第22話 恐怖心の克服

 レイナに強くなると宣言して、あれから1週間が経った。

 あの日から毎日冒険者ギルドで配達系の依頼を完了させ、家でリサから家事を教わる。

 掃除、洗濯、料理、庭整備、買い物と色々手伝いを任されるようになった。


 毎日冒険者ギルドに通い、買い物でもある程度行く店は決まってきているので、よく顔を見る人達からは度々挨拶されるようになってきている。


 そして今日、冒険者ギルドでセイラさんから何通もの手紙を受け取った。

 ギルド宛に届いていたので確認の為に封は切られていたけど、内容は私宛だったり私の仕事に関する感謝の手紙だった。

 一部ピックアップして話すと……


【凄く速くかつ丁寧に、荷物を届けに行ってくれるカオリちゃんに凄く感銘を受けました。次の配達仕事も彼女に任せたいと思います、彼女の仕事に迷惑が掛からないのであればよろしくお願いします】


【嬢ちゃんに納品を任せたのは正解じゃった、納品先からもあの子は一体誰じゃと問い合わせが殺到した程好印象じゃった。次からは指名依頼させて頂くぞい】

 これはトリス農園のルージーンさんだね。


【今まで依頼を受けてくれた冒険者達とは大違いでしたわ。荷物を丁寧に扱い、取引先には物腰良くこちらの事までも考えて行動、発言して下さいます。こういうお方に依頼をお任せしたいと思うのは必然だと思いますわ、なので次の依頼からはその方面でお願い致します】


【周りの噂を聞いて手紙を送らせて頂きました、是非とも我社の配達もカオリさんにお願いしたい!】


 まだまだ数があるけど、依頼場所やら取引先の企業や個人からの手紙が殺到、私をリスペクトする声が沢山上がったのだ。

 これまでにも感謝を述べる手紙こそあれど、短期間にこれ程手紙が届く事などまずないらしい。


 そうそう!実は昨日、私への指名依頼が初めて来たの!

 やっぱり配達は気遣いと信頼が大事、そのおかげで次の仕事も頂けるんだしね!

 それに、数日以内にはルージーンさんからも指名依頼が来るのも確定してるからね、みんなから認められて嬉しいのです!


 そして1番変わった事と言えば、自分の能力向上や魔物の恐怖心を克服する為に特訓の日々が始まった事だった。

 その先生が何とリサだった、もちろん時間が合うならレイナもソルも付き合ってくれてるけど、今日は近場の依頼をこなしている。

 リサが先生になる際に初めて教えて貰った秘密、それはリサが元Sランク冒険者である事だった。


「まさかリサさんがSランク冒険者だったなんて……」

「色々事情があるのです、さぁ次の魔物を探しますよ!」

「は、はい!」


 今私が居るのは、トリスター王国のすぐ隣にある森……そう、私がこの世界に降り立った時の森だ。

 話を聞く限りこの森は弱い魔物しか出ないらしく、奥地だと少し凶暴な個体が居るくらいで、奥に行かなければ初心者に優しい森らしい。


 4日前から魔物に対する恐怖心の克服の為にリサと2人で特訓中、その内容は……


「いましたウルフです、2時方向」


 私やリサから見て2時方向、1匹で彷徨くはぐれウルフの姿を見付け、すぐさまリサに報告を入れる。


「鎖になりて、かの者を拘束せよ!バインド!」

「キャウッ!!」


 リサの拘束魔法でウルフが身動きが取れなくなった。


「カオリ様、他には?」

「……目に見える範囲には居ないようです」

「分かりました、警戒しつつも行きましょう」

「はい」


 索敵の特訓も兼ねて私が敵の気配や魔力を探り、リサに情報を伝えるようにしている。

 最初の内は草木に隠れて気付かなかった個体が居たりしてたけど、リサも同じように索敵してくれているのでその際は注意された。

 でもそのおかげで、気配読みと魔力探りが少し上手くなってきたと思う。


 私は先程バインドしたウルフに近寄る、念の為リサも自分の武器であろうクナイを持ってそばに居てくれている。

 クナイって事は忍者なのかな……?でもメイド服だから想像が出来……いや、案外アリかも?

