第25話 迅雷少女
私と双剣姫2人で始まった、スパークアクセルによる超スピード追いかけっこ。
2人は森から出そうになった瞬間に方向転換しているのを見るに、どうやら追いかけっこ範囲は森の中だけらしい。
それに2人が別方向に逃げるような事もない、木や魔物の避け方はそれぞれ別だけどね。
「はぁ、はぁ……全然差が縮まない」
スピードを合わせてくれているのか、双剣姫2人との差が広がらなければ縮まりもしない……
まぁ、前を走ってくれてるおかげで、木々の避け方とかステップのやり方や動き方を勉強出来るからいいんだけどね……
でも、ちょっとだけ悔しいかも。
「ひゃー!森の中駆け巡るの気持ちいいねー!」
「ねー!」
そんな事言いながら2人は息を切らす事なく走っている……私はアウトドア派で体力には自信あったんだけど、そろそろ体力がきっつい……
「ねぇーっ、2人共ー!はぁ、体力はっ、大丈夫なのー!?」
追いかけっこの途中なので、走りながら2人に声をかけた。
私の声からして息が上がっているのもわかってくれる、はず。
「大丈夫だよー!」
「あっ!香織おねーちゃんにスタミナバフするの忘れてるよ、おねーちゃん!」
「ホントだ!?香織おねーちゃーん!そのままあたしに向かって真っ直ぐ来てーっ!!」
「わ、わかったー!何するのっ??」
梅香ちゃんが後ろに振り向き、私に向けて手を伸ばしてスキルを発動した。
桜ちゃんは梅香ちゃんの先導役をして、木にぶつからないように誘導している。
「自己バフ譲渡、スタミナブーストー!てやーっ!」
「!?」
私にバフが掛けられたのが身に沁みて分かる、さっきまでスタミナ切れで息が上がっていたのにそれが無くなっている。
バフを譲渡してスタミナブーストが切れてしまった梅香ちゃんは、再度バフを掛け直して桜ちゃんの誘導を解除した。
「こんなバフが!?」
「このバフは解除しない限り魔力が尽きるまで持続するよー!」
「だから気にせず追いかけてきてねー!」
どうやら2人は、私に会う前からスタミナブーストっていうスキルを使ってスタミナが減らない状況にしていたようだ。
でも、魔力が尽きるまで走れるなんて……こんな強力なスキルがあっていいの?
どうしても気になって、私は背中でずっと黙って見守ってくれているクマのぬいぐるみであるみーちゃんに訊ねた。
「みーちゃん、こんな強力なバフなんてあっていいの?」
「そうだね、カオリの言う通り強力なバフではあるんだけど、本来このスキルには大きいデメリットがあるよ」
「大きいデメリット?」
「うん、このスタミナバフの欠点が体力消費の代わりになっている魔力の消費が尋常じゃなく多いんだ、だから一般人には魔力ポーションを使い続けない限り短時間のバフとしてしか使えないんだよ」
ポーションの種類はソルと服屋に行く前の道具屋さんで聞いているので、それとなく分かる。
魔力ポーションは魔力を回復させるポーションだね。
「そ、そうなの?ああそっか、だから私やあの2人はこうして長く使えるって事なんだね」
「正解、ウメもサクラもそれを分かっててカオリに譲渡してる」
なるほど理解した、梅香ちゃんと出会った時に言ってた「香織おねーちゃんの魔力は凄く分かりやすいし!」って言葉、私の魔力量が尋常じゃないくらい多いって事を知っていたから言ってたんだね。
そう考えると、多分梅香ちゃんか桜ちゃんのどちらかが私とリサと同じ領域の魔力感知を持っていると推測出来る。
「なら、これは2人の魔力が切れるまで戦うか、私が一皮剥けて追いつくのどちらかでしか勝てないね」
「それはカオリ次第かな、双剣姫の思惑を邪魔したくないから私は黙っておくよ、頑張ってカオリ」
「ありがとうみーちゃん!」
双剣姫2人の動きに注目してみる、あれだけすばしっこく動くには何かしらコツがあるはずだ。
私は梅香ちゃんの背後に付き、動きを真似てみる。
「おねーちゃん!狙われたよ!」
「来たね香織おねーちゃん!勝負だー!」
梅香ちゃんの動きが激しくなる、私は何とか梅香ちゃんの動きをコピーする。
「スパークアクセルのステップ中、1歩ごとに移動距離が全然違う……」
右足で踏み込んだら直ぐに左足を踏み込んで方向転換したり、地面を踏み込んだ際の放電量が毎回違ったりしている。
となれば、足で地面を踏み込む度に先を見据えてステップの強さ、放電量、そして歩幅を変えて効率良く動いているって事になる。
「凄いな2人共……あんな風に、動いてみたい!」
まだまだ梅香ちゃんや桜ちゃんのように動く事は出来ない、当たり前だけど……1日じゃ到底2人のような動きなんて出来っこない、でもいくつかコツは掴めるはず!
