第5話
化け物車が三台、こっちを見ていた。
舌なめずりをしていた。
よし。
そこで死ね。
一本を松明がわりに、二本目に火を点ける。
そして、おもむろに投げる。
真ん中でボンネットを大きく開けて笑っているスポーツカーの口の中めがけて。
そのタイミングに合わせて、化け物はボンネットを閉じると、隙間から炎があふれ、苦悶の叫びとともにボンネットを再び開いた。
「viiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii」
叫び声はクラクションの音。
追い打ちでもう二本、まとめて投げ込む。
ガラスの割れる音とともに、炎が高く上がる。
合わせて、もう二台にも投げつける。
化け物車は、炎に包まれながら、こちらへと向かってきた。
テント設営用のペグの束をバラまく。
タイヤがパンクする音。
ズルズルとホイールではいずりまわるようにこちらを目指してくる。
ふむ。パンクした。
あれ、ちゃんとしたタイヤなんだ。
うねうね動いているから、丸い形をしただけの脚部かも、とは思っていた。
と、余計なところで感心する。
その気の抜けた一瞬、背後でもう一台の化け物車がおおきな口を開けていた。
それも、蛇が鎌首をもたげるように、大きくボディを持ち上げて、俺の首を狙っている。
あわてて避けるものの、長い舌が首に巻き付く。
唾液が気持ち悪い。
くそ。
舌にピッケルのピックを突き刺す。
叫び声とともに、舌が巻き取られる。
咳き込みながら化け物を見る。
そこにチャンスがあった。
大きく持ち上げたボディは、ガソリンタンクをむき出しにしていた。
俺は、そのスチールのタンクに向かって、ピッケルを叩きつけた。
本来なら鋼板でできているはずのそれは肉だった。
若干固いが、たしかに肉の感触のそれに、ピッケルのピックがめり込んでいく。
そして、液体が噴出した。
オイルでも血液でもない、透明な液体。
ガソリンだ。
俺はライターを取り出し、そのまま投げ入れる。
刹那、化け物車は、燃え上がった。
燃え上がったまま、視力を失ったと思しきよたよた感で、そのままもう一台の化け物車に近寄っていった。
そのまま、巻き込む形で爆発した。
この化け物車、いろいろとわかってきた。
見た目以上に車だ。
だけど、それが全部生き物の肉で置き換えられている。
ライトが眼球になるのは、似た構造だからだ。
おそらくエンジンもあるのだろう。
ボンネットから見える、牙と舌の間には、内燃機関を模した心臓か何か。
おそらくは銃で撃てば、こいつらは殺せる。
ただ、拳銃程度では難しいだろう。
使うなら、大口径の狩猟用ライフル。
そう。
猛獣狩りだ。
とは言え、今は次だ。
次へ行こう。
ダイナー。
ロイヤルグリルって言っていた。
一体、どこなのか。
通りには車は走っていない。
早朝とは言え、無人の町。
少し違和感を感じつつ、電話で告げられた店名を探す。
あちこちの店舗の駐車場には、何台かの車が見える。
ただし、ただの車だ。
変形しているわけではない。
起きださないうちに、と少し焦る。
とりあえず動く様子はない。
ふと見ると、遠くに看板があった。
ロイヤルグリル。
まずはそこに向かって。
俺は足を速めた。
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