第40話 稲妻瞬間移動の披露

 暗部隊のスメラギとユキ、そして梅香ちゃんと桜ちゃんとでいっぱい遊びまくった、おかげで今日あった事への心のダメージが、かなり癒された。

 そして、陽が落ちてきて空が紅く染まってきた頃、レイナとソルが家に帰ってきた。


「ただいま帰っ……む?スメラギに、ユキか?」

「あっ、レイナ様にソル様、お帰りなさいですぅ」

「お帰りなさい!カオリ様お借りしてます!!」

「えっ、カオリを借りてるって……今日はどうしたの?普段なかなか姿を見せないのに、しかもカオリと遊んでたように見えたけど……」

「それは、私から説明します」


 スッと現れたのはリサだった、背後にはツキミの姿に敷地内警備に当たっていた子達まで。


「お、お前達……もしかして、全員カオリと顔合わせを?」

「はい、実は……全てをお話致しましたので、暗部隊全員を隠す必要が無くなりました、この首輪も、この傷も」

「「!?」」


 レイナとソルがビクッと震えた、こんなに早く打ち明けるとは思わなかったんだと思う。


「……そうか、決断が早かったな」

「そうですね、カオリ様が今日冒険者ギルドでトラブルがあったらしく、それを聞いて私も話そうと決めたのです」

「トラブル!?」

「はい、今日レイナ様とソル様は冒険者ギルドに行かれました?」

「今日は行っていない、何があった?」

「ではお話致します。カオリ様、良いですか?」

「はい」

「ウメちゃんとサクラちゃんは、スメラギとユキの相手をお願い出来ますか?」

「「はーい!」」

「後、レイナ様とソル様について行っていた皆も、カオリ様に顔を見せておきましょう、来なさい!」


 来なさいと言うと、スタッと5名の暗部隊さん達が新たに現れる、普通の黒装束だけではなくフードを被っていた、多分外でも身を隠す用だろう。


「カオリ様、これで私とツキミ合わせて暗部隊12名……休みの4名を省くとこれで全員です」

「こ、こんなに沢山居たんですね」


 新たな5名の代表なのか、1人がフードを外しながら私の前に来た。


「私は隊長や副隊長の補佐を任されております、名はツバキ。レイナ様とソル様の護衛隊の指揮を主に従事しております、よろしく頼み申します」

「カオリです、よろしくお願いします!」


 私はツバキと握手を交わす、リサ同様少し大人びた感じの人族女性だったのだが、握手で握られた手が凄くゴツゴツしていた。

 多分、血豆。

 手を握っただけで分かる、この人はかなりの努力家で、実力も相当なものなのだと。

 レイナとソルの護衛を主に従事する理由が、私みたいな初心者でも分かった。

 忍びのエリート……それがこの5人なんだ、ユキやスメラギも相当強いと思うけど、雰囲気が違う。


「凄い手です、どれ程努力すればこんな手になるのか……尊敬します」

「お褒めに預かり、光栄です」


 私の手から離れると、シュッと姿を消した。


「も、もう驚きませんよ!」

「消えた!」

「消えた!のですぅ」

「んもおぉぉぉぉ!マネしないでえぇぇぇぇぇ!!」


「「……」」


 なんのこっちゃ、みたいな顔をしているレイナとソルだったけど、このやり取りの面白可笑しさにお互いの顔を見合わせてクスッと笑うのだった。



 家の中に入り、私が起こしてしまった事件の詳細を細かに2人へ説明した。


「……ふむ、締め上げるか」

「そうね、今最高にそうしたい気分だわ」


 2人の顔はかなりガチの顔をしており、相当怒っているように見える。


「ちょっちょ、待ってください!そんな事したら2人もギルドカード剥奪されますよ!」

「こちらは被害者だ、構うものか」

「ええ、カオリを傷付けた罪はしっっっっっかりと自覚させないとねぇ……うふふ、ふふっ」

「あぁ……完全にキレてる……」


 Aランクがブチ切れたらどうなるか……私は、それを見て恐怖を覚える事になるのだった。



