第21話

 筒抜けの輪が顔だった。

 人間大のバケモノが真正面にいた。

 おおもとはマネキンなんだろう。

 四肢がある人間のような化け物。

 化け物と言い切るのは、顔の部分がすっぽりと抜けた、ドーナツみたいな頭を持っているからだ。

 そして、ドーナツの輪の中にびっしりと鋸のような牙が並んでいる。


 ヘッドショットはあきらめて、胸と腹に一発ずつぶちこむ。

 赤い血とともに、もんどりうって倒れる。


 ブティックであろう店舗から、ぞろぞろとやってくる。


 ルールが書き換わった。

 店舗は安全地帯ではなくなった。


「ショッピングセンターまで走ろう。もう、店舗は安全地帯ではなくなったようだ」

「そうね。賛成」

「ついていく!」


 俺たちは走った。

 そして、エントランスの階段を上って、入り口へたどり着く。

 自動ドアは開かない。

 俺は銃弾をたたきこみ、ガラスのドアを割る。

 砕け散ったガラスドアを抜けて店舗へと踏み入れる。

 目の前の柱に店内図。

 そして、スポーツ用品売り場を探す。

「左へ!」


 マネキンがひたひたと迫ってくる。

 先頭のヤツを撃つ。

「あったわ」

 ショッピングセンター内らしい、地味な売り場だ。

 ウッドストックのライフルとショットガンがメイン。

 ガラスケースの中、金属製のコードにつながれている。


「弾丸を!」

 鍵のかかっている引き出しを壊して、M4で使えるマガジンと弾丸を探す。

 ヘンリーは、レミントンで使える弾丸を箱で取り出している。


 周囲からマネキンが迫りつつある中、マガジンへの装填の時間を稼ぐ必要があった。

 そして俺はを見つけた。

 日本の鎧甲冑と一緒に飾られている日本刀。

 鎧甲冑と飾られている割には、反りも長さも、幕末あたりの打刀だ。


 ガラスケースをたたき割り、それを手に取った。

 重さ、バランスともにしっかりとしただ。


「時間を稼ぐ。エマのライフルのマガジン装填とショットガンは二丁持って。あと、グロック19のマガジン探して。なければ、適当にピストル用意してマガジン何本か。エマ、頼めるか」

「わかった。まかせて」


 俺は、その言葉を背に、マネキンに正対した。

 そして、メイド服のエプロンに刀をさす。


「さて、一人残らず叩き切ってやるから、かかってこい」

 襲い掛かるマネキンに対して、居合一閃。


 首を飛ばし、返す刀でもう一体を袈裟懸けにする。


 二体とも動かなくなった。

 そう、殺せるのだ。こいつらは。


 マネキンの腕には、びっしりとトゲが生えていた。

 両手を広げて、抱き着いてくるのが、こいつらの攻撃だった。

 それ故に、攻撃のタイミングが実にわかりやすい。


 とは言え、捕まったら逃げ出すのも難しそうだ。

 実質、即死はなくとも、死は間違いない。

 それを躱しつつ、刀を振る。


 数が増えてくるとさすがに厳しい。


「お待たせ!」

 その言葉とともに銃声。


 それも複数。

 エマのM4とヘンリーのレミントン。


 俺はもう一度、刀の柄を握る。

 そしてマネキンたちの中に躍り込んだ。


 俺たち以外のものが動かなくなるのに、そう時間はかからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る