第35話 リサの過去、無事帰還しメイドになる

 私は、ソルにナイフを突き付けられたまま、ここであったこと全てを話しました。


 奴隷にされて、尋問された事。

 逆らうと首輪が締まり即死する、そして自分の場合は首輪から電撃が発せられて動けなくなるので、逆らえなかった事。

 クスリを打たれ、感度をおかしくなって満足に身体を動かせなくなった事。

 その上で大事な物を奪われて、何度もそういう行為をされた事。

 首輪の命令で、死のバトルロイヤルをさせられ、逆らえば無条件の死を与えられる事。

 そして私は、この極悪非道な行いの情報を、持ち帰る必要があった事も。


「なので、貴方に殺される理由はあります。

 もう持ち帰らねばならない情報は、ここで全て話しましたから。

 貴方が私を殺すのならば、殺人犯を討伐した冒険者として親の仇を取れるでしょう。

 ですが、貴方が私を殺さない選択をするならば、殺人の罰を受けなければなりません、首輪でバトルロイヤルを強制されたとはいえ、バトル中は自分の意志で殺しましたから。

 どの道、私はもう人の目に届く場所には居られません、こんな身体と犯した罪を考えれば、処刑されてもおかしくはないでしょうから」

「……」


 私に突き付けられたナイフが、ガクガクと震えていました、様々な想いが入り交じっている事だと思います。


「なん、なのよ……」


 ソルが握っていたナイフは、ガチャンと音を立てて地面に落ちる。


「これじゃ……アンタを責められないじゃないのよ……そんな身体になって、秘術を使って感情すら無くさないといけないくらいに……死にかけて。助かっても処刑される未来しか、ないなんて……こんなの、私が貴方を殺す理由になんか、ならないわよ……」


 ソルはそう言いながら、私の目の前でベタンと座り込んでしまった。


「パパ……ママ……私っ、私は……どうすればいいの……うぅ……」


 またしても涙が溢れ出すソル、レイナがソルの背中をさすりながら、アイテム袋に手を入れて私に服を差し出してくれました。


「私の予備の服だ、その身体で服を着るのも辛いだろうが……そのままでは外にも出られないだろう?」

「感謝します」


 私は、レイナから借りた大きめの服を着た。

 上の服だけでミニスカート並になるほど身体が隠れるので、下の服を借りるのは遠慮しました。

 現在進行形で液がポタッポタッと落ちています、そのまま履けば濡らしてしまう事になりますから。

 それに、動く度にズボンが肌が擦れてしまい、身体が跳ねてしまうと思いましたので。


 服を着た後、ツキミが申し訳なさそうにしながらも私を呼んだ。


「リサ隊長、辛い事があった中……これを聞くのも悪い気がしますが、この事件に関わった者だと思われる人間を捕らえていますので、間違いがないか確認してもらえませんか?眠らせていますので、首輪命令される事はないかと」

「分かりました、行きましょう」


 私達が移動しようとした瞬間。


「……待って」


 ソルに待ったを掛けられ、私の前に移動してきた。


「怖く、ないの?貴方を酷い目に合わせた男達の元に行くなんて……」

「先程申したように、感情がもう湧いてこないのです。何も怖い事はありません」

「……そう、感情がなくなるって……良いなと思う反面、人じゃなくなりそうで……怖いわ」

「もう、その感覚すら分かりません」

「……ごめんなさい、変な事を聞いたわ。私……もう少しここに居る」


 ソルは再び親の元に戻って行きました、なるべく離れたくないようです。


 私は王宮騎士団1人と暗部隊と共に、男達の元へと向かいました。

 今回捕らえたのは8名、全員睡眠魔法で眠らせており、耐魔ロープという魔力を奪いながら縛る事が出来る魔法や魔力耐性のあるロープで、男達の身動きを取れないようにしていました。

