第30話 シャインPTとファンクラブ

 足取りが重い、アレだけの事をしてしまったんだから当たり前だよね……

 2階にある執務室から出て、1階の受付のある広場へと階段を降りていく……

 すると、私を守るように壁になってくれていた人達や、私に駆け寄ってくれた人、その他あの場に居合わせた冒険者数名が私に駆け寄ってきた。


「カオリちゃん!」


 代表なのか、1人声を掛けてきたのは……私の背中をさすってくれた女性だった。


「カオリちゃん、あの……」

「ごめん、なさい」


 女性が何か言おうとした瞬間、私は割り込むように謝罪し、頭を下げた。


「皆さんを、危険に晒してしまいました……本当に、ごめんなさい……」


 頭を下げ続ける、梅香ちゃんと桜ちゃんが居なかったら間違いなく怪我人が出ていた。

 きっと私に対して怒っている人もいるはず……そう考えていた。


「カオリちゃん……」


 私が相当悔やみ、落ち込んでしまっているのを感じ取る女性。


「……大丈夫よ、双剣姫ちゃん2人のおかげで全員無事だったんだから。それにね、カオリちゃんのおかげでアイツらにお灸を据えてやれたんだから、私達は怒ってないし、逆に感謝してるのよ、ね?」


 女性が振り向くと、周りに集まっていた冒険者達がそれぞれ頷いてくれた。


「当たり前じゃねぇか!あのクソ野郎共、前から知っていたが嫌いだったんだよなぁ!」

「カオリちゃん、心配しなくていいよ、俺達は味方だから」

「僕達の怒りを、君が全て、ぶつけてくれた、感謝。困った事あれば、言う、いくらでも、協力する」


 代表の女性と、その周りに居る3名の男性冒険者もそう答えてくれた。

 この4名に同じアクセサリーが胸にある、PT……組んでるのかな。

 その4名の他にも何名か冒険者が駆け寄って来ていたのだけど、皆が4名の掛けた言葉に頷いていた。


「皆さん……ぐずっ」


 本当に、涙脆い私に戻っちゃったな。


「ありがとう……ございます」


 私は再度頭を下げた、謝罪ではなく……感謝を込めて。


「良いのよ!ハンゾーも言っていたけど、困った事があればお姉さん達に頼ってね?力になるから!

 あ、そう言えば自己紹介してないわね!私はシャロよ、この4人と今は居ないエミーっていう女の子を合わせて、5人でシャインって言うPTを組んでてギルドランクはC、私はそのリーダーなの!宜しくね!」


 そう言ってくれたシャロさんは、軽装ながらも長い槍を背負っており、少しお淑やかな印象がある故に槍がミスマッチな人族女性。


「俺はジャスターだ!まぁ、レイナさんやソルさんの2人に双剣姫2人が居るんじゃ、大した力にはなれねぇかもしれねぇがな!困った時はお互い様だぜ!」


 ジャスターさんは、ドラゴンの角と尻尾があるドラゴン族ってやつだ。

 短髪の赤髪が滾る炎みたく跳ねており、カッコイイ印象がある。


「俺はクレスだよ、このチームの頭脳役をしているから、知識が必要な時は頼ってね」


 クレスさんは、私や梅香ちゃん桜ちゃんの壁になるように前に立ってくれていた、人族の男性。

 眼鏡を掛けていて、喋り方からもとても知的な印象が伺える。

 ヒーラーらしく、ギルドマスターに指示されてヤンキーズを回復させたのが彼だったらしい。


「ハンゾー、僕は索敵、情報収集、を主にしている、他の国や村の情報、いっぱいある、是非、頼って欲しい」


 ハンゾーさんは、とても身軽そうなシーフの格好をしている。

 フードで素性はあまり見えないけど、尻尾があってグルグル巻いている形だ……間違いなく人族ではないね。

 他の国の情報を色々持っているらしく、他国に関する情報は彼に聞くのが良さそう。


「さっきも言ったエミーっていう女の子のタンクが居るのだけど、他の用事で居ないから、また紹介するわね」

「ありがとうございます、私も一応……カオリです、配達の依頼中心にやってます」

「うん、自己紹介ありがとうね。カオリちゃん……今は辛いかもしれないけど、また元気にここへ戻ってくるの……待ってるから」


 あ……シャロさん、私が暫くここに来れないんだと思ってるみたい……

 ちゃんと言っておかないと、でも……正直辛すぎて説明出来る気がしない。


「大丈夫です……毎日ここには通う事になっていますから……」

「えっ、そ……そうなの?」

「詳しい説明は……少し元気になったらします……今は、これで」

「……分かったわ、辛かったら言ってね?いくらでも手伝うから……」

「はい、ありがとうございます……それでは」


 私は、リサの待つ家にゆっくり帰ることにした。



 ーーーーシャロsideーーーー



 カオリちゃんの帰っていく後ろ姿は……とても見ていられなかった。


「……相当落ち込んでるわね」

「仕方ないと思います、殴りたくなる気持ちは分かりますが……やってしまった事実は消えませんから」


 クレスは壊れてしまった壁を見つめながら答えた。


「あんなちいせぇのに、すげぇ威力だよな。しかも瞬間移動しやがったし」


 そう、カオリちゃん自身が稲妻になったかのように、一瞬で移動したのよね。

 雷が一線に残ってたし。


「凄かったわよね……ハンゾー、あんな風に瞬間移動出来る?」

「僕は、無理」

「だよね」


 このPTで1番素早いハンゾーですらあんなスピードは出ない、高速移動は出来ても瞬間移動は無理。


「それにしても、カオリちゃん大丈夫かな……」

「一応ファンクラブに通達しましょう、変な虫が付かないように」


 そう言って、胸にあるアクセサリーを撫でる。


「だな、俺とハンゾーは屋根から見守るとするぜ」

「ジャスター、目立つ、僕1人で、いい」

「んだと!?」

「はいはいやめやめ!喧嘩するんじゃないわよ!」

「そうですよ、取り敢えず明日からは役割分担して、カオリちゃんを守りましょう」


 言ってしまえば、この行為はいわゆるストーカーなのは分かっている。

 今までは、見掛けたら優しく見守るだけにして、追い掛けたりしないでストーカーにならないように注意していたが……

 今回の事があると、またカオリちゃんに被害が及んでしまうかもしれない。

 ストーカーだと思われてもいい……

 カオリちゃんを守りたい。


「一応レイナさんとソルさんには言っておきましょう……あの2人には逆らいたくないわ」

「ですね、それが賢明です。今から言いに行きますか?」

「……いえ、明日にしましょう。多分今日はカオリちゃんの件でいっぱいいっぱいになるでしょうし」

「それが、いい。ギルマスにも、言っておく」

「許してくれるかな?」

「真剣に頼めばいけるだろ、チームの名にかけてって言えばいい」

「まぁ……そこそこ実績積んできたからね、許して貰えるように頭下げましょうか」


 私達は、ギルマスの居る執務室へと足を運ぶのだった。



 ーーーーーーーー



 ゆっくり……ゆっくりと家に向かって歩いていたが、歩いていればいつかは家に着いてしまう。

 寄り道する気分でもない、でも気分が晴れなくて……だからゆっくり歩いていたんだけど、家の門前に着いてしまった


「はぁ……」

「「……」」


 2人もどう声を掛けていいか分からず、ずっと黙ったまま付いてきてくれていた。


「ごめんね、2人とも。折角一緒に依頼やる予定だったのに」

「……んーん、香織おねーちゃんゆーせんだもん」

「さっさとアイツら追い払えば良かったね……」

「だねー……ごめんね、香織おねーちゃん」

「大丈夫、2人はあの場に居たみんなを守ってくれたんだから、こちらこそごめんね……危険な目に合わせてしまって……」

「香織おねーちゃんは悪くないもん」

「そうだよ、アイツらが悪いのに……」

「結果はどうであれ、私はみんなを危険に晒した……それだけで罰を受ける理由にはなるよ」

「「……」」

「さ、入ろっか」

「「……うん」」


 私は、リサが居るならきちんと話そうと、勇気を振り絞って家に入ったのだった。

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