積雨








 三十代前半に、ふと、思ってしまったのだ。


 不満なんて抱いていなかったはずなのに。

 順当で平和で静かな生活を送れている日々に、安堵して感謝していたはずなのに。


 どうして思ってしまったのだろうか。


 今の自分が嫌だなんて。


 違う自分になりたいだなんて。


 どうして。


 どうして私は。


 彼を傷つけるだけの甘え方しかできなかったのだろう。


 どうして。


 望み通りに違う自分になれたのに、疲れたと思ってしまうのだろう。


 どうして。


 別れる時に彼に謝れなかったのだろう。


 どうして。


 彼と別れて数年経ってから。

 梅雨の中。

 彼と踊る夢を見ていたのだろう。

 彼に求婚される夢を見たのだろう。

 私が死ぬ夢を見てしまったのだろう。


 どうして。


 小学三年生の時の私が、しかも花嫁衣装を着て、傍に居るのだろう。


 分からない。

 分からなくなってしまったんだ。


 私は何がしたかったのだろう。











(2022.8.4)


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