第7話

 sideE


 街路樹の根元から、機械の足が生えた。

 そして、がしゃんという音とともに、街路樹が立ち上がった。

 蜘蛛型のロボットモデルが開発されているが、まさにそんな感じの足がついている。

 そして、街路樹の腹が割れている。中に金属の牙が見えた。


 そして、枝が節で分かれて、ロボットアームのように振り回されている。

 先端は二つに分かれてペンチのようだ。


 戯画化された悪夢のような。


「トリフィド?」

 トリフィド時代というテレビムービーに出てきた人食い植物によく似ていた。


 そして、その向こうに駐車していた車のエンジンがかかった。

 どるんどるんとお腹に響くような低音。

 ボンネットが開いた。

 鰐の口のように、びっしりと牙が生えている。


 こちらは機械というより、生物のようだ。


 ふと我に返る。


 逃げなきゃ!


 気づくと、ロボット植物は一体だけでなく、何体かいて、それらが近づいてきていた。


 私は走ってダイナーの店内へと逃げ込んだ。

 閉めたドアに対して、ロボット植物は近づいては来ず、やがて自分たちのいた場所へと戻っていった。


「な、何なのよ、あの化け物!」


 そのタイミングで、いきなり電話が鳴り始めた。

 心臓が跳ねる勢いで驚いたが、誰もいないダイナーで、その電話は鳴り続けていた。


 取ろう。


 私は勇気を振り絞って、受話器に手を伸ばした。


「誰?」

「君こそ、誰? そこはイージスカンパニーでは?」


 いーじす???


「知らないわよ、そんな会社」


 あ、ちょっと待って聞いたことある。

 私が参加した探検隊で……。

 あ、思い出した!

「いや、いえ。それはうちで契約していた警備会社じゃない、あなた、誰?」

「俺はイージスの社員で……」

「じゃ、じゃああたしを助けてよ! あたしはエマ・グレイソン。どこなの、ここは! あたしはパンドラ島にいたはずなのに!」

 パンドラ島。そう。私はそこにいた。

 そこにいたはずなのに!

「今、どこにいる? 周りに何がある?」

「知らないわよ! ダイナーなの? ロイヤルグリル? 気が付いたらここにいて……。店の外に、何か変な……」


 いきなり電話が切れた。


「何よ! もう!」

 受話器をたたきつける。


 とりあえず、武器を用意しよう。

 キッチンから包丁を取り出す。

 一番長いヤツ。


 そして、包丁を握りしめて考える。


 待つのか。出ていくのか。

 包丁だけで、あのロボット植物に勝てるとは思えない。


 イージス・カンパニー。

 警備会社の人間の方が戦いなれているのは間違いない。

 私も兵役の経験はあるけど、包丁一本で何とかなるとは思えない。


 だけど……。

 電話の声は女の声だった気がする。

 しかも、子どもみたいな。



 とりあえず、待つしかないのか……。

 私はため息をつきつつ、ソファーに腰を下ろした。

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