第32話 リサの過去、奴隷になるまで
雪が積もり、とても寒い日の事でした。
私が率いる暗部隊全員、トリスター王国の王様であるトリック王に呼び出されました。
普段裏の仕事を任される時は、私だけが呼び出されて指示を受けるのですが、今回初めて全員招集されたんです。
玉座の間に通された私達暗部隊は、王の前で跪いた。
「暗部隊、王の招集にて参上しました!」
「うむ、よく全員招集させてくれた。感謝する」
「いえ、王の御要望とあらばいつでもお呼び下さい、直ぐに参ります」
「頼もしい限りだ、では本題に入る!ジェイコブ、例の物を」
「ハッ!」
ジェイコブは、王宮騎士団の騎士団長です。
この国には、王宮騎士団と王国騎士団と2つ騎士団があります。
王宮騎士団は少数精鋭で王や側近を守るエリート達、王国騎士団は王だけではなく王国全体を守る大型機関です。
そのジェイコブが、とある首輪を持ってきた。
トリック王は玉座より立ち上がり、それを手に取って私に見せてきた。
「リサ隊長よ、これに見覚えがあるか?」
「はい、奴隷の首輪ですね。ただ色と少しばかり形が違うようですが……」
本来、奴隷の首輪はパズ鉱石という特殊な鉱石で作られており、銀に近い色をしているのですが……
この首輪は金色でした。
「うむ、この首輪なのだが……誰かは分からないが改造を加えたらしく、これを1度付けると契約が自動発動し、外せなくなるらしいのだ」
「なっ!?そのような物、この世にあっていい訳が!……っ、し……失礼しました」
あまりの事に、少し失礼な態度を取ってしまった。
「よいよい、その反応が正しい。この首輪の出処なのだが……この国に先日入国して来たガリレイ商会の商人が、隠し持っていたようだ」
「ガリレイ商会……何故、世界規模に展開を広げる一大商会が、こんな事を?」
「調査が進んでいないのでな、そこまではまだ分かりかねる。しかし、その商人が魔界から来ていた事は既に判明している」
「……魔界、ですか」
魔界と人界は、英雄ヨシヒコとミラリアの活躍により共和……要するに協力して世界を発展させようと、対立して血を流していた歴史を作り替えたのである。
今となっては争うことなく、平和そのものなのですが……
「魔界の誰かが、このような事を?」
「考えたくないが、その可能性がある。暗部隊にはその調査、そして情報を揃えた後にその悪人の暗殺を依頼する!全世界、魔界への調査も必要になる故に暗部隊全員を招集した次第である!全員、各地に散らばり!情報を集めて参れ!!この首輪を発見したとしても、決して付けるでないぞ!!」
「「「「「ハッ!」」」」」
暗部隊全員、私を除いて一斉に動き出す。
各地へ情報を集めに回る際の指示はツキミが出す、私は王に聞きたい事があり残っていました。
「王よ、聞きたい事がごさいます」
「申してみよ」
「何故、その首輪が自動契約で外れないのが分かっているのです?ハッタリだという可能性も……」
「実はな……今ここにある1つと、もう1つあるのだ」
「もう1つ、ですか?それは何処に?」
「……我が王国騎士団の団員が、奴隷の首輪は契約していなければ自由に取り外し出来るものだからと、不容易に付けてしまったのだ……」
「なんと……ではその団員は?」
「今は、行方不明だ」
「……!?」
「その首輪を付けると、所有者と自動的に契約させられ……奴隷となってしまって外そうにも外せなくなっておったのだ。その時は夜勤だった為に、報告は朝になるからと1度仮眠室で仮眠したらしいが、いつの間にか居なくなってしまったと報告を受けた」
「そんな……」
奴隷の契約は、奴隷商人の契約魔法の元行われるもの。
奴隷商人になるにも魔法適正があり、その地域の国や街の許可を貰う必要があります。
なので、地域や国から認められた奴隷商人の奴隷達は、きちんとした法の元で管理されています。
奴隷になる理由も不法の物ではなくキチンとした理由があって奴隷になっています。
しかし……一部では認められていない奴隷商人も隠れて営業している、という闇も存在します。
多分、その中でも力のある者の仕業だと思いました。
「分かりました、その団員の名前と特徴を教えて下さいますか?捜索も兼ねて情報収集に参ります」
「承知した、ジェイコブ!」
「ハッ、ただ今持ってこさせます!」
ジェイコブはたった10分程度で戻って来たので、情報を拝借しました。
「なるほど、情報提供ありがとうございます」
「うむ、決して油断するんじゃないぞ」
「ハッ!」
私はその言葉を、しっかりと耳にした筈……だったんですが、後で後悔する事になります。
あれから1ヶ月……
私達暗部隊は各地に散らばり、全員2人1組で情報収集、私はツキミと共に魔界にあるジズという国に来ていました。
王国から馬車で来ようとするならば、片道で2週間程でしょうか?
