第21話 リサが抱える物とは

 遅めの昼食を食べた後、私は家に戻ってリサから洗濯を教えて貰う事になった。

 前世のような洗濯機!のような便利な道具はもちろん存在しないので手洗いだね。

 ちなみにソルは、する事がなくて暇なのか「レイナの様子見てくるわ」と言って出掛けて行った。


「桶に水を張り、汚れ落としの粉を入れます。今回水は私が出しますので、1人でやる場合は綺麗な水を多目に用意してください」

「分かりました」


 リサの魔法で桶に水を入れてもらい、汚れ落としの粉……要するに洗濯剤を溶かし込む。


「汚れの多い服系は洗濯板でしっかりと擦ってください、そして薄素材の下着肌着系は洗濯板を使わず、揺すり洗いや揉み洗いするようにしてください」

「はい!」


 聞いた感じだと、前世でやっていたやり方で大丈夫そうだね。

 汚れた服があれば洗濯機使う前に擦ってたし、下着は訳あってよく手洗いしていたからね。

 下着の件は女の子なら分かってくれる人もいるよね?ほら、赤い物と白い物……アレで汚れやすいから、ね。

 基本私はお風呂の桶で洗ってから洗濯機に入れるから、こんな本格的な洗い方はほとんどしないけどやり方は分かる。

 さてさて、洗濯量も4人分と多いから頑張っちゃいますか!


「〜〜♪」


 小さく鼻歌を歌いながらも、汚れや布生地の種類をしっかり見極めて洗い方を変える。

 摘んで擦ったり、洗濯板でゴシゴシしたり、揉んで洗ったり、別桶を用意して浸け置きしたり、様々な洗い方をしてみた。


「……」


 無言でリサが私の作業を見てるけど特に指摘はない、やり方に問題があれば口出すだろうしこれで良さそうだね。

 次々洗っていくと、とある物が視界に入る。


「ほえー……大きい」


 そう、レイナのブラジャーだ。

 あの大きな胸を支えているだけあって大きい、少しだけ分けてくれないかな……

 自分の胸と見比べて、自分のある筈もない虚像の巨乳を撫でる……悲しくなって肩を落とした。


「悲しい……」

「ぶふっ!」


 吹き出す声が聞こえて振り向くと、リサが吹き出して笑っていた。


「ああっ!リサさん笑わないでくださいよ!!」

「くくっ……すみません、ついっ……くふふっ」

「酷いですよもぉぉぉ!!」


 リサさんもこんな風に笑うんだな、普段は鋭い目をしているけど……今は何か母性溢れる優しい顔をしている気がする。


 みんなの洗い物を済ませて干す作業に入る、基本的に洗濯物は午前中に済ませるらしいんだけど、今日は私がやるって事で置いといてくれたらしい。

 日が沈むまで乾かして、乾かなければリサが温風で乾かしてくれるらしいから、取り敢えず洗濯から干すまでの流れは把握しておく。

 これで明日からは私も手伝えるね。


 干す作業も終わり、リサは夕飯の仕込みに入るとの事なので、私は廊下の掃除を始める。

 掃除機!といったような便利な道具はない、だから箒でサッサッと掃いてしまおう。


「〜〜♪」

「何だか今日は上機嫌だね」


 背中に背負われているみーちゃんが人型に変わって話し掛けてきた。


「仕事が上手くいきましたし、家事も結構楽しいですからね」

「仕事の件は分かるけど、掃除が楽しい?天界は汚れないから掃除もした事もないけど、面倒そうだよ」

「普段からやってる人はそう思わないですよ?私はもう習慣になってますから、みーちゃんもやります?」

「……いいや、遠慮しておくよ」


 みーちゃんは首を振って、ぬいぐるみに変わって私の背中へ。


「もう、楽しいのに」


 みーちゃんの事は気にせずに掃除を再開、取り敢えず今日は掃き掃除だけにしておこう。

 明日以降で時間があるなら拭き掃除しようかな!


 掃除が終わったので、箒を片付けにリビング近くを通り掛かると。


「カオリ様、そろそろ2人が帰ってくると思うのでお風呂の準備をお願いします、湯船にお湯を出して20分で止めてください」

「分かりました!」


 箒を片付ける前にお風呂場へ直行、お湯が出る魔力起動の装置を起動して湯船へお湯を入れていく。

 20分の間に箒を片付けてドライヤーやソルの尻尾手入れ道具も脱衣場にセッティング、そして脱いだ服を入れる桶と身体を拭くタオルも置いてある事を確認、着替えは場所がわからないし自分で用意しているようだから大丈夫。


