第39話 暗部隊さんと鬼ごっこ

 昼食を食べ終わり、ツキミは敷地内の外回り警備に行った。

 すると、先程まで外の警備してた3名がしゅたっと玄関先に降りて来た。


「……」


 その内の1人、食事直前に窓から顔を覗かせていたナギが、私の前にてこてこと歩いてきた。

 姿は人族で、私と似た年齢かな?


「さっきは、ありがと」

「いえいえ、あの1個でお腹持った?」

「うん、じゅーぶん。ご飯くれるカオリさま、すき」


 そう言って私にぎゅっと抱き着いてきた……

 ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!!

 か、可愛い!!


 暗部隊の子って、何でこんなに可愛い子が多いんだ……

 しかも、今の所ほぼ10代ばっかりだよ……


「ありがとうナギちゃん、しっかりご飯食べて、お昼からも頑張ってね!」

「ん、がんばる」


 ナギは玄関で待ってくれている2人の元へ戻り昼食へ、玄関に入っていく際にその2人は私へお辞儀してからドアを閉めた、後であの2人の事も教えてもらおう。


「さて!遊ぼっか!」

「はいですぅ!何しますぅ?」

「はいはいはい!!小範囲鬼ごっこやりましょう!」

「小範囲鬼ごっこ?」

「はい!この庭の範囲で鬼ごっこするのです!この小さい範囲でどのように鬼から逃げるか、ただ逃げるだけじゃないという面白さがあります!そして時間までに鬼になった回数が多い人が負けです!魔法やスキル、忍術はアリでいきますが、攻撃系や体力バフは無しでいきましょう!」


 なるほど、ただの鬼ごっこなら障害物を利用してただ逃げるだけでいいけど、この庭のような小範囲だとそうはいかない。

 参加者は私、梅香ちゃん、桜ちゃん、スメラギ、ユキの5名だけど、それでも広いとは感じない広さ(20m×20m程)だから、躱す技術は勿論、他の者に鬼を擦り付ける動き方とかも大事になりそう。

 ……意外と面白そう、異世界ならではの、身体能力やスキルに技術が重要になる鬼ごっこだね。

 これは、前の梅香ちゃんと桜ちゃんとの鬼ごっこみたいにはいかない、スピード+技術勝負ではなく、今回は完全に身体能力と技術勝負だ!!


「じゃあ鬼を決めるよー!じゃんけんでいい?」

「いいよー」

「はーい!」

「「じゃんけん?」」


 スメラギとユキの頭に?が浮かんでいた、この世界にじゃんけんってないんだね。

 私は2人にじゃんけんを教えて、理解してもらってから勝負!


 数回のあいこを経て、スメラギが鬼となった。


「あぁぁぁぁ!グーが1番強そうだったのにぃぃぃ!」

「スメラギ、だからって全部でグー出していたら、負けて当然ですよぉ?」

「だって!グーならチョキにもパーにも勝てそうだもん!物理的に!!」


 oh、脳筋的考え。


「それじゃあ、じゃんけんにならないのですぅ……」

「まぁまぁ、兎に角スメラギが鬼だよ!5秒数えてから開始ね!」

「あ、カオリ様!少しお待ちを」


 敷地内警備の交代していたツキミがシュンと現れた。


「は、はい?」

「スメラギ、ユキ、その姿のまま暴れ回ると、柵の隙間から見られてしまいます。私服に今すぐ着替えてください」

「「分かりました!」」


 2人はボン!と煙を出して、煙が消える頃には私服に大変身していた。


「えっ、あの一瞬で着替えたの!?」

「これくらいなら朝飯前です!」

「ですねぇ、どんな時にでも素早く服を変えて動けるように、訓練はバッチリなのですぅ」

「す、凄い……」


 ちなみに、スメラギは元気に半袖短パンの姿、ユキは膝上くらいのスカートながらも、動きやすそうな服だった。


「カオリ様失礼しました、ではお楽しみくださいね」

「ありがとうございます、じゃ始めよっか!」

「分かりました!それでは……5、4、3、2、1、行きまーす!」


 暗部隊2名と双剣姫2名と私による、楽しい楽しい鬼ごっこが始まった。


「まずはー、ユキから!!」


 スメラギがユキを目掛けてグン!と加速、何かスキルを発動した訳じゃなさそうなのに、速い!


「ほわぁ!」


 スレスレの所で右に逸れて回避、ユキは躱した際の体勢から離れるようにバク転、そして走って向かった先は桜ちゃんの元だった、桜ちゃんを巻き込んで逃げやすくする選択肢を取った。


