第13話 ソルの舌は絶対

 ソルがお手本として見せてくれたウインドアクセル、今から私はアレをやるらしい。

 同じ要領でやれば、雷属性バージョンのアクセル技になるんじゃないかとレイナとソルは睨んでいた。


「あんな高速移動、私に出来るんでしょうか?」

「やってみない事には分からないが、アレが使えたら逃げるにも攻めるにも役に立つからな、使えて損は無いぞ」

「確かにそうですけど、ミスったら壁に激突しちゃいそうです……」

「さっきやった魔力の強弱練習を思い出してやれば大丈夫だ、最悪ぶつかりそうなら私達が助けるよ」

「うにゅ……分かりました」


 万が一があれば2人が助けてくれるみたいだし……覚悟を決めてやるしかないね。


「……よし!」


 私は魔力を足へ集めていく、ソルのお手本だと風を発生させていたから、私の場合は放電させるでいいかな。

 足回りで放電を開始、バチバチッ!と弾ける音が聞こえ始めた。


『ソル、万が一壁にぶつかりそうなら頼む』

『了解!』


 レイナはソルにコールで注意を促す。

 ソルはお手本を見せて壁端に移動したまま待機してくれていて、手を振ってOKって合図もあった。


「カオリ、最初は弱くでいいから少しずつやるんだぞ。地面を蹴る時一気に弾けさせるんだ」

「分かりました、では……行きます!」


 右足を前に出す、バチバチッと弾ける音が準備出来たと言っているように聞こえる。

 右足で床を踏み込み身体を前へと動かす、そして床を蹴る瞬間に雷を弾けさせて、前進する力を増幅させる。


 その時、世界が変わったかように感じた。

 普通に走るスピードじゃない速さで、景色が変わっていく……1歩で普段の何倍もの距離を進んでいた。

 でも、不思議な事にこのスピードに思考も身体も順応し、2歩目も先程と同じように床を蹴っていた。

 分かりやすく言うと、極限な集中状態だと周りが遅く感じるアレのもっと凄いバージョンみたいな感じ、周りがスローモーションに見えるって表現が近いかな。

 ソルがもうこんな近くに……止まらなきゃ。

 私は3歩目で雷を解除したが、勢い余って倒れそうになった所をソルが受け止めて支えてくれた。

 スキルとしては覚えなかったものの、1発成功だった。


「大丈夫!?」

「あ……はい、大丈夫です」


 雷を切るタイミングを間違えていたら、壁に大穴が空いたか身体がぺしゃんこになったかもしれない……助かった。


「やったわねカオリ、大成功じゃない!」

「上手く出来てましたか?」

「ええ、1発成功だなんて凄いわ!」

「えへへ……ありがとうございます」


 ソルがぎゅっと抱き締めてくれている、温かくて良い匂いがするなぁ……

 ふと尻尾を見ると、元気よくぶんぶんと振られていた。

 喜んでくれてるんだな、と嬉しくなる。


「後は回数こなして、制御出来るように練習ね!ほらカオリ、レイナが向こうで待ってるわよ」

「はい!行ってきます!」


 先程と同じようにレイナの元へ向かう。

 1回やって何となく力加減は分かった、だから勢い余って壁に激突して人型の大穴が!!なんてヘマはしない。

 時間が来るまで、何度も行ったり来たりを繰り返した。

 てか……この技も魔力使ってるよね?でも魔力が全然無くなりそうにない。

 そう言えば私の魔力量がえぐいらしいけど、もしやチート……?


「……そろそろ3時間だな、2人共!そろそろ出るぞ!」

「「はーい!」」


 集中して特訓してたから3時間はあっという間だったけど、少し疲れたかも。

 昨日から歩きっぱなしだったしね。


 忘れ物がないか確認して、訓練室から退室した際。


 ぐうぅぅ〜

「あっ……」


 またしてもお腹が鳴ってしまった、昨日もソルに聞かれたばっかりなのにいぃぃぃ……

 恥ずかしくて手で顔を隠す。


「ふふっ、あれだけ頑張ったんだからお腹も空くわよね!ご飯食べに行きましょっか!」

「ふむ、それなら街の案内を兼ねて屋台を見て回ろうか」

「そうね、そうしましょ!行くわよカオリ!」

「うぅ〜……」


 ソルに手を引かれて歩き出す。

 ソルってご飯食べるのが好きなのかな?屋台で食べると分かった途端に分かりやすく反応していたしね、新しい一面が見れて嬉しい。


 ギルド内で私を連れて歩く2人の姿は何だか楽しそうに見えた。

 ソルなんて尻尾で丸わかりだしね、現にソルの尻尾は楽しいと表現しているかのように機嫌よくふりふりしている。

 もふもふ……可愛いなぁもう!

 学生時代に学校でケモ耳が!尻尾が!ってゲームキャラを崇めてた男子が居たけど、今なら気持ちが分かる。

 確かにアレをみたら夢中になるね。


 冒険者ギルドから出て、噴水がある大きめの広場へとやってきた。

 そこには食べ物の屋台や装飾品売りの屋台、野菜屋さんやお肉屋さんの建物がずらりと並んでいた。


「おお!いっぱい並んでますね!」

「でしょ!ほら、こっちから行きましょ!私のオススメしたいお店があるのよ!」

「ちょ、ソルさん!?待ってください!転けますってばぁぁぁ!」


 ソルに手を引っ張られながらオススメのお店まで連れて行かれた。


 ーーーーーー


「……あっという間に仲良くなったな、これで安心だ」


 カオリがソルに連れて行かれるのを見つめながら呟いた。

 ソルがカオリを受け入れてくれるか最初こそ不安だったが、杞憂だったな。

 ソルの好みは分かりきっているから急いでついて行く必要もない。

 ゆっくり歩こうか、あの状態のソルはなかなか手を付けられないからな。


 歩きながらになるが、折角だからここで少しソルの話をしようか。

 見ていて気付いた人も居るだろうが、ソルは凄く食べるのが好きなんだ。

 ソルが食べて気に入られたら、そのお店は必ず繁盛すると、この国では言われる程のな。

 言葉にするならば……グルメ家や料理の評論家って感じだろうか?


 この王国は海が遠い故に海の幸こそ少ないのだが……魔物や畜産の肉、作物等も結構良い物が入ってくる。

 だからこそグルメであるソルと一緒にいると必然的に舌が肥えてしまう、そしてお腹周りも……いや!私は太ってないぞ!?筋力こそあるがまだ重くないからな!?

 ……それはさておき、ソルが気に入ったお店は絶対にハズレはない。

 ソルが連れていこうとしてるお店は、方角的に恐らく肉サンドのお店だろう。

 アレなら確かにきっとカオリも気に入ってくれるはずだ、何せ日本に馴染みがあるような味で、私も親しみやすかった食べ物だったからな。


 ちなみに、この世界は日本と酷似した食材とお肉に魔物肉が使われているくらいで、さほど変わりはない。

 もちろん魔物肉だけじゃなく、日本でいう牛や豚、鶏に酷似した家畜も居るから日本で食べた料理の再現も可能だし、ちゃんとお米らしき物もある。

 まぁ……私は料理苦手なのだがな、焼くことにしか脳がないんだ。


「ほらレイナ!早く行きましょ!」


 ソルがこちらに振り向いて手招きしている、カオリも楽しそうな顔こそしているが……ソルの急変に少々戸惑っているようだ。

 私はもう慣れたものだが、カオリはまだ出会って2日だ、この状態のソルに慣れてもらわなければな。


「すぐ行く!」


 結局私は、駆け足でソルとカオリの元へと急いだのだった。


 ーーーーーー


 ソルがオススメしている肉サンドのお店にやって来た。

 お昼のピークは過ぎているはずだけど、人が多く感じる。

 列に並び、10分程で順番が来た。


「お!ソルちゃんじゃねぇか!」

「また来たわよおっちゃん!今日は6つよ!」

「あいよっ!ちょいと待ってろよ!」


 ガタイのいい店主が次々と肉にタレを付けて焼いていく、その隣ですらっとした美人さんがパンや中に挟む野菜の仕込みをしていた。

 夫婦でやっているのかな?阿吽の呼吸が如く手際よくスピーディに肉サンドが出来上がっていく。


「みて!ソル様が肉サンドを頂くみたいよ!」

「あら、本当ね!ここがソル様公認店になってから凄く繁盛したそうですわよ!ワタクシも頂いてみましたが、本当に美味しい品でしたわ!」

「ソル様の舌は本物よおぉぉぉ!おーっほっほっほ!!」


 周りに居た貴族らしき方々がソルの話をしていた。

 若干1人ズレてる人居た気がするけど気にしない。


「公認店?」

「ソルの舌は評論家並に凄いんだぞ?この国では、ソルが認めた店は必ず流行るしハズレはないと言われている。この店がその1つで、ソルの公認店となっていて国もそれを認めているんだ」

「そ、そうなんですか!?」


 凄い……貴族様や国にまで信用されてるんだ!!

