2章 配達のお仕事と垣間見える闇

第19話 初仕事の配達

 ミルム様ことみーちゃんが仲間に加わり、全員で一緒に朝ご飯を食べる。

 私はパンにコンソメスープを頂いたんだけど、レイナとソルはそこから更に別に用意してあった肉をパンに挟んで口に放り込んでいく、凄い食欲だなぁ。


「美味しい、今まで見てきた食事ってこんな味だったんだね」


 みーちゃんは気に入ったのかバクバクと食べ進めている。

 神は食事を摂る必要がないが故に、今まで1度も物を食べた事がないって言ってた。

 いつもみんなが食事をするのを見守りで見ていて、めちゃくちゃ羨ましく思ってたらしい。


「まさかミルム様に私の作った食事を食べて頂く事になるとは……こうなると分かっていたなら、もっと豪華な食事を御用意したのですが……」

「いいよいいよ、押し掛けたのはこちらだしね。これでも充分に美味しいよ」

「あ、ありがとうございます」

「ってか、もっと楽にしてくれていいよ?神様だとか関係なく1人の人として接してもらえると嬉しい、これからはカオリと共に居るのだし堅苦しいのは無しにしよう、全員ね」

「よ、よろしいのですか?」

「もちろん!」


 胸を張りドンと叩くみーちゃんだったが、げほげほとむせていた。

 締まらないなぁと思いつつも朝食を食べ終わり、今日の予定を決める事にした。


「今日カオリはどうするんだ?」

「んー、家事と仕事を両立したいと考えてるので、手ごろにやれそうな依頼をこなしてから、余った時間に家事の手伝いをしたいと思います、リサさん良いですか?」

「はい、それではこちらもカオリ様が家に帰られるまで、買い物や私用を片付けると致しましょう」

「うむ、ならば私かソルのどちらかがカオリの付き添い兼護衛をすべきだと思うが、どうする?ソル」

「そうね……そう言えばレイナって騎士団から時間がある時に下っ端達を鍛えて欲しいって言われてなかった?」


 レイナさんが騎士団を鍛えてるの?それって凄いことなんじゃ?

 騎士団って国の兵士とは別にしても、国を守る重要機関の1つのはず……

 昨日のソルの公認店話も踏まえると、2人って凄いんだな……国から認められてるなんて。


「確かに言われているが……いいのか?」

「ええ、私とミルム様2人でカオリを護衛するわ」

「うん、構わないよー」

「ふむ、分かった。それならば私は騎士団の所へ向かうとしよう、夕方までには戻る」


 これで全員のやる事が決まった。

 この世界で初めてのお仕事、不安もあるけど楽しみだな。


「あ、ここの皆さんでコール繋いでいいですか?いざって時に便利だと思うので!」

「そうだな、私とソルとカオリは繋いだままだから、リサとミルムを加えよう」

「かしこまりました」

「いいよー!」


 みーちゃんとリサがコールで繋がり、これで5人各自連絡が取り合えるようになったので、各自目的の場所へ散っていく。


 私はみーちゃんとソルと共に冒険者ギルドに向かった、まぁみーちゃんはクマのぬいぐるみの姿なんだけどね。

 みーちゃんを背負えるようにショルダー風……ではなく、ハーネス型になっている。

 ほら、子供がぬいぐるみを背負う時のやつ。

 ……私、身体だけじゃなく心まで子供になっちゃった気分だよ。


「カオリ、これが依頼板よ!ここに良い依頼が無かったら受付で更に探す事も出来るわ、出来そうな依頼があれば依頼の紙を取って受付に行けばいいわよ」

「分かりました!」


 Gランクの区分に貼り出してある依頼を1つ1つ見ていく。


 ーーーーーー


 カオリが依頼を見ている時、その場に居合わせた冒険者達が優しい顔をしながら話をしていた


「お!ソル様と一緒に居る子が依頼やるみたいだぞ!」

「あの子カオリって名前だってさ、服屋で見掛けた時にそう聞こえたって女仲間が言ってたぞ」

「カオリちゃんね!今日はクマさん背中に背負ってて可愛いね!」

「ホントだ可愛い!!癒しだわぁ……」

「クマのぬいぐるみを持っていてくれてると発見しやすくていいな、もしカオリちゃんを何処かで見かけたとしても、優しく見守るように!ロリノータッチ!困っていたら助ける!これを忘れるな!」

「「おう!」」

「「了解!」」


 実はカオリがこの国に来た初日、知らない所で小さな小さなカオリファンクラブが出来ていたのだが、カオリには知る由もない。

 更にはこのファンクラブが行く末には、凄く大きな団体になって影からカオリをサポートをしていく事になるのだが……なおさら知る由もない。


 ーーーーーーー


「あ!これなら出来るかも!」


 私が手に取った依頼、それはトリス農園が出荷する品を納品先へ配達するお仕事だった、報酬は6千ノルン。

 ソルに「見せて」と言われたので手渡すと。


「あ、この農園知ってるわ、確かブドウをメインに作ってる所ね!ここのブドウはお酒に使われる品種なのだけど、出来上がるお酒が品質が良くて美味しいって評判なのよ」

「そうなんですね!」


 ぶどうのお酒って多分ワインの事だよね?

 私結構呑むから、呑んでみたいなぁ……でもこの見た目だと怒られそうだよね。


「ええ、あそこは老夫婦とその息子夫婦が運営してるのだけど、確か息子が怪我したって最近聞いたわ。それで息子がやっていた出荷が出来なくなったから依頼を出していたのね」

「なるほど、私なら力持ちスキルがありますから出来ると思ったんです!」

「そうね、そのスキルがあれば荷車だって軽々と引けると思うしね。早速受注して行きましょうか!」

「はい!」


 ソルと共にセイラさんの受付口まで向かう。


「あら、ソルさんとカオリさん!いらっしゃい!」

「こんにちはセイラさん!早速なんですけど、これ受けたいです」


 依頼の紙をセイラさんに手渡した。


「ふむふむなるほど、これならカオリさんでも出来ますね。ギルドカードを出して貰えますか?」

「はい」


 ギルドカードを手渡すと、受付を承認してカードを返してくれた。


「これで受注完了です、トリス農園の場所は分かりますか?」

「私が知ってるから、連れて行くわ」

「なら大丈夫ですね、ではお気を付けて行ってらっしゃい!」

「はい、行ってきます!」


 ギルドを出て、トリス農園へと向かう。

 トリス農園は王都の西端の方にあり、少しだけ坂を登った先にある。

 この付近は農園が集まっており、ぶどうを作るトリス農園だけじゃなく、野菜を幅広く作る農園やお茶を作る農園等色々あるらしい。


 冒険者ギルドから数十分程歩いていくと、農園の集合地が見えてきた。


「うわぁ、広いですね!」

「このトリスタの土地の2割を占める広さだからね、国産作物の大体はここに集結しているわよ!」

「天界にはこんな景色はないね、見事な物だよ」


 今まで喋る訳には行かなかったみーちゃんだったけど、人が少なくなったので会話に混ざってくれた。


「農園がないんだったら、天界に住む人達は何を食べてるんですか?」

「天使は魔力を食べるよ、天界には魔力が溢れんばかりあってそれが食事になるんだ。人界に降りた天使も結構居るけど、その子らは普通に人の食事を取っているよ」

「そうなんですね。ってか、ぬいぐるみが喋るのは慣れないですね……」

「そこは慣れて欲しいかな、この状態で居る事が多いんだし」

「ですね、早く慣れますね」

「うん、頼むよ」

「私も早く慣れないと……」


 未だに慣れない私とソル、早く堅苦しさを取りたいみーちゃん。

 立場関係なく気軽に話せるようになるのは、もう少し掛かりそうかな?

 分身体とはいえ神様だもん、そりゃそうだよね。


 こうしている内にトリス農園に到着。

 見渡す限りぶどうの木、木、木!

 収穫がほとんど終わっているので、実がなっているのはもう少数となっている。

 多分成長の遅い個体かな?また近い内に収穫するんだろうね。

 ぶどうの木を眺めていると、近くに建っていた一軒家からお爺さんが現れた。


「おや?君はソル嬢じゃな?」

「久しぶり、ルー爺」


 ルー爺と呼ばれるこのお爺さん。

 後に聞いた所、ルージーンって名前らしい。

 見た目は70台のおじいちゃんに見えるけど、歳の割には背中が伸びている気がする。


「ほっほ!久しぶりじゃのう、今日はどうしたんじゃ?」

「この子、カオリがここの依頼を受けたから、私はその付き添いよ」

「ほう、この嬢ちゃんが受けてくれたんじゃな?」

「はい!精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」


 元気に挨拶してからぺこっと頭を下げる。


「ほっほ!元気が良いのぅ!やっぱり元気が1番じゃな」

「そうね、ルー爺も元気そうで良かったわ。そう言えば息子さんが怪我したとか聞いたけど……」

「あぁ、あの馬鹿息子がやらかしおってな……階段から滑り落ちて骨を折りよったんじゃよ。治癒魔法で骨は治ったんじゃが、少しの間安静にするように言われたんじゃ」

「そうだったんですね、その分私が頑張ります!」

「よろしく頼むぞい。納品の品は今日の早朝に取れたばかりの新鮮なぶどうじゃ、こっちに来てもらえるかの?」

「はい」


 ルー爺さんに連れられて倉庫に向かうと、そこではおばあちゃんとお母さんくらいの歳の2人が納品先に合わせて仕分けとぶどうの箱詰め作業を行っていた、見た感じもうすぐ終わりそうだね。


「この箱詰めが終わった物を荷車に積むところから頼んでよいかのぅ?納品に回る順番はメモしてあるでの、これを見ながら取り出しやすいように積み込むんじゃ。荷車はあそこにあるからの」


 荷車が2台あり、片方は手押しで行けるタイプ、もう片方は動物が引っ張るタイプの2つだ。


「分かりました、お任せください!」


 私は迷いなく手押しタイプを選択、そしてぶどうの入った箱とメモを確認する。

 箱に納品場所と品番、中身の個数が書かれた紙が外れないように箱の側面に付けられている、これとメモを見ながら積み込む順番を考えるんだね。

 品番と個数が違うから、間違えないようにしなきゃ。

 メモによると納品は2回に分けて行うらしく、2回目の納品で積み込む箱も混ざっているので間違えないように確認。


「よいしょ、よいしょー!」


 確認が終わったので、ぶどうの入った箱を荷車へと積み込んでいく。

 納品が後になる場所の箱は荷車の中央付近に、そして納品が早い場所の物は取り出しやすい端の方へ積み込む。


「小さい子じゃのに、凄いのぅ……あの重い箱をすいすいと」

「そうねぇ、前の人達とは大違いさね」


 私の働きっぷりを見ていたルージーンさんとおばあちゃん、私を褒めてくれてるようで嬉しくなる。


 順調に荷物を積んでいく。

 完全記憶があるから品番や積み込み間違いはしない、それでも目や指、言葉でのチェックも忘れない。

 仕事はここなら大丈夫という信頼関係が大事、何か間違いがあれば信頼を失って取引に影響が出てしまうから。

 一応ソルも傍から一緒に確認してくれている、要するに完全記憶と私のチェックとソルのチェックによる3重チェックだね。


 1回目の納品の積み込みが完了、メモと積んだぶどうの箱を見比べて間違いがないか確認。

 ソルと顔を見合わせてコクリと頷く、これで大丈夫だ。

 ルージーンさんからロープを借りて荷崩れ防止をしておく、それ程積荷は高くしないように積み込んだけど念の為にね。


「ほっほ!速いのぅ、もう終わってしまったか」

「え、速いですか?」

「あの馬鹿息子より1.5倍程速いぞい、しかもあの徹底した確認作業……流石じゃわい。前に来た奴らは間違えるわ適当に扱うわで散々だったんじゃよ」

「なるほど……そんな事があったんですね。こういうお仕事は取引先との信頼関係が大事ですから、間違いで信頼を無くすことをしたくないんです」

「ほぅ……」


 ルージーンさんはうんうんと頷き、感心しているようだった。


「ソル嬢が連れて来た人じゃから大丈夫とは思っておったが、予想以上じゃな」

「ありがとうございます!」

「これなら安心して任せられる、では納品も頼んだぞい」

「はい!行ってきます!」


 荷車の手押し棒を握り、ガラガラガラと動かして行く。

 力持ちスキルのお陰で全く重くない、感覚的には……軽い荷物を載せた台車をガラガラと押してる感覚かな?片手でも安全に動かせるレベルだ。


「メモによると、この積荷の4割がガリレイ商会へ納品みたいですね」

「ガリレイ商会はこの世界で1番大きい商会で、発達した街には必ず支店を設けてるくらいの資産があるの。ただ、ここトリスタの責任者……マーチスに、あまり良くない噂があるのよね……」

「良くない噂?」

「ここから遠い場所にあるクライシス王国……そこに本店を構えてるんだけど、そこの創設者が大貴族で、その孫がマーチスなのよ。だから金持ちで我儘で傲慢、そして女遊びも酷いらしいわ……メイドにやりたい放題して、仕事を求める女に手を差し伸べて手篭めにもしていると聞いた事あるわね……」

「ゔぇ……聞いてるだけで気持ち悪いです……」


 そんな貴族に目を付けられたくない、なるべく仕事以外ではそこに近付かないようにしよう。


「商会の仕事に関しては別に悪い訳ではないんだけど、マーチスにはこの王国も手を焼いているみたいね……」

「そ、そうなんですか……」


 今まで良いところばかり見てきたトリスタも、やはり全てが良い所な訳ないよね……少なからず闇はあるっぽい。


「まぁ、納品で困るような事はないと思うわ、気楽に行きましょ」

「分かりました」


 ガリレイ商会に向かって再び歩き出した。

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