ラスボスは、よろよろとよろめきながら、おもむろに両膝をついた。

 顔に当たる部分でいくつかの光が明滅して、そりまま動きを停止した。



 そのタイミングで階下から爆発音。



 エマの方も家電百足をしとめたのだろう。



「すばらしい。ゲームクリアです」

 卵男が拍手しながら近寄ってきた。


 いや、ちっともクリアした気にならない。

 普通、お前がラスボスだろ。


 俺はホルスターのグロックに手をかけた。


「とは言え、一人残ったご友人はなかなかに苦戦をしているようですな」

「今すぐ止めろ」

 俺はグロックの銃口を向けた。

「私には止められません。そもそも止められるものではないのです。ただ、プログラムが動いているだけですので」

「メインスイッチ切ればいいだけだろ」

「申し訳ございません。私にはそのような権限がなく」

「貴様!」

「待て」


 ヘンリーが俺の肩をたたいた。


「こういうヤツの相手は僕の仕事だろう。エマを助けてやってくれ」

 そう言ってミニ14を差し出していた。

「大丈夫か」

「まあ、話してみるさ。少なくともビジネスの交渉事なら、君よりもうまいと思うよ」

「わかった」


 俺はミニ14を受け取った。


「運よく、このショッピングセンターを出られればよいですね」

 卵男が嫌味のように言った。


 いいだろう。やってやる。

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