私の魔力は無駄に多い、それならば私のやる事は1つだけ!
ごめんね梅香ちゃん、桜ちゃん、魔力の限界かトリスター王国に帰る時間まで……とことん付き合ってもらうよ!
追いかけっこを始めて……なんともう3時間経過し、日も傾き始めた。
私の魔力はまだまだ尽きる様子がない、どれだけ魔力あるの私!?
それに対して双剣姫の2人は……
「お、おねーちゃん、あたしそろそろ魔力が……」
「う、うん……あたしも尽きそうだよ〜」
2人はあと少しで魔力が切れそうになって集中力も低下している、まぁこんな状態な2人だとしても追いつけないんだけど……
そろそろ追いかけっこも切り上げたほうが良いかもしれない、城門の時間もあるしね。
あ、ちなみに追いかけっこ中にレイナ達からコールが来たんだけど、双剣姫が居るという事にびっくりしつつもお泊まりOKと返事か来た、だからこの特訓が終わったらみんなで帰ることになる。
「2人共ー!そろそろ帰るよー!もう限界でしょー?」
「うー、もうちょっと遊びたかったのになー……分かったー!」
「じゃあ、出口まで走って帰ろー!」
2人は走る方向を変えて大きい1歩を踏み出した、その瞬間……
「危ない!!」
木々に阻まれて姿が見えていなかった熊の魔物……オウルベアが、2人の目の前に飛び出してきた。
「「あっ!」」
完全に集中力を切らしていた2人は、反応すら鈍くなってしまっていて剣を抜く事が出来なかった。
「……!」
私は思いっきり地面を踏みしめ、放電MAXで地面を蹴り飛ばした。
激しい雷鳴音と共に景色がぐわんと一瞬で変わり……私は、瞬間移動したかのように梅香ちゃんと桜ちゃんの前に出て、オウルベアとぶつかる前に2人を抱き締めた。
「おねーちゃん!?」「危ない!!」
背後ではオウルベアより鋭利な爪を立てた腕を振り下ろされる、回避は……間に合わない。
「……っ!」
咄嗟に私は振り下ろされる腕の前に大量の魔力を放出、雷が盾となる。
「グオァァァ!!」
雷の盾に阻まれ、腕から感電したオウルベア……そしてその僅か0.5秒後に。
「ハァァ!!」
リサが上空から急降下、オウルベアの首がナイフによりはねられた。
「皆さん!無事ですか!?」
「は、はい……!」
「「大丈夫だよー!」」
「あぁ、良かった……カオリ様、遅くなって申し訳ありません……1秒程間に合いませんでした」
いや、梅香ちゃんと桜ちゃんの前に立ち塞がったオウルベアを目視で確認してから、救出までに4秒もかかってなかったから充分な気がするけど……。
「いや、倒してくれて助かりました、ありがとうございます!」
「「ありがとうリサ隊長!」」
「いえ、無事なら何よりです。次こそは間に合うように、私も精進致します」
私達3人のありがとうにリサの顔が少しだけ……緩んだような気がした。
リサより魔力ポーションを受け取り、私と梅香ちゃんと桜ちゃん3人で飲み干して、森の外へと歩き出した。
「それより香織おねーちゃん!さっきのあれ凄かったね!」
「わ、私必死だったからよく分かんなくて……そんなに凄かった?」
「凄かったよー!シュンッて来たよね!シュンッって!」
確かに、あの時私は瞬間移動したかのように2人の目の前まで移動し、抱き締めた。
あの時、魔力全開で踏み込んだら一瞬で移動したんだよね……
スパークアクセルを全力でやれば再現出来るのでは?と思ったんだけど、それはまた今度検証だね。
「あの時のカオリ様、瞬間移動した時に1本の稲妻が見えました」
「い、稲妻が?」
「はい、私がオウルベアに切りかかろうとした時に見えました。カオリ様が居た場所から、オウルベアの手前までを一直線に」
私が稲妻になったとでも言うのだろうか?
自分じゃどんな感じになったのかよく分からなかったから、近い内に誰かに頼んで見てもらおうかな。
「音も凄かったよねー!」
「だねー!まるで迅雷!だったね」
「じ、迅雷……難しい言葉よく知ってるね」
「ゲームに出てくるもん、カオリおねーちゃんは今あたし達と似たような年齢だから……」
梅香ちゃんと桜ちゃんが顔を見合わせた後、頷いてこう言い放った。
「「迅雷少女だね!!」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます