第14話

 そして、俺は気づいた。

 ガーデンショップの隣に止まっている車に。


 白と黒のツートンカラー。

 パトカーだ。


 だとしたら。


「店へ走って!」

「ユーリは?」

「武器を手に入れる!」


 パトカーは、まだ鉄の塊のまま。

 化け物にはなっていない。

 辿りつくや否や、ピッケルでウインドウをたたき割ってドアを開ける。


 いきなりエンジンがかかった。

 手が触れているドアが脈打つ。

 化け物に変形していく。


 俺は構わず乗り込む。

 そして、助手席との間に立てかけられていたショットガンを手に取る。

 ポンプを引き、初弾を装填し、メーターバイザーへと向ける。


 すでに、生き物の腹の中と化した車内で、俺は引き金を引いた。


 オイルなのか、血液なのか、黒い液体が飛び散った。


「viiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii」


 叫び声。


 そのまま、迫りくる街路樹に銃口を向ける。


 轟音に合わせて、枝葉に交じった金属パーツがはじけて、動きが止まった。

 肉でできたダッシュボードから、箱に入った散弾を取り出す。


 ついでに、トランクへと回る。


 ショットガンで鍵を打ち抜き、トランクを開ける。

 そこにはM4カービンが格納されていた。

 後は拳銃やら弾倉の入ったバッグも、


 それもいただいて、ガーデンショップへと向かう。


 あちらこちらからエンジン音がし始めた。

 街路樹たちも、身を震わせている。


 多分、ステータスが変わった。


 こちらの武器がグレードアップしたため、ステージが上昇した。

 そんな気がする。


 人は死ぬけど、やはりこれはゲームなんだ。

 そんな気がする。


 エマが叫んで、指差している


 俺は、その指し示す方を見た。

 そこには、十八輪トレーラー。

 ビッグリグが、排気管から黒い煙を吐きつつ、ゆっくりと向かってきていた。


 ヤバい。ヤバい。桁が違う。


 ガーデンショップにたどり着くと、エマが店のドアを閉めてくれた。

「使える?」

 俺はM4カービンを差し出した。

「兵役で練習だけしたわ」

 おう。スウェーデンって、兵役あったっけ。

「それは何より」


 とは言え。


「あのビッグリグ、どうなるかな。あれも化け物になるのかな」

「多分、そうじゃない。あのパトカー、かなり気持ち悪かったわよ」

 そうか。エマは、あのパトカーが初めて見る化け物車だったっけ。


 ビッグリグが止まった。

 そして、身震いした。

 エンジンの振動だけしゃない。

 そして、それい合わせて、町全体が揺れている。


 フロントのタイヤが腕のように伸びた。

 そして、大地を支える。


 ボンネットが割れ、牙が生えてきた。

 そのまま、ずるりと首が伸びた。

 ボンネットの前半分が顔になり、恐竜のような首を伸ばした。


 その姿は見たことがあった。


 ドラゴン。

 ドラゴンだ。


 ぎろりとこちらを見た。


 そして、一声。


 それに合わせて、周囲の街路樹や化け物車が起きだしてきた。

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