暁雨




 ああ情けねえな情けねえよ。

 結局、年下の、うんと年下の俺に背中を押されでもしないと、動く事ができないなんて。

 嗤ってしまう。

 腹を括ったはずなのに、まだ緊張と恐怖で手が震える自分にも。


「怖いよ。また暴力を振るわれるんじゃないかって。恐怖は消えない。きっと、ずっと。それに一緒に居て。梅田さんがまた俺に暴力を振るってしまうのかもしれない。梅田さんも俺も嫌なのに。嫌なのに、嫌な事をしてしまう時もある」


 過去も現在も未来でさえ、恐怖に怯えてしまう。

 消えやしない。

 けれど。


「一緒にさ。一緒に。考えよう。話そう。片手読みをしよう」


 時には、隣で。

 時には、後ろで。

 時には、前で。


「俺はやっぱり梅田さんと会いたい。これからも」


 目線は逸らさない。

 俺も梅田さんも。


「私は」

「うん」

「私は君に甘えっぱなしだな」


 そんな事はない、と思う。

 そう言おうとした瞬間。

 梅田さんが俺の手を掴んだかと思うと、グイッと彼女の方に引き寄せて、少しだけ前のめりになった俺に向かって、笑った。

 ギュンと心臓を鷲掴みにされた俺は、ぽかんと口を開けた間抜け面を晒したと思う。


「踊ろうか?」

「踊ろう」


 今度は手と手を取り合って。

 足をお互いに踏みつけながら。

 ごめんと謝って。

 ぎくしゃくと滑らかさを忘れた身体を動かして。

 小さく笑って。

 大きく笑って。




 一緒に居よう。











(2022.9.9)


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