第29話 私の罪
ここは執務室。
今、私はギルドマスターから事情聴取を受けている。
ギルドマスターの隣にはセイラ、向かい合って私、そして私の両隣には梅香ちゃんと桜ちゃんが居る。
私の手は赤く腫れ上がってしまったので、セイラが詳しく状況を話してくれている間に、梅香ちゃんが腫れた所にヒールを掛けてくれていた。
「なるほど、手紙を破られちまったのか」
「……はい」
「それでキレちまったと」
「……はい」
「んあぁーっ」
ギルドマスターは頭に手を付く。
「気持ちは分かる、分かるぞ、俺だってそんな事されたらキレる。ただな、周りの事を考えず暴れちゃいけねぇな……」
「……ごめん、なさい」
あの時の私はどうかしていた、話を聞くに梅香ちゃんと桜ちゃんが一度止めようとしてくれたんだけど……止まらなかった。
私自身、血が上って周りの声が聞こえていなかった。
2人が凄く大きな声で止めてくれたから、早い段階で我に返る事が出来た。
「スキンヘッズは医療所送り、後の3人はその場に居たヒーラーで何とかなったから良かったものの……原因は向こうにあるとはいえ、これであの4人の誰かが死んでいたり、周りに居た無関係の冒険者達に被害があったりしていたら、程度にもよるが……お前、犯罪奴隷堕ちで人生詰んでた可能性もあるぞ」
「……っ」
私はぶるっと身震いし、顔がどんどん青ざめていく。
「ごめんなさいっ……ごめん、なさい……ゔっ……」
私はまたしても泣いてしまった、泣く資格なんてないのに……
梅香ちゃんと桜ちゃんが、私の涙を拭きながら手を握ってくれている。
「ギルドマスターさん!香織おねーちゃんは悪くないよ!悪いのは全部あの人達だよ!!」
「そうだよ!なんで香織おねーちゃんがここまで言われないとダメなの!?」
「……それはな、さっき言ったように周りの冒険者達にまで被害が及ぶ程の大変な事態だったんだ。子供とはいえ、実力者であるお前ら2人なら分かるよな?」
「で、でも!全員あたし達が守ったから!あの悪い人達以外怪我は無かったんだよ!?なのに!!」
「それでも、だ。俺は冒険者を管理する責任者だ、お前達が守ってくれたからといって、被害が及ぶ行為自体を咎めない訳にはいかないんだ、分かってくれ」
「そんな……」
「これが、ギルドマスターである俺の責任でもあるんだ、許してくれ」
「「……」」
2人はそれ以上は言えなかった。
何故なら、あの放電から冒険者達を守れなかった場合……他の冒険者達まで巻き添えになっていたのは、2人がよく分かっていたから。
それ程あの放電は危険だった……それは防御壁の衝撃から理解していた。
そこにセイラが口を開いた。
「申し訳ございません!私があの手紙や指名依頼書を出したのが悪かったのです!それさえ無ければ、それさえ無ければ!!こんな事には……」
セイラは俯きながら、そして膝に置いてあった拳を力強く握り締めながら、後悔を口にした。
「こいつの凄い所なんざ、他にも証明する方法があっただろうに……人の手紙や指名依頼を関係ない他人には見せちゃならねぇ、それは分かってるよな?」
「はい、申し訳ございません……」
セイラは立ち上がり、物凄く深く頭を下げて謝罪する。
「んあぁーっ!どうすっかなコレ、どうすりゃいいんだ?根本的に悪いのアイツらだ、ただやり過ぎた反撃や違反を咎めない訳にもいかねぇんだよな……」
ギルドマスターは考え込む、そして処遇を口にした。
「……セイラ」
「はい……」
「取り敢えずお前は、破られた手紙と指名依頼を出した人達全員の所に赴き、全て事情を話した上で謝罪してくるんだ、まずはそれからだな……行ってこい」
「かしこまりました……」
セイラは執務室から退室していった。
「さて、後はお前だが……」
「ぐずっ……はい……」
私は泣きながらも、ギルドマスターの言葉を待つ。
「普通なら犯罪奴隷行きだ」
「……っ」
犯罪……奴隷、私……誰かの物になっちゃうの……?
誰かに、無理矢理……アレされたり、地獄みたいな労働を、させられたり……?