 そう考えると、ソルってめちゃくちゃすごい人なのかも。

 そういう国の認めた料理って、日本で言えば高級店なイメージがあるけど、この世界だと庶民的なお店もこうして認められたりするんだね。


「へいお待ち!!」

「頂くわねおっちゃん!はいお勘定!」


 ソルが3000ノルンを支払ってお釣り無し、肉サンド1つが500ノルンらしい。


「おう!また来いよ!」


 手を振って店を去るソルに店主が手を振り返していた。


「お待たせ!カオリにこれを食べて欲しかったのよ!」


 ソルから肉サンドを受け取った。

 中の肉が何肉かは分からないけど、肉につけていたタレがキャベツやパンにも染みているようで美味しそう。

 パンはロールパンのような形をしていて、中央が縦に割られてその間に野菜と肉が入っている。

 イメージするならば、ホットドッグのソーセージがこの世界のお肉に変わった感じ。


 噴水の近くに長ベンチが用意されており、1つ空いていたので3人で座る。


「あっ、食べる前にお金払います!えっと……」


 ポーチに手を入れようとした瞬間、ソルに手を止められた。


「いいわよお金なんて、私がカオリに食べて欲しくて買ったんだから!」

「……じゃあお言葉に甘えて、いただきます。あむっ」


 1口パクッとかぶりついた。


「んむんむ……んんっ!美味ひい!!」


 1口しっかり味わってみたら凄く美味しくて、2口3口と口が止まらない!

 お肉からは肉汁が溢れ、その肉汁とタレが絡み合ってパンやキャベツとも相性がいい。

 お肉は多分牛肉に近いかも、日本に居た頃の親しみやすい味な感じがする。

 やばい!美味しい!!


「あぐっ、はぐっ!」


 私は夢中になって肉サンドを食べ進めていく。


「あら!あの子凄く美味しそうに食べているわね!」

「ソル様と一緒に居た子ですわ!あんなに夢中になってモグモグしちゃって……可愛いですわぁ!」

「ソル様が連れて来た子だもの!当たり前ですわっ!おーっほっほっほ!!!」


 先程の貴族様達にチラチラ見られてる気がするけど、気にしない!

 やっぱり1人ズレてるってか変な人が居るけど、それも気にしない。

 あっという間に1つ食べ切って2つ目に突入する。


「凄い食べっぷりね」

「良かったなソル、かなり気に入ったようだぞ」

「そうね、連れて来たかいがあったわ!私達も食べましょうか」


 ソルとレイナも肉サンドを頬張る。

 途中でソルが水を入れてくれたので飲んで食って繰り返す。

 美味しすぎてあっという間にペロリと食べてしまった……!


「ごちそうさまでした!美味しかったです!」

「良かった、気に入ってくれたみたいね」

「はい!また食べたくなる味でした!」


 夢中になってがっついちゃったから、2人はまだ1つ目を食べ終わるくらいだった。

 2人が食べ終わるまで背もたれに身体を倒して周りを見渡していたんだけど。


 こっくり……こっくり


 眠い……頭がかくんかくんと落ちそうになる。

 森から出てきて特訓して、さすがに疲れてたのかも……


「……ぐぅ」


 お腹が満たされて眠気を誘い、眠ってしまった。


 ーーーーーー


「……?あら」

「すぅ……すぅ……」


 静かだなと思って隣を見てみたら……寝ちゃったみたいね。


「レイナ、レイナ」


 レイナを小声で呼びながら肩を叩き、カオリの方を指差した。


「ん?どうし……あぁ、寝てしまったのか」

「ええ、お腹が膨れて寝ちゃうなんて可愛いわね」

「ふふ、確かにな。まぁ、慣れない森を歩いて特訓までしたんだ、疲れてて当然だろう」

「そうね、起きるまで少し待って、起きないようなら家まで背負って帰りましょっか」

「そうしよう、案内なんていつでも出来るからな」


 私とレイナは、カオリが起きるまで少し待つ事にした。

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