第20話
「これがゲームとしたら、クリアして自由になる、というところか。クリアしても、次のステージが始まるだけ、という最悪のケースもあり得るけど」
「えー、それは嫌よねえ」
「ヘンリーは、そもそもなぜ神を探そうとしたんだ?」
「そりゃあ、会ってみたいからさ。そして、あわよくば、神の力を手に入れたい」
「神の力とは?」
「生物学の領域で考えれば、神を研究することで、僕らは病気と縁が切れるのではないかと思っている。ミス・グレイソンに期待しているのは、その領域だ。もちろん、光あれの一言で、世界が救われるなら、それでもいい」
「ずいぶん具体的だな」
「当たり前だ。ビジネスの課題が具体的でなくてどうする」
「ビジネスの成功のために、神と会いたいのか」
「ユーリ、君にはロマンがないのか。神だぞ、超越者だぞ、会ってみたいだろう」
「いきなり矛盾したぞ」
「ああ、そうか。そう聞こえるか。ビジネスは、ロマンを実現化するための対価の部分さ。少なくとも、それによる利益分までは金をつぎこめる」
「そういうことか。で、会ってどうする? 一緒にスーパーマリオでもやるのか?」
「ああ、それもいいねぇ。神はピザとコーラは食えるのかな」
「食えるといいな」
思っていた以上のロマンチストだったらしい。
とは言え、ロマンをかなえるためのビジネスプランを並行で走らせるあたりは、やはり只者ではないのだろう。
「さて、整理するわよ」
とは、エマの言葉。
「今わかっていること。我々はヘンリーが神様にちょっかいかけたおかげで、今、神ゲームのコマ扱いされているということ。ついでに言えば、多分デスゲームよね、これ」
「ふむ。僕の責任か」
「多分ね。ただ、私もユーリもプロとして対価をもらって、この仕事をしたのだから、そのことでヘンリーを責めるわけにはいかないわね」
「ふむ。実に公平な意見だ」
「そこには異論はないよ」
次に受けるときは倍額でも足りないけど。
「とりあえず、このゲームをクリアすることが、我々の生存のための道と考えるわ。そのために、ゴールを目指す」
「いいだろう。僕は神と会いたい。当然生き延びたい。そのためにゲームのような、この世界から生きて脱出する」
「異論なし」
俺も賛成。
「僕も武器が欲しい。何かないか」
俺はヘンリーにショットガン、レミントンM870を差し出した。
「いいのか? 君はどうする?」
「これを使う」
パトカーから持ち出していたもう一丁を取り出す。
グロック19。
「予備弾はないが、まあマガジンはフルロードだ。しばらくはもつ」
「私がそっちでもいいぞ」
「素人では、拳銃は当たらないよ。まあ、ショッピングセンターに銃砲店があることを祈ろう。まあ、あれだけの店だ。多分あるだろう」
この国ではショッピングセンターに銃砲店があるのは、割と当たり前だ。
品ぞろえは、少々怪しいだろうが。
「わかった。では行こうか」
「先頭は俺が行く。ヘンリーが続いて、しんがりはエマ」
「了解」「わかったわ」
「ヘンリー、ショットガンは俺の方に向けるなよ。簡単に当たる」
「わかっている。狩猟くらいはしたことがある」
「なかなか頼もしい言葉だな。では行くか」
三人がそろって移動する。
念のため、一気にショッピングセンターを目指すのではなく、一軒ずつ建物に入りながら移動する。
このあたりの建物だと、「誰かがいた形跡」がなかった。
ねばねばとした粘液だとか、荒らされた商品とか、そういう類のものがなかった。
三軒目は眼鏡店。
さまざまな眼鏡が並んでいる。
「少し休憩。息を整えよう」
「了解」
「わかったわ」
念のため、外を警戒しつつ、息を整える。
すると、エマがいきなり眼鏡を差し出してきた。
「うん?」
見るとエマは、オーバルフレームの眼鏡をかけている。
「あれ、見えてるんじゃなかったっけ?」
「ええ。でもないと落ち着かないのよ」
「そういう理由で……」
と笑う。
習慣ってバカにできないものだな。
「あなたもかけて」
「え? 俺も?」
「だって、かけてたでしょ。眼鏡」
「ああ、そう言えば、そうだけどな」
裸眼にそれほど違和感は感じていなかったが……。
まあ、いい。
言われたことは聞いておこう。
とは言うものの、エマ、眼鏡似合うな。
知的な感じが、とてもいい。
いや、何考えてるんだ、俺は。
戦場だぞ。しっかりしないか。
「どうしたの?」
と、エマがのぞきこんできた。
ずいぶんと距離が近い。
「い、いや、何でもない」
「ふうん。ユーリ、似合うね。眼鏡」
「あ、ああ、ありがとう」
しばらくはこのままでいよう、そう誓った。
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