「ただな……幸いにもそこの2人が守ってくれたおかげで、周りに被害が及ばずに済んだ。それにお前はまだ子供だ、保護者の監視不足ってことで奴隷は無しにしてやるさ、あの2人には後でカオリを良く見ておくようにって注意しておく」
「……!」
「全面的に悪いのは向こうで、加害者であるお前も一応被害者とも捉えられる。それも考慮して一時的にギルドカードを剥奪、そして約1ヶ月の無賃のボランティアをしてもらって、その働きを見させてもらった上で俺の判断を最後にギルドカードを返してやる」
「ボラン……ティア?」
「そうだ、お前には指名依頼が沢山来ている、ギルドカード剥奪しちゃ依頼出来ねぇだろ?だからボランティアとして依頼をしてもらう。そこで働いて得るはずの金を、お前が壊したギルドの修繕費として賄わせてもらう。確か炎風、レイナとソルの家に住んでるんだろう?ならば暫くは金の心配もない、2人にはお前から話して説得するんだ、いいな?それがお前に課した罰の償いだ」
「……分かり、ました」
これでも、めちゃくちゃ緩くしてくれたんだと思う。
普通なら犯罪奴隷……仮に奴隷にならなかったとしても、ギルドカード剥奪から再取得も不可能だったり、数ヶ月は取得不可だったかもしれない。
「本当に、すみませんでした……」
私は立ち上がり、頭を下げて再度謝罪した。
「……お前は本当に良くやってくれてる、活躍は全て俺の耳にも入っているからな。今回の事は、しっかり働いて反省の姿勢を見せてくれりゃいい。俺もギルド内の皆も、お前には期待してるんだからな」
「……はい」
「明日から指名依頼を割り振って与えるように受付に指示しておく、今日の内はゆっくり休んで精神を落ち着かせてこい、いいな?」
「……はい。最後に、良いですか?」
「なんだ?」
「ギルドマスターさんの名前を、教えて貰えますか?私……ここに来たばかりで知らないんです……」
「あぁ、すまねぇ!名乗り忘れたな。俺はクロモンドだ」
「クロモンドさん、ですね。分かりました、それでは失礼します……」
私は、執務室から退室した。
ーーークロモンドsideーーー
「……はぁぁぁ」
俺は、部屋から人が居なったのを確認してから大きい溜息を出した。
「少し厳しい事を言っちまったか……やっちまったなぁ」
あの炎風が連れてきた、最近注目の冒険者……カオリ。
子供なのによくやってくれている、評判はうなぎ登りだ。
そんな子に奴隷をチラつかせてしまうとは、俺もまだまだだな。
それにしても……
「アイツら……よくもウチの冒険者達や受付嬢を侮辱しやがったな……許さねぇぞ、スキンヘッズに帝都め」
俺は、帝都の意地汚い部分が嫌いだ。
何があったか、少し話そう。
トリスター王国と帝都マリンシスは現在仲が良くない、言うならば犬猿の仲だ。
ここは山の幸や農作物が特産だが、向こうは海の幸を特産としており正反対で、この2つを巡り対立している。
ここに海の幸がなかなか入って来ない理由が、これだ。
昔は貿易も盛んに行われていた、海の幸がこちらに入り、向こうに山の幸を送っていた。
しかし……
海の幸がこの国に入ってくる時には、既に傷み始めていたんだ。
海の幸は傷むのが早い、それは理解出来るが、長期保存の為の魔道具だってある。
それを駆使すれば長持ちさせる事も可能なんだ、でも向こうが用意する魔道具はその力が抑えられているとしか思えない程、傷んだ状態で入荷する事態になっていたんだ。
本来の力を出せるなら、問題ないはずなんだがな……
実際、傷んだ状態でも喰える場所はあると我慢して使っていた料理屋から病人が出た。
食中毒ってやつだ。
それを向こうに伝えたんだがな……
『魔道具を積んでいる!納品には問題がない!そちらの管理の問題だ!』
と、言って聞かなかったんだ。
そして暫くして、『そんなに傷むと苦情を押し付けてくるなら流通を止める!新鮮な海の幸が欲しくば、自分達で取りに来るんだな!』と言われ、海の幸の取り引きが取り止められてしまった。
往復する費用だけでも輸送費が2倍になる、そんな事をしてしまえば……市場で流れる海の幸の値段が一般には手が出せない程高くなってしまう。
だからこちらも動く事が出来ず、それ以来ずっと仲が悪いって感じだ。
仲が悪いからこそ、ヤンキーズを裁くのにも慎重にならなければならない。
ヤンキーズを裁くにしても、帝都はヤンキーズの言い分しか聞かないだろう。
「さて、どうしたもんやら」
ヤンキーズの処遇、そして海の幸の流通……
どうにか2つ……いや、片方だけでも上手く解決させる方法は無いものか?
ヤンキーズがやらかした事を偽り無くきっちり証明する方法……そして、止まってしまった海の幸の流通を改善し、傷む前に輸送させる方法……
「そんな都合がいい方法なんて、ある訳……ねぇよなぁ」
俺は頭を抱え、どうするべきか必死に考えつつも、冒険者データの一覧を眺めるのだった。
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