 ……いけない、目の前の事に集中しなきゃ。


「グルル、ガウ!!」

「……」


 突然拘束されてこちらを睨みながら怒っているウルフ、そりゃ怒るよね……。

 私は手を伸ばし、魔力を手のひらに集める。

 バチバチッと放電を始め……


「ごめんね……はっ!」


 手のひらに溜めた魔力を解放、雷をウルフに向けて解き放った。


「ぎゃっ!!」


 ウルフが雷に撃ち抜かれ、一瞬で息絶えた。


「……ふぅ」

「お見事ですカオリ様、そろそろ慣れましたか?」

「少しずつ恐怖心は消えてきましたが、リサさんのバインドがあってこそです……動いているのはまだ少し怖いです」

「この程度で怖がっていては先は長いですよ!さぁ次です」

「は、はいっ!」


 今でこそマシだけど、リサは凄くスパルタだった。

 魔物と対峙してさぁ戦え!だったからね、何を言ってるんだって思った。

 リサ曰く、魔物にやられて恐怖心を植え付けられたのであれば、その魔物を倒せるようになれば克服出来ると言われた。

 要するに、恐怖心の根本を変えて治すという荒療治だ。

 最初こそこれはダメでしょ……とは思ったけど、リサのサポート付きだったしレイナから聞かされた話の事を考えるとリサの厳しさは理解出来る、だから何も言えなかったし言うつもりもなかった。

 実際、そのおかげでバインド状態の魔物なら倒せるくらい恐怖心はマシになってきたからね。


 ちなみに、魔物を討伐する事に対してはあまり抵抗を感じなかった。

 元々異世界小説やアニメを見ていたから、こういう世界だと分かっていたのが大きいかも。

 それに1度意識せずにウルフを丸焦げにしてしまったからね……初めてなら抵抗あっただろうけど、無意識にやっちゃってからから気にならなかった、恐怖心と討伐する事は別感覚みたい。

 後、剣で切るとかではなく雷で貫くなので討伐したという感覚が薄いのかもしれないね。


 暫く森の中を歩いていると、遠目に体格のでかい豚の顔をした魔物の姿が見えた。


「あれは……オークですか?」

「はい。少なからず知能があり、木と石を使って槍を作りそれを武器にしています。遠距離攻撃が出来るカオリ様なら比較的安全に戦えますが、万が一に槍の間合いに入られた場合はすかさず距離を取ってください。今回はバインドしますが、近々そのまま戦ってもらいますからね」

「わ、分かりました」


 オークの背後に回り込み、そして拘束魔法を放つ。


「鎖になりて、かの者を拘束せよ!バインド!」

「ブオォッ!!」


 上腕付近から拘束され必死にもがくオークだが、咄嗟にこちらを見てきた……私達に気付いたようだ。


「勘がいいですね、気付かれました。こちらに来る前に仕留めてください!」

「はい!」


 腕をオークに向けて魔力を手先に流していると……遠くから濃い魔力を持った何かが2つ、素早くこちらにやってくるのを感じた。


「「!?」」


 2人共に魔力探知は最高レベルの物を持っているのですぐさま感じ取れたものの、それによりオークから視線を外してしまい……気付くとオークがこちらに突進してきていた、もう数mの地点にまで。


「しまっ……!?」

「カオリ様!!」


 私は急な事で身体を動かせなかった、咄嗟にリサが反応し動き出したのだが……その瞬間。


「「疾風剣!」」

「っ!!」


 風のように速くオークを切りつけて通り過ぎた2つの影、オークは真っ二つになって倒れ込んだ。

 リサの反応でも間に合ったと思うけど、それよりも早くオークは影により討伐された。

 その2つの影は私達の近くで止まり、私を見た。


 懐かしい声だなって思うと共に……見た目は違えど久しぶりに見た2人の姿に、私は涙を流した。


「桜ちゃん……!梅香ちゃん……!」

「「香織お姉ちゃん!!」」


 2人は私に駆け寄り抱きつき、私は抱き締め返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る