「こっち来た!」


 すぐさま桜ちゃんもスメラギとユキに対抗すべく、地面に手を置いて魔法を放つ。


「ウェイトサークル!」


 ユキを中心に魔法陣が現れる、ユキはそれに即座に反応して、一瞬だけ4足歩行になって、うさぎが跳ねるようにジャンプ!魔法陣の効力が及ぶ前に脱出。

 そして、後ろから来たスメラギが反応出来ず、その魔法陣に触れてしまい身体の動きが遅くなる。


「うごおぉぉ!?か、身体が重ぃぃぃぃ!?」

「な、何あれ!」

「香織おねーちゃん、あれは重力魔法だよ」

「重力魔法!?」


 梅香ちゃん曰くあれは闇属性魔法で、重力変化させる魔法陣らしい。

 あの魔法陣に触れると、重力が変化して重くなったり軽くなったりするという。

 ユキが無事だったのは、素早くジャンプして魔法陣から離れたから助かったのだと言っていた。


「と言うことは、今回は重力を重くしたんだね」

「そゆことー!」


 既にユキと桜ちゃんはスメラギから離れているが、スメラギは重力に抑えられている。


「くぬぬ!かなり強力っ!仕方ない!」


 スメラギは重力魔法から逃れるべく、拳に魔力を込めて地面を殴る、

 すると魔法陣がバリン!と壊れ、スメラギは重力縛りから解放された。


「な、殴って壊された!」

「やってくれましたね桜さん!ふっ!」


 スメラギはユキを諦め、桜ちゃんを追い掛ける。


「ひゃーにっげろー!」


 桜ちゃんが私の近くを通り過ぎようとしたので、私も少し距離を取るべく動くが、スメラギが私の近くに来た瞬間……


「隙ありです!」


 急に方向転換、私に向かって突撃してきた。


「あっ!?」

「捕らえた!」


 私は、スメラギの奇襲にやられてしまった。


「やっ、やっちゃった!?」

「えっへへー!次はカオリ様が鬼ですよー!!」


 スメラギはサッと私から離れる。


「油断したなぁ……仕方ない。それじゃいくよー!スパークアクセル!」


 私はいつものアクセルスキルを発動、私が狙ったのは……ユキだ。


「来たのですぅ!!」


 ユキは、素早いフットワークで私のタッチを避けていく、私も隙なくユキに詰め寄るのだけど、全てスレスレで躱されていく。


「触れたと思っても、全部スレスレで躱されてる……なんで」

「カオリ様、惜しいのですぅ!もう少しなのですぅ」


 いや、違う。

 惜しくない、多分……ユキの思惑に乗せられてる。

 惜しいと言いながらも、表情が一切変わっていない、多分余裕があるから。

 それだけ自信があるって事……だと思う。

 反射神経だけであんなスレスレ回避を常に出来るのだろうか?

 私は違和感を感じ、違和感を見破る為に観察眼を使う。


「……観察眼」


 右目から見える景色がスゥっと薄暗くなる。

 すると、ユキの目に違和感を発見、よく見ると……ようやく違いに気付いた。


「目の瞳孔が、変わってる」


 普通目の瞳孔は丸い、完全記憶からユキの顔を見た際の映像を頭に思い浮かべると、瞳孔は丸かった。

 しかし、今はキュッと瞳孔が縦長に変わっていた。

 そしてもう1つ、ユキの姿がブレている事に気が付く。

 手を出そうとした際に、反対方向へ身体がぶわっとブレて身体のスレスレを手が通り過ぎていく。

 観察眼ではない普通の目からは、ただ避けられているだけに見えるけど……観察眼がそれを否定している。

 もしかして、私の目に何か作用している……?幻術系?


「もしかして……惑わす系の何かを使ってる、かな?」

「えっ!?き、気付いたですかぁ!?」


 ユキはさっきまでと違い、タネに気付かれて少し慌てている。


「ただ、その惑わせるやつを解く方法がないんだけど、ねっ!!」


 私は割と強めに地面を踏み抜き、稲妻となる。


「ひゃぁぁあ!」


 ユキは全力の幻術を掛けてからジャンプし、私の頭を乗り越えた……大丈夫、躱されると思ってたよ、でもその先に居る梅香ちゃんはどうかな?


「えっ!?」


 梅香ちゃんは咄嗟にスパークアクセルを発動し、右に逸れようとするが……観察眼を発動していたので、足に関するスキルを発動したのは見えており、左足に違和感が見えたので右に躱すと予想して動いた。

 それが幸をそうして、私は梅香ちゃんを捕まえる事に成功した。


「え、えぇ!?読まれた!?捕まっちゃったよ!?」

「や、やったぁ!」


 私は地面に転がり、ガッツポーズをした。

 私からしたら全員凄い力を持つ子達、だけど……私もやれば出来るんだ!

 観察眼……レイナさんから聞いた説明よりも使いやすいスキルになってた!

 やっぱり、みーちゃんから貰ったスキルだから特別なのかも!


