第12話

 sideE


「ああ。それ俺」


 え?

 あれ、あなただったの?


「え? あなた、サムライだったの?」

「まあ、見世物芸だけどね。一部の人に受けるので、要人護衛とかで、よく披露していた」

「ふむ。あれがあなただったのね。今はずいぶんかわいらしいけど」


 うん。すごく可愛いのよ。気づいてる?

 できれば着飾らせたい。男にしておくのはもったいない。


「それはお互い様。パーティーの間もタブレットを手放さなかった、若い女性の研究者がいたのは覚えてる。たしか、プラチナブロンドで眼鏡かけていた気が」


 む。何でそんなこと覚えてるのよ。



「そう。眼鏡かけてたの。私。だけど、今は裸眼で結構見えているの。この若返りのメカニズム、文字通り眼が悪くなかった頃の私に戻っているのよ」

「そうなのか。まあ、こっちは、体力とか運動能力が子どもレベルなので、思うように動かないストレスばかりだけどな」

「ふむ。いろいろとわからないことが多いわね」

「そうだな。で、何か考えはある? 今の状況を打破する何か」


 そして私たちは、この世界について話し合った。

 ずいぶんとゲームを思わせる世界観であることと、それを受け入れた場合、どのようなステージ構成になるか、ということ。


 そして、ゴールはショッピングセンターと予想。

 まあ、たしかにゲームのゴールは一番高いところか、一番地下の奥深くだ。


「ゲーム好きなの?」

「日本人なら、大体好きなんじゃないかな、主語大きいけど」

「そうね、サブカル大国だもんね。この店もそうじゃない?」

「そうだね、多分」


 そうか。ゲームとか好きなのか。

 じゃあ。



「そう言えば、着替えたら。そのパーカー、何か臭い」

「まあ、そうだけど……、ああ。化け物の唾液だ」


 唾液……、うえ。


「ちょっと洗ってくる」

「これ。着たら可愛いと思うわよ」


 そう言ってメイド服を差し出した。

 さっき見つけていて、どっちを着ようか迷っていたものだ。


「え……」


 嫌そうな顔。

 あ、その表情も悪くはないけど。


「大丈夫です。あたしのと違って、ロングドレスだから、恥ずかしくはないわよ」

 圧力を込めて言う。

 すると、メイド服を受け取って、事務所の奥に消えた。


 そして出てきた姿は完璧なメイドスタイル。

 す、素晴らしい!!


「似合う……。さすが日本人!」

「いや、メイドって、本場は英国だろ」


 む、わかってない。


「何を言うのよ、現代のメイドの聖地は日本の秋葉原でしょ。黒髪の女の子のためのものなのよ」


 うん。いや、可愛いよ。ユーリ。

 素晴らしい。


 ちょっと恥じらい入った感じの表情がハイポテンシャル!

 これで、元男というのも、何か背徳感あって素晴らしい。



「まあいい。何はともあれ、このくそったれな悪夢のゲームを終わらせよう」

「そうね。あそこで終われるかどうかはわからないけど」

「それは言いっこなしで」

「そうね」

「だけどあなたとなら、何とかできる気がするわ」

 

 そう。きっと何とかできる。

 そんなことを思っていた。

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