 万が一起きても喋れないように、そして自害されないように口にもロープを噛ませています。

 ここには王宮騎士団が5名待機していた。


「8名ですね、この3名は見た事がないので分かりませんが、私が知る男達5名は全員居ます」

「ありがとうございますリサ隊長……確認は済んだので、念の為離れておきましょう……感情は消えてしまったとはいえ、お身体は辛い事を覚えているでしょうから……」


 そう言われて自分の手を見てみると、指が震えていました。

 恐怖という感情は既に消え失せていますが、ツキミの言う通り身体は覚えているようです。


「コイツらは私達と王宮騎士団、炎風の御二方で協力して運びます、リサ隊長はなるべく離れていてくださいね……」

「分かりました、離れます」


 私はその場を離れ、レイナとソルの元へ向かいました。

 すると、2人は遺体となった15名を外に運び出そうとしていました。

 ソルは大事そうに母を抱え、レイナも2人、ソルの父とシラヌイの相手だった女性を運んでいる。


「……アンタも、運ぶの手伝いなさい。全員火葬するから……あのシラヌイって子、アンタの仲間なんでしょう?責任持って運びなさい」

「分かりました」


 私は、シラヌイの身体と生首を抱きかかえて外へと運ぶ。

 途中で私達のやっている事に気付いた王宮騎士団と暗部隊も、全員が手伝ってくれたおかげでずくに運び出せました。


 外は既に夜になっており、人の気配が全くない。

 建物から少し離れた広場に遺体を全て集め、周りに燃えやすいケヤキの葉と木を並べ……そして、レイナが前に立つ。


「皆、良いか?」


 全員レイナの言葉に頷く、レイナも小さく頷き……詠唱を開始した。


「聖なる炎よ……」


 彼女から美しく舞うように火が立ち上がる、火魔法が得意らしく火力も高いので、代表して焼いてくれる事になったのです。

 人を焼く行為は、亡くなった者を天へと導き、そしてアンデット化するのを防ぐ為ではありますが、進んでやりたい人は少ないでしょう。

 ですが、彼女は進んでやってくれました。

 詠唱も終わり、レイナは最後の言葉を紡いだ。


「安らかに、眠ってくれ……願わくば、来世では幸せな日々を暮らせるように……」


 レイナの言葉が終わり、美しく舞っていた炎を操り、遺体を焼いていきました。

 ソルは涙を浮かべながらも炎の前に向かい、両手を合わせて祈りを捧げ、父と母の天への旅立ちを見守る。

 天へとメラメラ立ち上がる炎から、皆の魂が精となって昇っていく……そういう幻想を見たのでした。





 あれから数日経ち、私達はトリスタ王国に帰ってきました。

 しかしながら、私はこんなボロボロ姿であるが故に殺人犯、民衆の前に出る訳にはいきません。

 なので、王宮騎士団関連や私達暗部隊だけが使える裏ルートを使い、城の中へと戻りました。

 王宮騎士団と炎風に連れられた男達は、正式に門から国に入って城へ向かい、地下にある特殊牢獄へと男達は入れられたようです。

 特殊牢獄とは、魔法が一切使えなくなる処置が施された牢獄です、重罪や処刑者が入れられる場所ですね。


 私達暗部隊は玉座の間に向かったのですが、私は犯した罪もあるので、トリック王に謁見の際は手錠する事にしました。

 無いとは思いますが、首輪の効力次第で私が異常行動をしてしまう可能性が無いとは言い切れない為です、なので私は王宮騎士団に頼みました。


 玉座の間の扉が開かれ、私達暗部隊は奥に待つトリック王の前で跪きました。


「トリック王、暗部隊隊長リサが、任務を終えてただ今戻りました。と言いましても、このザマですが」

「……うむ、報告は先に聞いておる。シラヌイを失ったのは残念だが……隊長である君が戻って来てくれたのは嬉しく思う。それに悪事を働く輩も捕まえる事にも成功している、皆の者良くやってくれた」

「ハッ!」


 トリック王は玉座より立ち上がり、私の前まで降りてくる。


「トリック王!いけません!私はまだ、奴隷から解放されていないのです!」

「大丈夫だ、リサ隊長。君の犯した罪は奴隷であれど処刑されても仕方ない内容だが、君は何も無い限りは罪のない者まで殺めるような人では無いことを、儂は知っておる。首輪を操る者は今地下深くにある特殊牢獄だ、心配あるまいよ」