「凄いよ香織おねーちゃん!おねーちゃんを捕まえるなんて!」

「ゆ、油断しただけだもん!次こそ負けないよ!」

「凄いのですぅ!私の技を見破った上に、ウメ様まで捕まえたのですぅ!!」

「カオリ様!次は私と勝負です!!」

「スメラギ、次の鬼はウメ様ですよぉ……」


 私の力が、皆の所に届きそう……私は、そんな予感がした。



 ーーーーリサsideーーーー



「凄いです、まさかウメちゃんを捕まえるとは」

「……カオリ様はやはり転生者ですね、先程はユキの幻術トリックすら見破っていました。双剣姫様達とは違うベクトルで異次元ですよね、リサ隊長」


 私とツキミは、木の上部の影から皆の様子を伺ってました。

 私が居ると気が引き締まって楽しめないと、空気を読んだのです。


「そうですね、かくれんぼの時にも思いましたが、透視と観察眼で見えている世界が、普通ではないような……そんな気がしました」

「はい、何とか驚きを隠しましたが、観察眼だけで私の隠れ身を見破るとは、思いませんでしたよ」

「ツキミの隠れ身は隊の中でも随一です、スキル1つで簡単に見破れる物ではないのは、私だって分かっています」

「……カオリ様は、一体何処までゆくのでしょうか?」

「分かりません。ですが、いずれはかなりの大物になる……私はそう思います」

「……同感です、リサ隊長」


 私達は、カオリ様の実力が恐ろしく感じつつも、少し将来を期待してしまっているのでした。


 ーーーーーーーーーー


 思いっきり鬼ごっこで遊んだ後、私はユキと一緒に、スメラギが梅香ちゃんと桜ちゃんにシゴかれている所を見学していた。

 最初は忍術をお見せします!とか言って余興を見てたんだけど、途中から梅香ちゃんと桜ちゃんが余興に混ざり、いつしか特訓に変わってしまっていた。

 その余興ってのが、忍術による芸や演舞だね、凄く面白くて、忍術も見るの初めてだから凄く目を奪われた。


 だけど、今のスメラギは……


「うひひ……いひひひ……」


 ぶっ壊れてた。


「香織おねーちゃん、スメラギ壊れちゃった」

「やり過ぎちゃったね、ポーションで治るんじゃない?」

「はーい、ポーションかけちゃおー」


 ドバババババ


「くっはぁぁぁぁぁ!生き返るぅぅぅぅ!」


 急に立ち上がり、マッチョポーズを繰り出すスメラギ。


「生き返った」

「生き返ったね、おねーちゃんまたやっちゃう?」

「やろっかサクラ」


 梅香ちゃんと桜ちゃんがスメラギにジリジリと迫る。


「ぴえ?ぎえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!私の平穏カムバァァァァァァァァック!!」


 またしても、梅香ちゃんと桜ちゃんの遊び相手(と言う名の特訓)になっていた。


「スメラギって……弄られ体質なの?」

「そうですねぇ、隊のみんなからこうして弄られては笑いを取ってるんですぅ、ある意味才能なのですぅ」


 と、のんびりと会話しながら、私はユキの頭を撫でていた。

 だってさ!凄く撫で心地が良いんだもん!サラッサラだし、近くに耳があって気持ちいいし!


「んふぅ、気持ちいいのですぅ……カオリ様は獣人誑しですぅ……」


 ユキは私の撫で技術にウットリしていた、私自身普通に撫でてるだけなんだけど、気持ちいいらしい。

 そんなウットリしたユキを見ていて、やはり気になる物がある。


 そう、尻尾である。


 うさぎの尻尾は丸いので、ふりふりしているつもりなんだろうけど、尻尾がプルプルしているようにしか見えない。


 あぁ……触りたい……ダメかなぁ……?怒られるかな……?嫌われるかな……?確かうさぎは尻尾やお尻辺り嫌うって聞いたけど……あぁでも触ってみたい……モフりたい……にゃあ……


「あ、あの……カオリ様ぁ?視線がいやらしいのですぅ……」

「えっ?あ、ごめんね!ふりふりしてる尻尾が気になっちゃって……つい」

「私の、尻尾ですか?」

「う、うん……私、もふもふが好きなんだよね、だからそこに可愛い尻尾があると、つい見てしまって……」

「な、なるほど……なら、触りますかぁ?」

「……え、いいの?うさぎって尻尾触られるの苦手なんじゃ……?」

「いえ、苦手って訳ではないですぅ。ちょっとゾクゾクしちゃうだけですのでぇ……優しくしてくれるなら、良いですよぉ?」

「あ、なら……ちょっとだけ……」



 もふっ



「あぁ……♪」



 もふもふっ



「あぁ……♪」



 ふるっ、ふるっ



「あぁ……!!凄く柔らかくて気持ちがいい……♪」

「そ、そうなのです……?まぁ、私も気持ちいいので、いいですけどぉ……ふぅ」

「少し握ってみていい?」

「や、優しく……お願いしますぅ……」



 ふにっ



「ほあぁ……」



 ふにふにっ



「ぷわあぁ……♪」



 ぷにぷにぷに



「☆新☆触☆感☆!」



 何これ、ふにゃふにゃなんだけど!

 日本のうさぎってどうなの!?こんなにふにゃふにゃなの!?

 ここのうさぎさんはふにゃふにゃだよおぉぉ……


「あぁ……HEAVEN☆」

「あわわわ!カオリ様ぁぁ!鼻血!鼻血出てますぅぅぅぅ!?」


 鼻血が垂れつつも10分程、もふもふふにふに堪能させて頂きました。

 大変、ふにゃふにゃでふわふわで、ご馳走様でした!


 あぁ……し・あ・わ・せ♪

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