 リサが家に残ってくれるので梅香ちゃんと桜ちゃんを任せ、私とレイナとソルの3人で冒険者ギルドに向かった。

 いや、厳密には違うかな……これは殴り込みに近い気がする。

 冒険者ギルドに到着するやいなや、怒りのオーラ全開で2階への階段を上がっていくレイナとソル……その迫力に、ギルドに居た殆どの冒険者が震え出す。

 私の姿があった事により、朝のトラブルの件でああなっているんだと一部始終を知る冒険者は、とばっちりを受けそうなギルマスの無事を祈るのだった。


 レイナが執務室のドアを壊しそうな勢いでこじ開ける。


「おいギルマス!邪魔するぞ!」

「うおあぁっ!?なっ、なんだ!?お、お前らか!」

「お前らか、じゃない!!ヤンキーズの野郎共は何処だ!?さっさと吐け!!」


 ギルマスの肩を掴み、激しく揺らす。


「ぐおおっ、落ち着け!!」


 そう言った瞬間、ソルが発生させた風の刃がギルマスの髪の毛を少し切り裂いた。


「ああぁぁぁぁぁ!髪がぁぁぁぁ!」

「禿げたくなければ、さっさと吐きなさい……次は頭てっぺん全て刈り取ってハゲにしてやるわ」

「い、言う!言うから離せ!!お前らの力じゃ物理的にも社会的にも死んじまう!」


 こうして2人を何とか落ち着かせ、ギルマスはヤンキーズについて語り出した。


「まずヤンキーズだが、このギルドにある簡易牢に入れている」

「そうか、ならアイツらの場所に案内しろ」


 ギロッとレイナがギルマスに睨む。


「待て、アイツらと面会するなら俺の話を全て聞いてからにしろ、帝都絡みが厄介な事はお前らも知ってるだろ」


 帝都との関係って、あまり良くないのかな?

 私は帝都の名前すら知らない、いつかは私も世界を知る必要がありそうだね……


「そんなもの関係ない、カオリに仇なす者を許すつもりはない。さっさと案内しろ」


 頑なに案内させる姿勢を崩さないレイナ、ソルも椅子に座ろうとせずに立ったままだ、毛並みも逆立てて相当怒っている。


「もし奴らに危害を加えて、帝都に報告されたら……お前達奴隷にされてしまうぞ!」

「有り得ないわね、カオリが居る限り、必ず奴らが裁かれるわ」

「何故そう言い切れる、ヤツらに恨みを買って嘘の証言でもされてしまったら!」

「だから、有り得ないのよ。だってカオリには完全記憶と投影魔法があるんだもの」

「投影魔法だと!?完全記憶を持っているのは把握していたが、投影魔法……そうか!これならヤツらのやった事が偽りなく証明出来る!」

「そう、だから私達が奴らにそれを見せつけて嘘は付けないぞと言えば、逆らえない。依頼書を破るのは立派な規約違反だ、ましては他国の依頼書……しかも指名依頼だからな、この罪は重いし賠償金も重くのしかかるだろう」


 どうやら依頼書を破るのは規約違反らしい、そう言えば私……規約って知らない。

 後で教えてもらおう……


「……なるほど、奴らに会うのはそれを見せつける為、か」

「それもあるが、カオリを傷付けた制裁を加えるのも目的だ、二度と逆らえないようにしてやる……」

「そうね、奴らの頭てっぺんを全員ハゲにしないと気が済まないわ……」


 ソル……いい加減ハゲから離れようよ……

 しかも1人はスキンヘッドだから、効かないよそれ……


「ひゅ〜……あぁこわ、双剣姫もそうだが、アンタらも味方で良かったとつくづく思うぜ……」

「そうですね……私もレイナさんやソルさん、みんなが仲間で良かったと思います」


 私は、ギルマスと同じ気持ちだった……

 2人に逆らったら、大変な事になると。


「そうだカオリ、あれはもう話したのか?」

「ん?あれって?」

「昨日決めたっていう話だ、配達屋の件」

「あ、あぁぁ!忘れてた!!」

「カオリったら、忘れてたの?」

「あはは、朝のトラブルで言いそびれて、完全記憶で思い出す事すら忘れてました、てへ」


 いっけない、昨日決めたばかりなのに忘れちゃダメでしょ!