「それはそうですが、一応警戒だけは緩めないでください。私としても命令があれば少しは抵抗するつもりですが、電撃を浴びれば抵抗出来なくなります」

「承知した、気を付けよう。しかし……君は感情を失ったようだな」

「はい、現状確認出来るのは、怒り、悲しみ、つらさ、恐怖、笑い、羞恥心といったものが欠落したと思われます。焦りや驚き、安堵といった感情は、まだあるようですが」

「辛うじて残った感情もあるようだが、厳密には殆ど消失しているではないか……そうなれば、君には2度と秘術は使えぬな」

「はい、これ以上秘術を私にかけると、無感情となり個性が死んでしまいます。要するに、人形です」

「であろうな、ツキミよ!2度とリサ隊長には秘術を使わぬように!」

「は、はい……」


 この後も情報の再確認をして、謁見が終了しました。

 男達には全ての情報を吐かせ、その後すぐに処刑、私の奴隷状態を解放する。

 そして私は処刑にはならず、償い内容はまだ未確定ではあるが、殺した人達に対する罪を償うまでは自由を奪われるのが確定だそうです。


 私は謁見の最後に自分からトリック王に志願し、牢屋に入る事にしました。

 男達は処刑が確定、この処刑が終われば奴隷契約が破棄される、それまでは牢屋で大人しくする事にしたのです、万が一があってはなりませんから。



 そして1週間経ち、男達の尋問が終了して処刑される日がきました。

 私は牢屋から出て、男達の処刑を見守る事にしました。


 ちなみに尋問では、限りなく習得者の少ない精神系魔法を使える王宮騎士団の魔法使いにより、情報を無理矢理吐かせたんだそうですが、ガルドロがこの事件の中心でない事が判明。

 もう1人上に偉い人が居て、まだまだ違法奴隷が沢山取り引きされているらしいのです。

 その名が、ガリレイ商会創設者であるマンダラという、まさか!な展開でした。

 ガリレイ商会という大きな商会を作る資金が、何処にあったのでしょう?それが違法奴隷の収入だった訳です。

 トリック王はガリレイ商会に調査を入れ、マンダラを捕らえると宣言し、男達にギロチンの刃を落としたのでした。

 男達はギロチンにより処刑され、私の首輪は外せるようになる……



 そう考えていたのですが。



「えっ?外せ、ない?」


 首輪が外そうにも、何故か外せなかったのです。

 無理に外そうとした際の電撃や首絞めが無いので、契約は切れているのは確実です。

 私が悪戦苦闘している所を王が遠目から見ていたらしく、後に玉座の間に呼ばれました。


 向かうと、そこには炎風の2人が居ました。


「ん?おお、リサ隊長じゃないか、どうしたんだ?」

「トリック王に呼ばれたのです、貴女方もですか?」

「ええそうよ、ついさっきここに帰ってきたばかりなのにね……」

「帰ってきたばかり?」

「……遺品整理よ、パパとママが暮らしてた家を売り払って、大事にしていた物とかは少しだけ持ち帰ったり、ね」

「そうでしたか、1週間で済ませて帰って来れるのであれば、それ程遠くはないのですね」

「まぁね」


 玉座の間の扉が開かれるまで、私はソルと暫く話していたのですが、私とでも普通に話せる程に彼女の精神は落ち着いていました。

 ずっと付き添っているレイナのお陰もありそうですが、元から強い子だったんだと思います。

 私の事を恨んでいるかと聞いたのですが……


『アンタを恨んでも仕方ないでしょ?悪いのは奴ら、貴方は首輪で強制された、それだけよ』


 と言われたのです。

 訳があったとはいえ、両親を殺した私を恨まない選択をしたソル、この1週間の少しの間に相当悩み続けたと思います。

 私でしたら、間違いなく相手の首を撥ねてますね、感情が欠落した私がソルの立場になっても、悲しみや怒りが無いのですから、殺しは犯罪で犯罪者は討伐、冒険者なら当然です。

 ソルは、私の命の恩人と言っても過言ではないのかもしれません。


「うーむ、急いで城に向かうようにと門番から言われたのだが……何だろうな?」

「分かりませんが、私が呼ばれた理由は、この首輪だと思います」


 私は首輪を触りながら答えました。


「首輪か、あぁそういえば……今日処刑日だったな、もう終わったのか?」

「はい、つい先程ですが速やかにギロチンで処刑されました」

「そうか、ならもうその首輪を外しても良いのではないか?」

「……実は、外せないのです」

「なっ!?」「えっ!?」


 2人は信じられないという顔をしています、私も外れないと分かった時は驚きましたから。


 その時、玉座の間の扉が開かれた。

 いつも通りトリック王の前で跪く。


「リサ隊長、良く来てくれた。急な呼び出しをしてすまぬな」

「いえ、王がお呼びであれば直ぐに参ります」

「うむ、迅炎のレイナと迅風のソルよ。君達もすまぬな、特にソルは両親の事で大変であろうに」

「いえ王様、今日で遺品整理等も終わらせましたので、お気になさらず」

「そうであったか……ソルよ、我らも君の両親の死に関わってしまった事もある……何かして欲しい事は無いか?叶えられる願いなら、儂が何とかしよう」

「私の、願い?」

「うむ、無理難題でなければ何でもよい。王国にあれが欲しい、個人的に欲しい物がある、両親に立派な墓を建ててやりたい、何でも良いのだ」

「……」


 ソルは少しばかり悩む、たまにレイナの方を見たりしつつも、口を開いた。


「本当に、宜しいのですか?いくつかあるのですが……」

「構わん、申してみよ」

「なら……私の舌の評判は、ご存知ですか?」

「うむ、神の舌と呼ばれておるのだろう?噂には聞いておるよ、店の発展にも貢献してくれているらしいではないか」

「はい、なので……厚かましいお願いではありますが、私の認めたお店を国の公認店として認め、公認店にはほんの少しでいいので支援をして欲しいのです、公認店に認められない場合でも、私が改善に向けたコーチもしようと思います。私は、国内の食の活性化と料理の品質上昇を願っているのです!」

「ふむ、なるほど……ならば1つ聞きたい。その公認店と認める判断基準は、キチンとした正確性と贔屓目無しに行うと、お主は誓えるか?」

「誓います、不安なら私以外にも舌に自身のある方を数名集めて、審査制でも構いません」

「なるほど……よし、ならば具体案と、支援はどれくらいにするか等を次の予算会議の際に決めるとしよう、普通なら一般は入れない所だが……その話をする際には、ソルお主にも一時的に会議に加わってもらう、良いな?」

「……っ!はい!ありがとうございます!」


 ソルはかなり嬉しそうですね、食の品質上昇……国の為にもなって良い案だと思います。

 私も、貴方の舌は確かだと噂で聞いていますから。


「うむ、他にはないか?軽い事くらいなら、もう1つくらい構わんぞ?」

「そ……そうですね」


 ソルはレイナを方をみて、肩を叩く。


「む?どうした?」

「あのね、ゴニョニョ」


 何か話しているようですが……何を話しているのでしょう?


「それで良いのか?私としても、それは大助かりなのだが……」

「折角なんだから、聞くだけ聞いてみましょうよ」

「ふむ、そうだな」

「王様!あと1つ、お願いがあります」

「うぬ、申してみよ」

「私達の家に、メイドを貸しては貰えませんか?」

「ほう、メイドとな」

「はい、私達冒険者なので……家を留守にする事が多いです。なので……家を管理してもらったり、掃除をして貰える人が欲しいんです。こちらで働いているメイドさんを見ていて、我が家にも居たら良いなと思った事があるのです。数日に1度でも、一時的な派遣でも良いです、メイドさんを貸して貰えませんか?何だったら雇い入れでも構わないです!」

「ふむ、なるほど……そう来たか」


 トリック王はほんの少し考えた後、私を見て何か思い付いたようだ。


「ふむ、ソルよ。家の管理や掃除が出来る者であれば誰でもよいか?」

「はい、メイドと言いましたが、その内容が出来るなら、誰でも構わないです」


 トリック王がこちらを見た、何故こちらを見るのでしょう?


「分かった、ならば……リサよ、お主がメイドとなり、炎風の家と2人を守るのだ!それが、お主の罪を償う内容とする!!」

「「「え?」」」


「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」


 私と、リサと、レイナ3人の驚く声が、城内に響き渡るのでした。

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