ですが私達は忍びですので、それよりも何倍にも早い移動手段を持っています。
私達なら王国から約4日も経たない内に、魔界へ入る事が出来る距離です。
クライシス王国よりは距離が短いのです。
「ツキミ、共和反対勢力の商人はここに入ったのですか?」
「はい、ずっとマーキングしていましたから、間違いはないかと」
ジズの国は、人界とそれ程変わらない街並みではあるものの、少し貧困の差があるように見受けられる。
共和反対勢力の商人が入ったのは、人影のない町外れにある立派な建物……なのですが、入口からではなく裏口からでした。
この裏口は、まず敷地内に入ってから物陰等を縫った先にある扉で、一般人からすれば、物陰の先にドアがあるとは思わない所にありました。
見られたくない物があるから、隠しているんでしょう。
「分かりました、暫く出入りの監視を。私は姿を隠して中に潜入してきます」
「隊長、お気を付けて」
私は、極限にまで魔力と気配を消して……その裏口近くにあるダクトより潜入しました。
ダクト内は暗いですが、夜視という暗闇の中でも目が見えるというスキルを使っているので、ライト無しに潜入出来ます。
ダクトを進んでいると、度々地下の室内の明かりが見えるので毎回覗いてどんな部屋かを確認しました。
「奴隷の部屋が並んでますね」
奴隷達は、鎖で身動きが取れないようで……粗末な服やボロボロの私服を着せられ、ほとんど裸に等しいような女性や女の子も居たりしていました。
……中には、男女に交わらせてどちらが先に果ててしまうかの賭け事をしている奴らも……
「クソ猿共が……」
私は怒りに震えましたが、バレる訳にはいきません。
助けたい気持ちをぐっと堪え、情報を仕入れていきます。
ちなみに首輪の色を見ると、1階は通常の奴隷商館らしく法に乗っ取った奴隷でしたが……ダクトから見える地下の奴隷達は金色でした。
「金色……ビンゴです」
更に奥へと忍び込み、リーダー格の人を探します。
行き止まりに近い所にも部屋を覗けそうだったので、そっと覗いてみると……
先程裏口から入った商人と、リーダー格と思われる男、そして研究員らしき人がソファーに座って酒を煽っていた。
「このリーダー格の男……何処かで」
私は、その時は思い出せなかったんですが……
この男はガリレイ商会創業者の息子、長男のレイザスの側近であるガルドロという男だったんです。
「今日も奴隷が売れてますよぉダンナ!」
「ふっ、俺好みに調教した女どもだ、どんな相手にも発情して股開くだろうよ!」
「ひゃー、おっかねぇですなダンナは!こちら、契約の売上4割と少しばかりイロ付けてありますゆえ、ご確認を」
白硬貨が大量にリーダー格の男に渡される。
「5割か、良いのか?」
「ええ、ダンナのお陰で儲けさせて戴いてますから!」
「そうか、ならば頂いていく」
ガルドロは、金を金庫にしまいこみ、隣に居た研究員と話し始めました。
「首輪の研究は進んでいるか?」
「勿論です、今回は命令に歯向かうと電流が流れるようにしてみました、まだ実験はしていませんが」
「ほう、お仕置には丁度いい!」
そう言うと、ガルドロは急に上を見上げる仕草を見せたので、私は頭を引っ込めたのですが……
「丁度今、獲物が近くに居るようなのでな」
「……っ!?」
私の隠密が、見破られていました。
捕まる訳にはいかないので、咄嗟にダクトを破壊し走って逃走しました。
ダクトに留まっていると移動が遅くなるので、逆に捕まると判断したんです。
「出口を塞げ!奴隷ども!」
ガルドロがそう命令し、指を鳴らすと……手枷が全て外れ、首輪が赤く光り出す。
命令が首輪に届いたようで、奴隷達が私の行く手を阻みに来ました。
そして逆らった者が1人いたのですが、首輪が光ながら首を締めていた。
「な、なんて事を!」
首輪は無理矢理外そうとすると、相応の苦しみを味わう。
私には……あの者は救えませんでした。
奴隷達を傷付けないようにしながら避けて走り続けたのですが……
後ろから何かがジャンプをしてきて、私にのしかかりました。
奴隷達何十人と多くて、後ろに気が回らなかったんです。
私の背中には……身体がゴーレムになり、顔だけがガルドロの状態で私にのっていました。
銀で出来たゴーレムで、刃が通りそうにない……
「捕まえたぞ、ドブネズミが」
そう言って、私の首に……先程の電気が流れる金色の首輪を、付けられたんです。
私は、不覚ながら……奴隷になりました。
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