第20話 ガリレイ商会、そして2人の姉妹
ガリレイ商会に着いた私達、納品用裏口へと向かうと警備員が居た。
「すみません」
「む?君は?」
「こんにちは、冒険者のカオリです。トリス農園からの納品依頼を受けて、商品をお持ちしました」
「おおそうか、なら確認させてもらうぞ」
「はい」
積荷のぶどうを確認し、裏口の扉を開いてくれた。
「ここに必要分降ろしてくれるか?中に運ぶのはこちらでやるからな」
「分かりました」
ガリレイ商会への納品分を品種別に固めつつ降ろしていく、これで向こう側が仕分けする必要がなくなるからね。
あと、箱に付けられている紙が見えるように外側にしておこう、これですぐに中身は何なのか分かるよね。
そして降ろし終わった頃、大柄な男が数人こちらへやって来た。
多分倉庫管理している人達かな?その中に片眼鏡を掛けている商人らしき人も居る。
その片眼鏡掛けた人がこちらに近付いてきた。
「初めまして、自分はガリレイ商会所属の商人、カリオスと申します」
「初めまして!冒険者ギルドのカオリです」
「カオリさんですね、これから納品確認しますので、暫くお待ちください」
「分かりました」
カリオスさんが納品確認していくのだが……
「なんと……品種別に分けられている。そして、個数が分かりやすいように紙を挟んでいる面を外側に向けるという配慮……こんなの初めてです」
驚いた顔をしつつも確認作業をスムーズに進めていく、そして大柄の男達に確認が終わった物から運ぶように指示を出していた。
みんなこういう配慮はしないのかな?ちょっとした気遣いでみんな気持ちよく作業出来るのに。
ものの数分で確認は終わったみたい。
服の内ポケットから紙を取りだし、ペンで何か書いてからこちらに渡してきた。
「確認出来ました、こちらが納品証明となるのでトリス農園に持ち帰り下さい」
カリオスさんから紙を受け取ると、そこには間違いなく納品が済んだという一筆が書かれており、ガリレイ商会の印が押されていた。
「確かに受け取りました、ありがとうございました!」
ぺこっと頭を下げて挨拶し、荷車を押して次の配達場所へと向かう。
「……あんなにやりやすい納品作業なんて今までありませんでした、あんな気遣いの出来る素晴らしい子供は見た事が無い。しかも付き添いに来ていたのはこの国の誇るAランクPT、炎風(プロミネンスウインド)の1人……迅風のソルでした。あの子は一体……何者なのでしょうか?」
カリオスは不思議そうな顔をしながら、次の納品先へ向かう私達を見ていた。
そしてもう1つ、私達の姿を見つめていた視線があった事に、私は気付かなかった。
残り2件の納品もスムーズにこなしていった私達、昼前にはトリス農園に戻って来れる程スピーディな仕事が出来た。
「速いのう、もう戻って来たのか」
「はい、ただいま戻りました!これが納品証明になります」
各納品場所から貰った納品証明の紙をルージーンさんに手渡す。
「うむ、良くやってくれた!まだ昼前じゃし……2回目の納品にもいくか?さっきより量は少ないからのぅ、1時間半程あれば終わるじゃろうて」
「はい!ソルさんも良いですか?」
「ええ、カオリがしんどくないのなら良いわよ。疲れてない?」
「それ程疲れてませんね、力持ちスキルのお陰で重くないですし負担もないです」
「分かったわ、でも疲れたらちゃんと休憩するのよ?」
「分かりました!」
「では、頼んだぞい!」
ルージーンさんから新たにメモを受け取る、さっきより数が少なくて、納品場所も2ヶ所だね。
ソルにもメモを見てもらい、早速荷車にぶどう箱を積み込んで間違いがないか確認。
一息入れて出発し、この納品も抜かりなくスピーディに完了させてトリス農園へと戻ったのだった。
お昼の時間は少し過ぎちゃったけど後悔はしてないよ、一生懸命働いた分ご飯が美味しくなるからね!
「ありがとう嬢ちゃん、依頼はこれで終了じゃ!ほれ、報酬を受け取ってくれい」
「ありがとうございます!」
ルージーンさんから小袋を貰った、報酬は6千ノルンと書いてたからこの中にお金が入ってるはず。
この世界に来て初めてのお給料!額は分かっているとはいえ、少しドキドキするね!
小袋を開けて中を見ると、8千ノルンが入っていた。
「あ、あれ?依頼に載っていた報酬より2千ノルン多いですよ?」
「ほっほ!素早く的確に、良い働きをしてくれたからのぅ!その分報酬を増やすのはおかしくあるまいよ、のぅ?ソル嬢」
「そうね、これってどういう事かと言うと、ルー爺はカオリの仕事ぶりを見て気に入ったって言ってくれている証拠なんだから!」
「……!」
私の仕事ぶりを評価してくれて、報酬を増やしてくれたって事?
そんなの日本じゃ考えられないよ……
常に100%の仕事をしていると、会社は120%を求めるくせに給料は増えないし……
やばい所では200%や300%を求めるくせに、残業代が出ない所もあるって聞いた事あるのに……
今回100%で頑張ったら、報酬が30%UPしちゃったよ!
「ありがとうございます!ルージーンさん!」
「よいよい。また来週頃に残りのぶどうも納品予定なんじゃ、良ければだが指名で依頼を受けて貰えんかの?」
指名!?それって頼みたい人に名指しで依頼するって事だよね!?
私Gランクだし、今日初依頼だったのに良いのかな!?
「ソルさん!指名依頼ってランク関係あったりは……?」
「特に無いわね。でもルー爺、指名依頼だと依頼料が少し高くなるわよ?報酬が1万ノルンくらいの依頼であれば、カオリはGランクだから指名料は1000ノルンくらいで大丈夫だと思うけど……いいの?」
「もちろんじゃ、そこまでしてでも是非嬢ちゃんに頼みたいんじゃよ」
「そう、分かった。Gランクの指名依頼なんてそうそう無い案件だから、一応私からギルドに話を通しておくわ」
「助かるわい。では嬢ちゃん、これからもよろしく頼むぞい」
「は、はい!よろしくお願いします!」
ルージーンさんと握手をし、トリス農園を後にした。
「指名依頼、指名依頼かぁ!」
素直に嬉しい、私の仕事ぶりが認められた証拠だもんね!
この世界に来て初仕事だったけど大成功、そして来週に仕事が1件確定したのも有難い。
「やったわねカオリ!」
「はい!嬉しいです!」
ソルの尻尾がブンブンと元気に振られている、そこからも嬉しさが伝わってくる。
可愛い、もふりたい。
ぐうぅぅぅ〜〜
「あぅ……」
お腹の虫さん、いつも自己主張激しいよ……
お陰で3日連続ソルに聞かれちゃった……
恥ずかしい……
「うぅぅぅ……」
「あぁ、もうお昼回っちゃったもんね。私もお腹空いたし、ご飯食べに行きましょっか!」
「はいぃぃ……」
ソルが私の手を握って駆け出した先に、喫茶店のような雰囲気でオシャレなお店があった、ここもソル公認店なんだそうだ。
ここで暫しのBreakTime……私はアイスコーヒーと玉子サンドを注文し、ソルはアイスココアにカツサンドを頼んでいた。
アイスココアにカツサンドって……合うの?
「ここね、昔にこの世界へやって来た転生者2人の夫婦が作ったお店なのよ」
「……なるほど、納得です」
このお店に入る時にも思ったけど、まさしく日本にある喫茶店だよね、この雰囲気。
そしてこのメニュー、食べる物飲む物の8割は日本にある物だった。
「残念ながら、2人共似たような時期に亡くなったようだけどね」
「そうなんですね……」
「そういえば、亡くなって1~2ヶ月くらいした頃だったかしら?その辺りで双剣姫の名前を聞くようになったのよ」
「なるほど、夫婦2人が亡くなったんで双剣姫と入れ替わったって感じですか」
「うんそうだね、正解だよ」
椅子にハーネスを引っ掛けていたクマのぬいぐるみ、もといみーちゃんが小さい声で答えてくれた。
「双剣姫の2人っていつ頃来たんですか?」
「うーん、大体1年くらい前かしら?」
「1年前……」
1年前に姉妹が同時に亡くなった件って……あっ!?もしかして。
私のサポートシステムの説明の際に感じたあの懐かしい感じ……やっぱりそうだったんだ。
ゲームのアバターである悪魔と天使になってたし、遊んでたのも2年以上前だったから少し顔立ちが変わってて分かりにくかったけど……
私の事をかおりおねーちゃんって呼んでくれてた可愛い子達に間違いない。
「あの2人……もしかして強盗にナイフで刺されて亡くなった子?」
「強盗?」
「はい、確か1年前……私の家の近所にある家に強盗が入って姉妹と母親が刺された事件があったんです、姉妹は確かオンラインゲームをやっていて気付かずに刺されてしまったと言われていました」
「あっ、そういえば確かミルム様からの説明の時もオンラインゲームって言ってたわね、もしかしてビンゴじゃない?」
「かもしれないですね」
そんな事を話していると、店員さんがこちらにやって来る。
「お待たせしました、タマゴサンドのドリンクがコーヒーと、カツサンドのドリンクがココアになります」
「きたきた!その話は後にして、いただきましょ!」
「ですね」
「「いただきます」」
一口パクッと食べてみると、日本の味となんら変わらない美味しさだった。
ソルもホッペが落ちるのではと言わんばかりにカツサンドを頬張っている、リスかな?とっても可愛い。
みーちゃんは人前で食べるわけにはいかないのでじっと静かにしててくれている、まぁ本来食事はいらないし本体の休憩になるよね、きっと。
ゆっくりした時間を、私とソルは昼食を食べながら楽しむのだった。
ーーーーーーーーーーー
一方その頃、クライシス王国の王都ブランチの城門から出てくる1人の少女の姿と、城門の近くで人を待つ1人の少女の姿があった。
「おねーちゃん!」
外で待っていた天使の少女に駆け寄る悪魔の少女、この2人こそがSランクPTの双剣姫……天使のウメと悪魔のサクラだ。
「サクラ、行こう!王都トリスタに!」
「うん!私達の香織おねーちゃんに会いに!」
そう、2人は前世でお世話になったカオリがこの世界に転生して来た事を神託で知り、急いで会いに行くことに決めた。
オンラインゲームの最上位を2人一緒に取ってプロになった時から、あまり外で遊ばなくなり会う頻度が少なくなってしまっていたが、2人はそれでもカオリの事は大好きであり大事な姉的存在であった。
1番自由な転生人でもあるので、カオリに会いに行くこと自体は容易い……距離の問題を除いてだが。
「こっからトリスター王国の王都だと……あたし達のスピードでも多分6日~1週間は掛かるかなぁ」
「うん、掛かると思う。馬車だと2週間以上……最悪3週間掛かるもんね」
「早く会いたいね」
「うん、会いたいね」
2人はカオリの拠点となっているトリスター王国へと急ぐ、クライシス王国の王都は魔界に1番近い場所であり、トリスター王国の王都とはかなり離れている。
しかし、馬車も用意せずに2人は走って行くようだ。
「「強双走、スタミナブースト!」」
「行くよ!」
「うん!」
2人は全力で走る、スキルにより無尽蔵な体力と強化された走力を持って……いざ、トリスター王国の王都トリスタへ!
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