第13話

 ダイナーのドアをゆっくりと開ける。

 今のところ、怪しい動きはなし。

 俺が一歩先に。

 エマはまだ店内でこちらを伺っている。


 ハンドサインで合図。

 そりに答えて、ゆっくりと出てきた。


 お互い、掃除用のモップの先に包丁を縛り付けた槍を手にしている。


 ゆっくりと、腰を落としつつ歩く。


 目的地は隣の店舗。


 店舗内にいる限り、化け物は襲ってこないというルールが「もし」あるなら、店舗伝いに行くのが安全という判断だ。

 ついでに、三人目に会える可能性もあるということで。


 ダイナーの隣はガーデンショップ。花屋というか、庭いじりの店。

 まずはそこへ向かって歩く。


 背後でがしゃんという音がした。

 金属でできた機械の音だ。

 ゆっくりと振り向くと、そこに街路樹がいた。

 いや、その表現は正確ではない。


 街路樹から機械の足が生えていた。

 短いけど、複数の足。

 機械の蜘蛛の身体が植木鉢みたいになっていて、その上に街路樹があるような、歪な姿。


 そして、木の枝の先には高枝切りばさみのような手? のようなものがついていた。

 そして、腹には、トラバサミみたいな金属の口。


「走れ!」


 俺たちは走った。

 がしゃんがしゃんと追いかけてくるその様子は、まさにゲームの世界だ。

 だが。


「どう考えても、安定悪いだろ」


 槍を足元に投げつけると、モップの柄に足が絡んで、盛大に転がった。

 そのタイミングで、エマが火炎瓶を投げる。


 火に包まれて転がりまわる街路樹の向こうから、もう二体、街路樹が駆けてくる。


「行こう」

 すべて相手にしているだけの、武器はない。

 逃げ切れるなら逃げ切りたい。


 そう考えて走った俺らの足元に死体が転がっていた。


 少女の死体。

 下半身がなかった。

 血だまりの中に、あおむけに転がっている。

 Tシャツを着ているが、下着はつけていない。


 おそらくは。


 俺らのだ。

 そして、なす術なく殺されたのに違いない。


「くそっ」


 背後からがしゃんがしゃんと街路樹が近づいているのがわかった。

 理性が自分を奮い立たせる。

 エマも死体を見て固まっていた。


 ゲームの世界かもしれない、と立ち上がった俺らの心に、思いきり冷や水を浴びせられた気分になった。

 それと同時に。


 俺らで遊んでいるやつらに、思いきり腹が立った。


「行くよっ!」


 エマの手を取って走り出す。

 目指すはガーデンショップ。

 とにかく、安全地帯へ。

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