第15話

「銃は手に入れたけど、敵のグレードアップがひどいな。難易度設定おかしいぞ」

「そうね。銃で何とかなる気がしない」

「ああ。言うとおりだ。他に何か考えないと」


 とは言え、ガーデンショップではどうにもならない。


 あるのは、草花と肥料、そして花壇用の土くらいだ。

 枝切用のチェーンソーくらいは使えそうだが、弾丸があるかぎり、銃の方が早い。


「きゃ」

 エマが何かに躓いたのか、転んでいた。

「何してんの」

 助け起こそうとして、手を伸ばす。


 スカートがめくれていた。


 あ。


 あるべきものがない。


「きゃ……」


 慌てて、めくれあがったスカートを押さえる。


「見た?」

「すまん、見た」


 はいてなかった。


 そうか、制服はあっても、下着まではないか。

 靴下や靴までそろっていたので、気づかなかった。


「撃っていい?」

 顔を真っ赤にしてM4カービンを構える。

 いや、自分で転んでおいて、それはない。


「ちょっと待て。これやるから」

 そう言って、俺はスポーツ用品店からいただいてきた、スポーツ用の下着を取り出す。


「え。こんなもの持ってたの?」

「うん」

「早く、出しなさいよ!」

 いや、そう言われても……。


 奪うようにして、下着を取って、事務所の影に隠れた。

「見ないでよ」

「はいはい」


 笑みがこぼれる。

 何か、緊張がほぐれた。


 チューブマガジンに散弾を押し込みながら対策を考える。


「対戦車砲が欲しいな。もしくは空爆要請が欲しい」

「空爆?」

「ああ。あいつを吹き飛ばしてほしいよ。爆弾降らせて」

「爆弾か……」


 そうつぶやくと、エマは周囲を見回した。

 すると、何かに気づいたように、商品のラベルを見始めた。


「この肥料、硝酸アンモニウムね。爆弾なら作れるわよ」

「硝酸アンモニウムか!」


 肥料の成分は、硝酸アンモニウム。

 これは、世界中のテロリストのお手軽爆弾材料として、ネット検索レベルで出てくる代物だ。


 2020年8月、レバノンの首都ベイルートにあるベイルート港で爆発事故発生した。

 ベイルート港爆発事故として有名なその事故は、政府によって没収され過去6年間港に保管されていた約2750トンの硝酸アンモニウムが原因だった。

 量が量とは言え、都市の半分以上が被害を受け、二百名余の命が失われ、七千人以上が負傷した。

 非核の人工爆発事故としては、史上六番目の大きさだったという。


「単なる爆弾の材料扱いされると、非常に心外だけどね。硝酸アンモニウム。あなたみたいな人にとっては、ベイルートの爆発事故やオクラホマの連邦政府ビル爆破事件とかのイメージだと思うけど」

「うん、まあ、それはそうだ」

「ハーバー・ボッシュ法って聞いたことある?」

「ああ。何となくだが」

 何で聞いたんだっけ?

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