 完全記憶の弱点は、私が完全記憶を覗くのを忘れる事だね……思いがけない弱点が見つかったよ……


「配達屋って、どういうことだ?」

「実は、昨日決めたんです。こうして指名依頼を沢山貰って、私の配達を求める人が沢山居ます。なら、私が配達屋さんを開いて一手に引き受けたらいいんじゃないかなって思ったんです!まずはこの王都内から、そして隣町、いずれは国内全域と、配達範囲を広げられたらいいなって思うんです!」

「それはいい目標だとは思うが、魔物は大丈夫なのか?街を結ぶ街道なら魔物は少ないが、それでもいないわけじゃないぞ?確か戦闘スキルが無かったはずだよな?」

「大丈夫です、私にはこの脚がありますから」

「脚?」

「はい、見た方が早いと思います、訓練室借りれますか?」

「あぁ、空いているならいいぞ」


 そうして私は、訓練室を借りて実力を見てもらう事にした。

 あの稲妻は、レイナやソルにもまだ見せた事がない。


「では、いきます」


 私はスパークアクセルを発動、軽く身体を動かす。


「いつものスパークアクセルね」

「あれからどれだけ成長したのか、しっかり見るとしよう」


 2人が見守る中、私はスパークアクセルで反対側に移動した、そして皆の元に戻る際に、思いっきり床を踏み切り、私は稲妻となった。


「「っ!?」」

「うおあっ!?」


 私は、訓練室の端からギルマスの目の前まで稲妻となり瞬間移動、びっくりしたギルマスは尻餅をついて転ぶ。

 レイナとソルもびっくりしてはいるが、ソルの尻尾は興奮気味にぶんぶんと振られている、そしてレイナもびっくりした顔から直ぐに期待の顔へと変えた。


「カオリ!凄いじゃないか!いつ覚えたんだ!?」

「梅香ちゃんと桜ちゃんと会った時に偶然出来たんです!そこからこの力を把握とコントロールしたのは、今日の事ですね」

「あれだけの力、魔力消費は大丈夫なの!?」

「はい、普通にスパークアクセルする分程度しか魔力は減っていません、私の魔力はヤバいですから、なんてありませんよ!」

「ふふっ、あははは!これは将来が楽しみだな!」

「そうね!きっと転生組と肩を並べても、全然問題ないレベルになるわよ!」

「もーそれは言い過ぎですよ、私は戦う術が限りなく少ないんですから」


 私はそう言いながらも、自分でも暗部隊のスメラギやユキ、梅香ちゃんに桜ちゃんの力に1歩近付いたと今日で実感していた。

 まだまだ肩を並べる事は出来ないけど、いつかは……!


「今の力……もし持続して発動可能なのであれは、もしかしたら俺の考えていた海の幸問題が、解決するんじゃねぇか……?いつかは配達範囲を広げたいって言ってたしな……これは賭けてもいいかもしれねぇな」

「ん?ギルマスさん、どうしました?」

「……いや、後で話す。 取り敢えず力は分かった、配達屋の件は承知したぜ、取り敢えず今は指名依頼をギルドから受けててくれ」

「分かりました!」

「じゃ、アイツらの所に案内する、間違っても殺すなよ?」

「殺しはしない、ハンゴロシだ」

「ハゲにしてやるわ……」


 ソル……まだハゲを引きずってるよ……

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