第8話

 ロイヤルグリルは、普通のダイナーにしては、少々派手な外見をしていた。

 何か、こう、英国風の外観。


 ああ、だからロイヤル、なのか。


 そして、看板の文字は、ロイヤルグリル「カワイイ」。

 店名に何か嫌な予感がしたが、とりあえず無視する。


 ゆっくりと入り口に近づき、ドアをたたく。

 しばらくすると、誰かが近づいてきた。

「誰?」

「さっき電話で話したイージスの人間だ」

 ドアが開いた。


 転がり込むと、そこには派手な制服、いや、メイド服に身を包み、包丁を構えた少女がいた。


「あ、あなたは?」

「さっき電話で話したイージスの人間だ」

「え? あなた……が」

「奥へ行こう。人を食う化け物みたいな車がうろついてる。奴らは店の中に入ってこないらしいが、目立つのはよくない」

「あなたも見たの?」

「ああ。三台ほど焼いてきた」

 そう言って、トートバッグを指し示す。

 あと二本、火炎瓶が入っている。

「殺したの?」

「多分な」


 俺たちは店の奥の事務スペースへと入った。

 着ているのは間違いなくメイド服。赤いリボンに黒いミニのワンピース。そして白い派手なフリルのエプロン。

 店の雰囲気から鑑みて、最近流行っていた日本のメイド喫茶の輸入店舗なのか、それを真似て作られたものだろう。ところどころにアニメのフィギュアやポスターも飾ってある。

 彼女がメイド服を着ているのは、この店に残されていた唯一の衣服だった、というところだろう。

 なぜ、ヘッドドレスまでつけているのかは、ちょっと謎だけど。

 だが、プラチナブランドのロングヘアとあいまって、やけに似合う。

 うむ、悪くない。

「何か、視線がスケベなんだけど」

「いや、ずいぶん美人だな、と思って。エマ・グレイソン?」

「ええ」

「斎藤悠里だ」

「あなた、子どもよね」

「今の君もな」

「ふむ。あなたも子どもではなかったということ?」

「もちろんだ。ついでに言えば、男だった」

「男?」

「ああ。若返るだけじゃないってことだ」

「ふむ。だから、さっきあんな目をしてたんだ」

「すまん。忘れてくれ」


 そして、二人して情報共有する。

 お互い、目が覚めたらこの場所にいた、ということは確認できた。

 粘液に包まれた状態で、裸で放り出されていたのも同じ。


 そして、エマは、事務所から制服を探し出し、一番小さいサイズを来て、外に出ようとして。


「街路樹が歩いていたの」

「街路樹?」

「足がついていて、口もついてた気がする。トリフィドみたいに歩いていた」

 トリフィドは大昔の映画の殺人植物の名前だ。

 よく知っていたな。あ、いや見た目通りの年齢でないことは意識しておかないと。

「だから、ここから出るのはやめて、誰かの助けを期待した。見込みがあったわけじゃないわ。逃げて助かる見込みがなかっただけ」

「まあ、そうだな」


 事務スペースの引き出しを漁る。

 何か武器が欲しかった。

 とりあえず、包丁は使えそうだが……。


 残念ながら銃器の類はなかった。

 掃除用具の中からモップを取り出し、その先端に包丁を縛りつけて、槍にする。


「これを見て」

 エマがイラスト地図を持ち出してきた。

 観光用の地図だ。

 ありがたい。

「あなたはどこにいたの?」

「スポーツ用品店だ。おそらく、ここ」

 ロッキースポーツと書かれた店舗を指し示す。


 このダイナーとの間は三軒ほど。

 そして、見ると飲食店をはじめとした店舗が並んでいる、その先に大きめのショッピングセンターがあった。

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