「……うん、これでよし!」


 少しお風呂場に待機し、20分経ったのを確認してからお湯を止める。

 お風呂の準備が出来たのでリビングに戻ってくると、レイナとソルが丁度帰ってきた。


「ただいま」

「ただいまー」

「おかえりなさい、お風呂の準備出来てますよ!」

「あぁ助かる、汗を大量にかいてベタベタでな……」

「私は見学してただけだから大丈夫だけど、折角だし私も入るわ」

「分かりました!」


 2人は着替えを用意してお風呂場へと向かったので、私は夕飯のお手伝いをしにリサの元へ。


「2人共お風呂へ行きました」

「お出迎えありがとうございます、カオリ様も入ってこられてはどうですか?夕飯の準備はもうほぼ出来ましたので、後は炒めたりするだけでお出し出来ます」

「そうなんですね、ならリサさんも一緒に入りましょうよ!みーちゃんも!」

「うんいいよ、お風呂も気になっていたんだよね」

「いえ、私は1人で入りますので」


 みーちゃんは即答でOK貰ったけど、リサには断られた。

 いつの間にかみーちゃんは人の姿になっていた。


「みんなで入ったほうが楽しいと思いますよ?私とレイナさんの住んでた世界では、裸の付き合いで仲を深めるという話もあるんですが……」

「こ、この世界ではそんな言葉はないです。それに、あまり見られたくないものがあるので」


 リサは胸の上付近を手で抑える、心なしか今までで1番悲しく冷たい目をしている気がする。


「そ、そうですか……なら仕方ないですね」


 メイド服を初めて見た時から思ってたけど、肌を隠しているのはやっぱり見られたくない何かがあるのかもしれない……


「ふーむ……」


 みーちゃんがリサを見ながら何か考えている。


「みーちゃん?」

「……いや、何でもない。それよりお風呂に行こう!気持ちよさそうで気になっていたんだ!」

「あっ、ちょ!みーちゃん!引っ張らないでー!」


 みーちゃんに引っ張られてお風呂場に連れていかれる、めちゃくちゃ力が強くて抗えなかった。


「……」


 ちらっと振り返ると何か思い詰めるようなリサの表情が見えた、何か深い事情がありそう……この件はあまり深く聞かないほうがいいかもしれない。


 結局お風呂は4人で一緒に入り、お風呂から出ると夕飯が出来上がっていたのでみんなでいただいた。

 食べ終わった後も各々自由時間を過ごしており、私とレイナとみーちゃんがソファーでゆっくり中、そしてソルが自室に戻っていて、リサがキッチン周りの簡単な掃除をした後お風呂の準備しようとしていた。

 ふと先程のお風呂前の事が気になってしまって、リサを目で追いかけてしまう。


「む?どうしたカオリ」

「あぁいえ、リサさんの事でちょっと気になることがありまして」

「リサ?何かあったのか?」

「はい、実は……」


 お風呂前にリサも一緒に入ろうって提案を断られ、見られたくないことがあるって言われた時の事を話した。


「ふむ……」

「何か見られたくない傷か何かあるんですか?」

「……」


 暫くレイナが考えるように黙り込む、やっぱりプライベートな事だから言い難いのかもしれない。


「すみません、ほんとにちょっと気になっただけなので」

「……まぁ、いずれ話す事になるだろうがリサのプライベートに関する事なのでな、彼女の承認無しには語れない」

「そうですよね、誰にでも隠したい過去や秘密はありますから……」


 一緒に住むレイナとソルが、リサの秘密を偶然見てしまい口止めされているのではないか?

 私はそう都合よく考えていた。


「すまん、ただ2つだけ言っておく。1つ目はリサの件に関する事件を解決する為に、私達は勅命依頼をいずれ受ける事になる」

「……事件?」

「あぁ、カオリがもう少しこの世界に慣れて……リサの承認を得てからか、もしくは勅命依頼を受けた際には話そうと思う、それまでは待っていて欲しい」

「……分かりました」


 かなり深い事情がありそうだね……

 リサの件で王国からの勅命依頼って事は、表沙汰には出来ない極秘的な依頼である事は間違いない。

 一体どんな事件があったんだろう……?


「次に2つ目は、カオリの能力強化をしたいと考えている」

「私の……?」

「リサの関する事件から、きちんと逃げられるように、な」

「……?」


 事件から逃げられるように……?どういう事?


「勅命依頼があるまで私達はここから離れるつもりはない、その内は守ってやれるからいいんだが……リサに関わる事件はとある国の中で起きた事件だったんでな、だからカオリにも被害が及ぶ確率が0ではないんだ。だから私達が勅命依頼を受けてここから離れた際は、カオリ自身でも身を守れるようにしておきたいんだ」


 森の中にいた際にレイナが言っていた「国もルールを決めたり犯罪を取り締まったりはしているが、事件が起きてからでは遅い……自分の身は自分で守れなきゃいけない」って事か……

 あの時レイナはなんでそんな事を言っていたのか、私は地球基準が異世界基準に変わっただけの感覚で考えていたけど……

 もっと真剣に考えなきゃいけない話だったんだと感じさせられた。


「……分かりました、もっと自分の力を磨く努力をしたいと思います」

「そうしてくれると助かる、私達もリサを説得してなるべく早くカオリに伝えられるようにしておくから」

「はい」


 私は、きっと魔物への恐怖心を克服する必要がある……そう感じた。

 国内で起きる事件に巻き込まれる事になれば人と戦う事にもなりかねないし、逃げるなら人数を連れて国外逃亡だって有り得る。

 そうなった場合、戦えない人達の為に道行く魔物とも戦う必要だってある。

 1人なら能力を使って逃げればいい、だけど人数を連れての逃亡の場合そんな事は出来ない。


 この考えも随分な拡大解釈だと思われても仕方ないと思う、でも……異世界小説とかを読んでた私には、この考えが有り得ないって断定はとてもじゃないけど出来ない。

 それにレイナがこんな真剣に話す内容なんだから、きっと……かなり闇が深い話なんだと思う。


「私、強くなります。2人が留守にしていても自信持って行ってらっしゃいって言いたい。そして2人からもカオリなら大丈夫だと、そう思われたいです!」

「カオリ……ありがとう」


 私は強くなる事を宣言して、魔物への恐怖心を克服すると心に決めたのだった。

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