第34話 リサの過去、ソルの殺意
狼人族の女性が最後に口にした名前、ソル。
その名に、私は聞き覚えがありました。
トリスター王国の、最近Aランクに上がったという王国期待のPT、炎風……そのPTの1人が迅風のソル。
一方的に知っているだけですが、種族は狼人族だったのを覚えています。
「まさか、あの子のっ、母親……?」
この事を知ったら……あの子は私を恨むでしょうか?それとも殺しに来るのでしょうか?それとも……
「がっはっはっは!良い余興だったぞ!」
ガルドロが立ち上がり、私の元へ歩いてくる。
「やはりお前が勝ち残るか、さすがSランクだなぁ?おい!」
「……」
やはり、シラヌイから情報が引き出されていました。
シラヌイが何処でコイツらに捕まってしまったか分かりませんので……ここに応援が来る事は知っているのか、知らないのか、そこが分かりませんでした。
「さて、バトルで火照ったお前の身体を頂くとするか!」
「い、生き残った者はっ、解放するとっ、言っていましたよね!?」
「俺達が楽しんだ後でな!」
そう言うと、その場に居たガルドロを含む男達5名が……私を快楽の道具にするべく近付いて来ました。
その手には様々な道具に、帰って来れなくなるであろう感覚に陥れる物まである。
「や、止めて……」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
あれから……何時間経ったか分かりません。
私の身体は、あらゆる道具で……完全に壊されてしまいました。
服も無くなり、女性として再起不能な程に……男達の玩具にされました。
男達が満足したのか、必要な物を持ってこの建物から撤退すると言って、部屋から出ていきました。
私の任務は失敗、挙句に私は再起不能に近い状態になって……15人の遺体と共に地面に投げ出されている状態です。
私の上半身は真っ赤に染まり、下半身は真っ白に染まりました。
唯一の幸いは、まだ生きていた事。
奴らも、私はもうすぐ死ぬと踏んでそのまま出ていったので、助かりました。
しかし……もう私は、人の目のある所には戻れない。
罪のない人を殺し、女性としての機能を壊され、恐らく治る事のない深い傷を負わされたのです。
王国に雇われ、人殺しの仕事をしていた私は、違法奴隷を扱う人殺しの極悪集団に全てを壊されました。
これが自業自得とでも言うのでしょうか……?
私は……何を間違えてしまったのでしょうか……?
近くには、シラヌイの生首がありました。
私は、ボロボロの手を伸ばし……シラヌイの生首を胸に抱いた。
シラヌイの分まで生きると誓いました、そして非道極まりないこの惨状を……情報を、持ち帰らねばならない。
こんな被害が、増えないように……
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
「何だ貴様らは!?うわぁぁぁっ!」
外から、あの男達の醜い声が聞こえてきた。
暫く戦闘音が鳴り響き……その音が鳴り止まない内に、私が居る部屋のドアが開かれて、1人の女性が入ってきた。
「なっ……!?何だこの惨状は!?」
黒髪に、ミスリルの鎧を着た女性でした。
見た事があります、炎風PTの……迅炎のレイナでした。
彼女は真っ先に気付いた、私の目が開いて……若干動いている事に。
「い、生きてる!大丈夫か!?……うっ!」
私の惨状を見て、更に顔が歪む。
当たり前です……身体は完全にボロボロになっており、白と赤の液でぐちゃぐちゃになっているのだから……
「ひ、酷過ぎる……」
彼女は急いでポーションを取り出し……私の身体にかけた。
痛みと快感で感覚がぐちゃぐちゃになっていて、訳が分からなくなってしまっていた私の身体は……ポーションにより正しい身体の反応が出来る程に、中途半端な回復をしてしまったのです……
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
私は、ポーションの液体により、快感と痛みで身体が跳ね……絶叫する程叫びました、地面も更に濡れてしまいました。
「なっ!?き、効いていないのか!?」
彼女は慌て出す、もう1つポーションを取り出そうとする彼女の手を、私は握った。
「!?」
「ぐっ……レイ、ナ……さん」
「わ、私が分かるか!?」
「は、い……なん、とか……」
「すぐに、治してやるからな!ちょっとまっ……」
「お待ち……くだ、さい」
私は、彼女が動き出しそうになったのを止めた。
「ポー、ション……では、なお……りませ、ん……。ここ、に……ツキミは、いま……すか」
「ツキミ……暗部隊の副隊長か!勿論来ているぞ!今奴らと戦っているはずだ!」
「彼女に……村、秘蔵の……秘術、を……習得、させて……います。あれ、なら……私を、かいふ……く、させられ……ます」
「よ、呼んでくればいいのだな!?」
「は、い……あと、貴方が……いると、いうことは……ソル、さんも……」
「あぁ、来ているぞ!」
私は、彼女の親であろう遺体を指し示した。
「あの、遺体……ソル、さんの……ご両、親だ……そう、です」
「っ!?」
レイナは私が指し示す遺体を見た。
「……確かに、ソルの両親だ……何度か会った事があるからな、間違いないだろう……」
「やはり……です、か。最後……に、ソル、ちゃんと……言って、いたので……もしやと、思いま……したが。会わせ、るか……は、任せ……ます」
「……分かった、取り敢えずすぐにツキミを連れてくる、死なないでくれよ!」
「は、い……」
レイナは、何かのスキルを発動し……足から炎が噴き出し、急加速して来た道を戻って行った。
「迅、炎の……レイナ、ですか……うわさど、おり……です、ね」
そして、僅か数分で戦闘音が鳴り止み……暗部隊メンバーの一部と、炎風の2人と、王宮騎士団の男女2人が部屋に駆け込んできた。
「リサ隊長!!」
ツキミと、暗部隊の子達が私を見付け駆け寄る……
そして、私の無惨な姿と、シラヌイの生首を抱いていた状況を見て……ツキミは、足から崩れ落ちた。
他の子達も、絶望の顔を浮かべる。
「あぁ、そんな……隊長……シラヌイ……」
ツキミや暗部隊の子達が崩れ落ちる中……別の所でも絶望の声が聞こえてきた。
「パパ……ママ……どうして、どうしてこんな、事に……?」
ソルは、遺体となってしまった2人の身体を抱き締め、冷たくなった身体をその身に感じて……一気に感情が爆発した。
「いやっ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!パパぁぁぁぁぁぁぁぁっ!ママぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「……っ」
ソルは……酷く泣き崩れ、レイナはその背中を見つつ……怒りに震えていた。
私はそれを見つつも、近くで絶望しているツキミに語りかけた。
「ツキ、ミ……よく、つれ……て来て、くれまし……た」
「リサ、隊長……」
「あの、ひじゅ……つを、わた……しに」
「分かり……ました」
その秘術は……死んでさえいなければ、死にかけの人でも回復させる事が出来る。
しかし……その代償が大きいので気安く使えないのです、それは……回復させた対象の感情を奪う事で回復させるというものです。
私は自分の感情を犠牲に、ツキミの村秘蔵の秘術により……死ぬ事は無くなるであろう程に回復した。
しかし……これ以上感情を削れば、無感情の人形と化してしまう事を危惧し、身体の傷を消すことを諦め……取り敢えず死なないように回復した所で止めたのです。
感情を残しておかないと、感情が回復しなくなってしまうからです。
「リサ隊長……」
「あぁ……ようやく、痛みが消えました」
しかし、傷が大量に残り……クスリも抜ける事がなく、身体は熱いままでした。
立ち上がると、ポタッ、ポタッと赤と白と透明な液が垂れ落ちる姿の私をみて、ツキミは布を1枚取り出した。
「……失礼します」
その垂れ落ちる液を布で拭き取ってくれるツキミ、傷も多少回復させる事が出来たので、新たな血は出てきていないようだった。
ツキミも本当は触れたくないはずですが、私の身体を嫌がる顔を見せずに拭いてくれました。
布が肌を撫でる度にビクンと身体は反応するも……私の顔は変わらない。
どうやら私は、羞恥心のような恥ずかしいという感覚が抜け落ちているようでした、これが感情を犠牲にすると言う事です。
液体という液体を全て拭き取ったものの、使えなくなってしまった布を巻く訳にもいかず、裸のまま泣き崩れるソルの元へ向かいました。
「すみません、ソルさん。私が居ながら救えませんでした」
ソルは泣きながらも、私を見た。
死んでいないとしても、自分の親以上にボロボロになってしまった身体、それを見たソルは……
「仕方……ないわよ、アンタだって……死にかけたんでしょう?」
「はい、ツキミの秘術が無ければ、いずれは死んでいたでしょう」
「それなら……アンタを責める理由なんて、無いわ」
「いえ、ソルさんには私を責める理由、更には殺す理由だってあります」
「……なんでよ」
「その2人を手に掛けたのは、私です」
「……っ!」
ソルの身体からブワッと風が発生し、私の首元にナイフが突き付けられました。
「ソ、ソル!止めないか!」
レイナがソルを止めようとするが、ナイフは突き付けたまま動かない。
そして、ソルは私に問いかけました。
「何故、殺したの……なんで殺した!!!!!」
悲しみからの怒りが爆発、完全に殺す目で私を見る。
「そのままナイフを突き付けたままでいいです、ここで起こった事を全てお話します。そして全て語り終えてなお、私が憎く殺したいとなら、そのままナイフで首を撥ねてください」
「リ、リサ隊長!?ダメです!貴方はただの被害し……」
「黙りなさい!!」
ツキミが発言中、ソルが別ナイフをツキミの顔スレスレに放ち、黙らせた。
「っ……!」
「アンタは、黙ってなさい」
ソルは、下手すれば人を殺しかねない殺気を放っていた。
「全て正直に話しなさい、さもなければ……殺す!」
「はい、お聞きください」
どうやら私は、恐怖の感情すら秘術により消え失せていたようです。
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