地雨





 すまない。


 子ども時代の私の幽霊が見えていないか。と。

 尋ねた梅田さんに続けてもう一度謝られた俺はどうしてか、否定をすれば、間を置いて肯定をすれば、梅田さんが姿を消してしまうと思ってしまって。

 即座に見えていると言おうとしたのだが。

 それより先に。

 梅田さんが手のひらを俺の横に向けて、言ったのだ。


 子ども時代の、恐らく、小学三年生の花婿衣装を着ている君の幽霊が見える、と。


「え?」


 すぐに横を向けばいいのに。

 どうしてか俺は梅田さんの手のひらに視線を固定してから、手のひらが示す方向をちょっとずつ、視線を、顔を動かして、追って。


 横を見ると。


 確かに。

 梅田さんが言うように。

 学年、クラス、名前が書かれている名札を花婿衣装の二の腕付近に縫い付けている、小学三年生の俺の幽霊が、居た。












 (2022.8.16)


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る